15.楽しいダンジョンデート
本日は素晴らしいダンジョン日よりとなっております、最高!
朝焼けも綺麗な早朝、ライゼスと二人で冒険者ギルドに来ています。
領主様ご夫妻には、昨晩ちゃんと挨拶できた。お二人とも疲れが見えていたので、挨拶だけだったけれど、ライゼスが後でヒーリングライトをしておくと言っていたので、今日はきっと爽快な目覚めだと思う。
さて、わたしたちも爽快な気分で依頼を物色しております。
朝一番の依頼の掲示がまだ貼られていないとのことなので常設依頼ばかりだけれど、わたしたちは依頼がメインではなくて、ダンジョンに潜ることが目的なので問題ない。
「ではこちらの採取を二件ですね。では、ご安全に」
「はいっ、いってきます!」
朝から爽やかな笑顔の受け付けのお姉さんに手を振って、ギルドを出た。
早朝だけど、ギルドからダンジョンへ向かう巡回馬車は運行している。
冒険者は無料で乗れるそれに揺られて、一番近くて安全な王都第二ダンジョンを目指す。
「ソレイユ、どうしたの?」
繋いでいた手を持ち上げ、絡めているわたしの指にキスしてからライゼスが顔を寄せて聞いてくる。
ライゼスのたっての希望で、本日のテーマは「ダンジョンデート」であり「バカップルデート」であるのです。
「ううん、なんでもない」
小首をかしげて微笑んだわたしの唇に、ライゼスがちょんと唇を付ける。
さ……っ、さすがにはずかしいんですけれどもっ!
一気に頬が熱くなるわたしを、ライゼスが微笑ましそうに見ている。
「ひ、人前で、こういうのは、いけないと思いますっ」
思わず小声で文句を言えば、ライゼスは車内を見回してにっこりとする。
「誰も見てないよ?」
確かに、腕組みをしてうつむいたり、外の景色を見たり、寝ていたり、こちらを見ている人はいなかった。
「見てなくても、ダメです」
メッ! と頬を膨らませると、ライゼスは肩をすくめて「わかったよ」と理解してくれた。
「こんなにかわいいソレイユの顔、僕以外の人に見せるなんてもったいないから、我慢するよ」
理解してない気がする!
ライゼスとのやり取りでちょっと疲れたけれども、三十分くらいで目的のダンジョンへ到着した。
ダンジョンの入り口は門があって、ギルドの職員が二人門番として立っている。
ここはひとつの階層がそれぞれとても広いのが特徴のダンジョンだ。
一階層もとてつもなく広くて、ギルドで購入した地図がなければ、初見だと迷子になること請け合いという、ちょっと怖い場所だ。
わたしは索敵の魔法があるので、人の流れを見れば多分脱出できると思うし、なによりライゼスがいるから、まず迷子になることはないよね。
入り口でタイムカードを押すような専用の魔道具に冒険者証をシャコンと小気味よい音で通して、ダンジョンに入る。
「大きなダンジョンだと、受付の魔道具があるんだね」
「領都にある一番大きなダンジョンにもあるよ。万が一、戻って来られなくなった冒険者の把握にも役立つんだ」
「ダンジョンで死んで、何日か経ったらダンジョンに吸収されちゃうんだっけ? でも、入ったのがわかっても、出る予定がわからなきゃ、生きてるのか死んでるのかなんてわからないよね」
「少なくとも、ここに居るってことはわかるよね」
わかるだろうけれども。
「冒険者は、亡骸を見つけたら、冒険者証を回収してギルドに届けるのが、鉄の掟だけど、冒険者証は吸収されないっていうのも不思議だよね」
「特殊な物なんだろうね」
こんな感じで二人で話をしながら、手を繋いでダンジョンを歩いている。
まったくもって、冒険者らしくない行動だけど、今日のテーマがバカップルなので、問題ない。
索敵の魔法を使っているので魔物の有無も把握していて、居ないところを進んでいる。周囲の冒険者の視線は少々痛いけれど、目的のためなら仕方あるまい。
ライゼスからはなにも言われていないけれど、多分、釣りをするんだと思うんだよね。
どのくらいの釣果が出るかな?
「ペレン草発見っ!」
ちゃんと依頼もこなしますよ。
はじめての場所ではステータス鑑定は常時発動させて、見逃さないようにしてるからねっ。
「十本ひとまとめで、うーん、三束分はないね」
「わたしたちの冒険は、まだはじまったばかりだからねっ!」
そんなにすぐ依頼を達成してしまったらつまらないのですよ。
「はいはい。よし、一束できた」
わたしが状態の良いものだけを収穫し、ライゼスがまとめてくれる。
それを専用の袋に入れて、ゆっくり荷物にまとめた。
敢えて隙だらけな行動をしていたら、索敵の魔法で把握していた不審人物が、三名で行動している別の不審人物たちに速やかに捕らえられた。
三名は不審人物を連れてダンジョンの入り口に向かっている。手際がいいなあ。
「じゃあ、次に行こー! ハイネジアが生えてる場所って、近いんだよね?」
「あまり人気のある区画じゃないらしいけど、質の良いハイネジアが生えているらしいから、そっちに行ってもいいかな?」
ライゼスに聞かれて、大きく頷く。
「もちろんだよ! 人気がないってことは、なにか変わった場所なの?」
「足場が悪いらしいよ。朽ちかけた吊り橋を渡る、って書いてあったから、体格のいい人は行きたくないだろうね」
「橋、ってことは、その下は二階層? 縄梯子とかあれば、下に降りられるのかな」
「いや、さらに深くて、三階層まで抜けているらしい」
「三階層の適正ランクは?」
「ランク六以上ってことになっているよ」
じゃあ、行ける!
