2.卒業間近の告白ラッシュ
本日、書籍『ソレイユだけが気づいていない』の発売日です!
素敵な表紙ですので、手に取っていただけると嬉しいです(≧▽≦)ノシ
卒業式も目前となった今日この頃、毎日のようにオブディティが上級生男子に呼び出されています。
「わたくしは婚約者もおりませんし、それなりに安定した家ですから、フリーの男子の格好の的なのですわ」
魔道具創作部の部室に来る前に男子生徒から告白されていたオブディティが、ちょっとうんざりした顔でそうこぼしている。
「お疲れ様だねえ。オルト先輩に、彼氏のフリをしてもらったら減るんじゃない?」
先日の自走ボードの二人乗り、二人ともとても楽しそうに見えたんだよね。
「……今は卒業に向けて大事な時期ですもの、ご迷惑はかけられないわ」
オブディティは少し躊躇ってから、そう言う。
「でもその大事な時期に、告白してくる男子がたくさんいるっていうのはどういうことなんだろうね。余裕綽々の人たちってことかな?」
「単なる、駆け込み需要でしょう。節操がありませんわ」
けんもほろろに言うオブディティに、オルト先輩の特許申請の書類を作っているライゼスが苦笑いする。
その時、部室のドアをノックする音が響き、わたしたちは顔を見合わせた。
この部室にわざわざやって来る人なんて居ないし、オルト先輩ならノックせずに入ってくる。
すぐにライゼスが立ち上がり、ドアを開けに行った。
ドアの向こうには、上級生がいる。
「あら、ダンスパーティのときに踊っていただいた先輩だわ」
なるほど、ライゼスよりもかなり身長が低めで、オブディティと踊るには丁度よさそうな身長だ。
「オブディティ嬢、ステイラー先輩がお呼びです」
ステイラー先輩っていうのか。
平均的な身長よりも少し小柄で、黒縁の眼鏡が真面目そうな雰囲気を醸し出している。髪も落ち着いた甘栗色でマッシュルームカットなので、まるで栗のようだ。
うっかりそんな事を考えたせいで、危うく吹き出すところだった。
失礼が過ぎるので、腹筋に力を込めて、なんとか堪えたけれどね!
オブディティが先輩のところへ行き、ドアを開けたまま廊下に出て、先輩と話をするようだ。
ライゼスはこちらに戻ってきて、特許の書類を作る作業を続けたので、わたしも粛々と魔力切れになった魔石に魔力を充填していく。
もっと一気にボンッと魔力が入っていけばいいのに、ジワジワとしか入っていかないのが恨めしい。
「効率的に魔力を充填できる方法はないのかな」
ぼやいているわたしの耳に、うっかり廊下の会話が入ってくる。
「イクリプスさんは家族仲が良いのは存じています。僕の家は領都にありますから、結婚しても好きな時にご実家に遊びに行くことができます」
ステ……ええと、マロンヘアー先輩が、一生懸命アピールしているけれど、結婚が前提ってことに驚く。
いや、そうだよね。この世界の貴族だと、遊びで付き合うとかないのかも。
ライゼスも付き合うとなったら、すぐに結婚に向けて両親に挨拶とかしたわけだし?
もし、相性が悪かったりしたらどうするんだろう。いや、最初はハードルが低い方が、あとは上がるだけだからいいのかな。
あれ? となると、既に結構ライゼスのことを好きなわたしは、下がる一方になるの?
ライゼスだってそうだ。今はわたしのことが多分かなり好き、だと思うんだけど、今後その熱量が下がったりするんだろうか。
それは、あんまり想像できないな。
とすると、ハードルについての考察は、的外れだったのかもしれない。
そう考えてちょっとホッとしたわたしの耳が、オブディティの声を拾う。
「――申し訳ございません」
「いや、こちらこそ、お時間を取らせてしまって申し訳ない。ありがとう」
マロンヘアー先輩がスマートにお礼を言って去る足音がしてから、オブディティが部室に戻り、部屋のドアを閉めた。
やっぱりちょっとだけ疲れた表情をしているので、敢えて光を出してヒーリングライトを浴びせた。
「ありがとう、ソレイユさん。あっさりと引き下がってくれて、安心したわ。やっぱり、他の人がいる所でないと駄目ね」
「あっさり引き下がらない人もいるの?」
立ったついでと言いながら三人分のお茶を煎れるオブディティが、「ええそうね」とため息混じりに返事をくれる。
「ライゼス様が、最初に応対してくださった影響も大きいわね」
なるほど、ライゼスが牽制になったというわけですか。
わざとドアを開けてあったのも、良い判断ということですね。
「婚約者がいない人って、結構いるんだね」
「わたくしはまだいい方ですわ。なにせ、お兄様たちをご存じな人は、迂闊に声を掛けてきたりはしませんもの」
イクリプス三兄弟は、屈強な大男で妹大好き人間だ。
彼らから妹を奪おうなんていう猛者は、彼らを知らない人間だけだろうね。
「オブディティさんのこと大好きだもんねえ。付き合うなら、我らを倒してからにしろ、って言われそう」
「同僚や部下には、そう言っているようですわ」
物憂げに、オブディティがため息を吐く。
やっぱり、言ってるんだね。
「最近、お母様が婚期を気にして、お兄様たちを諫めておりましたわ。そもそも、自分たちは恋人を作っているのに、わたくしの恋路を邪魔するなんて意味がわかりませんわよね」
言いながら、段々ムカついてきたのか声が大きくなっている。
「あ、恋人がいるんだ? それなのに、妹は自由に恋愛させないっていうのは、ズルイね」
ウンウンと強く同意するわたしの前に、オブディティが湯気の立つティーカップを置く。
「そうでしょう? はい、ライゼス様もどうぞ」
「ありがとう、いただくよ。ところで、オブディティ嬢の好みの男性というのは、どういう人なんだい?」
ライゼスからの思わぬ質問に、オブディティがフリーズする。
おや? てっきり、そつなく流すと思ったのに。
「そう……ですわね」
自分の分のティーカップを持って、わたしの隣の椅子に座る。
「好みは……」
言って、またもフリーズする。
思わずライゼスと顔を見合わせるが、オブディティはわたしたちの戸惑いにも気付いていない。
わたしたちがお茶を飲み終えても、オブディティはカップを手の中に包み込んだまま思案していた。
そして、マロンヘアー先輩がオブディティへ告白していたのを、オルト先輩がたまたま近くにいて聞いていたことに誰も気がつかなかった。




