1.久し振りのダンジョン
第五章も毎週月、水、金曜日の更新となります(≧▽≦)ノシ
12月2日に本作『ソレイユだけが気づいていない』が一迅社アイリスNEO様より刊行されます!
書き下ろしのライゼス視点など、加筆も盛りだくさんとなっておりますので、どうぞお楽しみに!
うっきうきで冒険者ギルドに向かっております、ソレイユ・ダイン十五歳です!
隣には特攻服姿のオブディティと、さり気なくわたしとお揃いの服を着たライゼスが歩いている。
「休み明けのテストも、眠っちゃダメよドキドキ音楽鑑賞会も終わったし! 心置きなくダンジョンに潜れるよね!」
わたしの言葉に、オブディティが「そうですわね」と同意してくれる。
「音楽鑑賞会が刺激的だったのは、ソレイユさんだけですけれどね」
わたしが『眠らせ合戦』するのが音楽鑑賞会だと誤解してしまったばっかりに、ヴィヴィアン・クロスが退学することになったのは記憶に新しい。
申し訳なさはあるのだけれど、珍しくオルト先輩が「よくやった」と褒めてくれて、彼女の悪行を教えてくれたから、罪悪感はかなり薄れている。
音楽鑑賞会が終わった数日後には、ヴィヴィアン・クロスはひっそりと学園を去っていった。
オルト先輩の話では、他の領地にいる親戚を頼り、すでにこの領都にはいないということだ。
「余計な心配もなくなりましたし、今日はいっぱい狩りますわよ」
自走ボードに使う魔石を潤沢に確保したい。今ある魔石に魔力を充填することもできるけれど、充填では魔石に満タンに入れることはできないし、魔力を入れるにも時間が掛かる。
次にまた学園内の走行試験許可が取れたら、ライゼスと二人乗りをする約束もしているし、一人乗りで曲乗りもしてみたいので、魔石はいくらあっても足りないのだ。
三人での冒険者活動もかなり慣れてきたし、もうすぐ五階層に入れるランクにもなれそうというのも、ヤル気に一役買っている。
「そうだね、いっぱい狩って、早くランク六になろう!」
「次の階層に行くのが楽しみですわね」
和気藹々と冒険者ギルドで依頼を吟味していたわたしたちに、ビシッとスーツを着た白髪交じりの威厳のある老紳士こと副ギルド長が声を掛けてきた。
彼に会うのは、わたしの冒険者証ですったもんだがあった日以来だ。
この人が出てくるってことは、なにかあるということだよね。他の冒険者たちも、何事かとこっちを気にしているよ。
案の定、事前に用件を伝えられないまま、三人揃って別室へと誘われた。
渡されたのは赤い蝋で封をされた一通の手紙だった。
「お三方へとお預かりしておりました、指名依頼でございます」
依頼にしては、随分と大袈裟な封筒だよね……。
代表してライゼスが受け取り、気を利かせた副ギルド長が部屋を出ていく。
「……指名依頼というのは、そんなに立派な封筒なのね」
オブディティも嫌な予感を感じているみたいだ。
ライゼスは封を開いて中を読むと、依頼の内容を教えてくれた。
「冒険者カミルからの依頼で、ダイン印のチーズをご所望だそうだ。王都まで届けることが、今回の依頼だよ」
「カミルさんっていったら……あれ? 王弟殿下じゃなかったっけ? その人が、ダイン印のチーズを王都まで運んで欲しいの?」
ということは、シリリシリリ草入りのチーズってことだよね?
あの人はどこで知ったんだろう?
「チーズならば、王都でいくらでも手に入るのではないのかしら。王宮の料理人が、立派なチーズを作ってくれているでしょうに」
まだダイン印のチーズを食べたことのないオブディティが、不思議そうに首を傾げる。
「あー、あれなの、わたしの妹が作ったクッキーにも入ってたアレが入ったチーズ」
この部屋にはわたしたちしかいないけれど、シリリシリリ草はまだ公になっていないはずなので、敢えて伏せ字にしておく。
「そういえば、チーズもあるのでしたわね。でも、鮮度が保てないから、持ってこられなかったのではなかったかしら?」
「うん、そう」
まだフレッシュチーズしか作れていないから、仕方ないのだ。折りたたみ式保冷箱はあるけれど、時間の経過は如何ともしがた……。
「オブディティさんがいれば、持ってこれるよね!」
「時間経過はありませんけれど、それをしてしまえば、わたくしが危険ですわね」
オブディティに言われて、それもそうかと肩が落ちる。
収納の能力に入れてしまえば時間経過もないし、かなり大量に入れられるけれど、悪用もできるものだから、国の偉い人なんかには絶対にバレてはいけないのだ。王族にバレるようなことは、絶対に避けなきゃだめだよね。
「そういうことだね。オブディティ嬢に頼むことはできない。でも、ソレイユが王都で作ることはできるよね」
「なるほど! アレを持っていって、王都で生乳を確保すれば、あとは魔法でできるね」
ライゼスの解決案に納得する。
「あれ? でも、王都って遠いよね? わたしたちは学生だから、そもそも無理なのでは?」
「次の長期休暇は、ソレイユのお姉さんの結婚パーティだし。残念だけれど、無理だね」
全然残念そうではない口調でライゼスが断言する。
わたしはもちろん、オブディティも王都に行ったことがなく、行きたい気持ちはあったけれど、どう考えても時間的に無理なので、この依頼は諦めることになった。
三人とも無理という結論になり、副ギルド長に依頼書を返そうとするも、受け取ってもらえなかった。
「こちらの依頼には期限がございませんから、卒業されてからでも受けることは可能です。どうぞ、前向きにご検討ください」
実質、拒否はできないということですね。
わたしはオブディティと顔を見合わせてから、ライゼスを見た。
ライゼスはスンとした顔で、しぶしぶと依頼書を内ポケットに入れた。
「時間が取れ次第、依頼を遂行するようにいたします」
「承知いたしました。よろしくお願いいたします」
副ギルド長からホッとした気配がする。
ふふっ、これでいつか王都へ行けることになったよね!
ちょっと楽しみだ!