「そんなにキラキラした目をしても、三階層には植物が生えてないから、依頼が達成できないからダメ」
「えええ。採取が終われば行けるよねっ」
一生懸命ライゼスを口説きながら、朽ちかけた木の吊り橋にたどり着いた。
幅が十メートルはありそうな底が見えない断崖絶壁に、一人が通るので精一杯な今にも落ちそうな吊り橋。向こう側も見えないけど、低階層なので近づけば明るくなる仕様なんだと思う。
「なんでこの吊り橋はダンジョンに吸収されてないんだろう」
外から持ってきた物は、時と共に吸収されるはずなのに。
「この橋自体がダンジョンの一部だからだろうね」
なるほど?
「じゃあ、行こうか」
「はーい」
吊り橋の前で、繋いでいた手を離して一人ずつ進む。
反重力の魔法で重さをある程度減らして進む。軽くしすぎないのが肝だよね、軽くしすぎて不審に思われたら、うまく釣れないもんね!
前を行くライゼスを手本に、ある程度重さを残して、おっかなびっくりしているフリをする。
「ソレイユ、大丈夫?」
「うん、平気だよ。ゆっくり行くから、ライゼスは先に渡っちゃってよ、その方が揺れないし」
吊り橋の両サイドに渡されている手すり代わりのロープに掴まり、ライゼスにお願いする。
「そうだね、じゃあ、先に行くよ」
ライゼスも了解して、早歩きで吊り橋を進む。
結構な距離があるから、わたしはロープを掴んだままライゼスが渡りきるのを待ってから、歩くことにする。
待っている間ちょっと暇だったので、下の方を観察していたら、壁にはじめて見る植物の名前があった。
「あそこ、ちょっと出っ張ってるんだ……ええと、イルンの若木?」
■イルンの若木、樹齢二百七年、太陽の光を受けると成長が進む、栄養価の高い実をつける。ダンジョン内でしか発芽しない。
栄養価の高い実!
どんな実なんだろう、バナナかな? バナナかな? もしかしてアボカド?
「ソレイユー? 大丈夫ー?」
ライゼスの声に、そういえば今はそれどころじゃなかったと思い出す。
「あっ! いまいくー!」
慎重なフリをしながら、きしむ木の板を踏んでいく。
これは、普通の体重なら、間違いなく踏み抜くね!
とっとっとっと調子よく進んでいると、後ろで「うわあっ!」という声がした。
踏み板の端を歩いたのかな?
ギルドで買った地図にも、ちゃんと注意書きがあったんだけどな、真ん中を歩かないと板が抜けるって。
わたしはへっぴり腰のフリしてロープに掴まって橋の端を歩いてるけどね。
さっきの泡食った声のあと、数名で「馬鹿野郎っ」「掴まれっ」なんて声が聞こえたので、落ちずに済んだコトがわかる。
板の真ん中だとしても、荷重制限はあるので、いっぺんに乗ったら危ないんだけどな。
「うわああああっ」
「うわあぁぁぁ」
案の定、悲鳴が下に落ちていく。
わたしたちを捕まえようとする人たちだから放っておきたい気もするけど、咄嗟に反重力の魔法を掛けてしまった。
威力について吟味する余裕はなかったので、軽くなりすぎて天井に張り付いちゃったけど、死ぬよりはいいよね?
時間が来れば解ける魔法なので、放置しておこう。
「ソレイユは優しいね」
橋の向こうにたどり着いたら、ライゼスに褒められた。
「寝覚めが悪くなるからね! それに、生かしておいた方がいいんだよね?」
「うん。情報を持ってるかもしれないからね」
ライゼスが頭を撫でてくれた。
「あっ! そんなことよりも、面白い植物を見つけたの! バナ、じゃなくて、イルンの若木だって。栄養価の高い実が成るらしいんだけど、知ってる?」
わたしが鼻息も荒く聞くと、ライゼスは微笑んで頷いた。
「王宮の奥に、一本だけある木の名前が、たしか『イルン』だったね。その実は極上の甘露にして、貴賓が訪れた際の晩餐会に供される、ってどこかで読んだよ」
うわぁ……。
そんなの、地上に持って行けないかぁ。王宮の人に、価値を下げるなって怒られそうだ。
「ソレイユ、相談してくれてありがとう。カミル様に聞いてから取りにこようね」
「いいって、言ってくれるかな?」
「どうかなあ、まずは相談だね」
OKが出ればいいなあ。ダンジョン内で増やせるんだから、そんなに素晴らしい果物なら、思い切り栽培してしまえばいいと思うの!




