3.顧問
書籍『ソレイユだけが気づいていない』発売されましたー!
(北海道、沖縄含む離島の皆様はもう少々お待ちくださいませ。自分も待ちますin北海道)
前話の更新では誤字ヤバ過ぎでした orz
誤字報告してくださる皆様、いつも本当にありがとうございます!
寮の共同スペースで宿題をやっているときに唐突に思い出したことを、正面に座って問題を解いているオブディティに聞いてみる。
「ねえ、オブディティさん。他の部活で、送別会っていうか、卒部式ってないのかな?」
「卒部式、ですか。聞いたことはありませんけれど……やっても、いいんじゃないかしら」
いつものような歯切れの良さはない。
そういえば、オブディティの好みの男子についてはまだ聞けていない。オブディティ自身にもまだはっきりとわかってはいないみたいだ。
入学したころは、ライゼスのことを「魔王様」と言って、キラキラした目で見ていたのに。どうやら、同じ部活で身近になりすぎたせいで、今ひとつ憧れの対象から外れてしまったらしい。
そう聞いて、ちょっとホッとしたのは内緒。
「じゃあ、まずはオルト先輩の都合を聞かなきゃだね。ライゼスが、近々特許のことで確認しなきゃならないって言ってたから、その時に確認してもらおうか」
「そ、そうね。それが、よろしいんじゃないかしら」
やっぱり歯切れが悪い。
「ねえ、オブディティさん。オルト先輩となにかあったの?」
「ないわ」
まるで答えが用意されていたように、きっぱりと否定されてしまった。
これは、怪しい。
だけど大人なわたしは、ここで迂闊に突っ込んで聞いたりはしませんよ! すっごく、聞きたいけれど。
* * *
「なるほど。じゃあ僕は、オルト先輩に、都合のいい日を聞けばいいんだね」
頼りになるライゼスに、オルト先輩のことは任せる。
卒部式に必要なのはやっぱり、色紙に寄せ書きかなと提案したけれど、三人の寄せ書きでは味気ないということで、手紙を渡すことになった。
部室を飾り付けて、なにかプレゼントも用意したい。
ライゼスは今まで登録した特許をきちんと整えて渡すという。最高に実用的で一番喜ばれると思います。
「わたしはどうしようかな。オルト先輩用の自走ボードを作ろうかな。でも、燃費が悪いからなあ……悩むー」
部室のテーブルに張り付いたわたしを、オブディティが「だらしがないですわよ」と窘める。
なんとか机から体を剥がして起き上がり、オブディティのプレゼントを聞く。
「わたくしもまだ決まっておりませんわ。お兄様たちでしたら、武器や防具なのですけれども……オルト先輩は、兄たちとは違う人種ですものね」
確かにマッチョなイクリプス三兄弟と、オルト先輩の趣味嗜好は違うよね。
「もう少し考えてみますわ」
「もう一人くらい多かったら、寄せ書きも見栄えがよくなるのに……そういえば、この部活で『顧問』って見たことないよね」
わたしの言葉に、オブディティとライゼスがわたしを見た。
え、その表情は、どんな感情なの。
「顧問の先生はちゃんといるよ。そういえば、ソレイユは教員室に鍵を戻しに行ったことがなかったか」
基本的にはライゼスが戸締まりを担当してくれているから、わたしは鍵に触ったこともない。それは、オブディティも一緒のはずなんだけどな。
「ごくたまに顔を出すことがありますわよ。そういえば、ソレイユさんが不在の時ばかりかもしれませんね」
「……もしかして、わたし、避けられてる?」
「それはないはずだけど。気になるなら、今日、鍵を返すときに、一緒に教員室に行ってみるかい?」
ライゼスのお誘いに、一も二もなく頷いた。
まだ見ぬ顧問!
「折角だから。顧問の先生も、卒部式に呼ぼうよ」
わたしの提案に、オブディティが表情を曇らせる。
「……それは、どうかしらね」
「ソレイユ、まずは一度会ってみてから、判断しようか」
渋る答えのオブディティに、顧問を確認させようとするライゼス。
「そんなに、問題のある人なの?」
怖じ気づいて小声で聞くと、二人は顔を見合わせてから、困ったように苦笑いした。
とにかく一度会ってみようということになり、部活終わりにライゼスと一緒に鍵を持って教員室に行った。
「はじめまして、魔道具創作部のソレイユ・ダインですっ」
「知っています」
メガネのフレームをクイッと押し上げた、魅惑的な服を、蠱惑的な体に纏った、肉感的な美女がいた。
豊かな金髪はきっちりとまとめられ、後れ毛ひとつない。
「私は、魔法物理学を教えているタブ・レイドロップです。ソレイユさん、あなたにはずっと聞きたかったことがあるの」
「は、はい?」
手を掴まれて引き寄せられる。
「なぜ、八歳という若さで、あの魔力を操作する方法を編み出せたのですか。そして、どうしてその分野でもっと研究しようとしないのですか。折角、こうして学園生になったのですから、もっと研究し、魔法への理解を深めていこうとは思わないのですか」
レイドロップ先生の手をやんわりと外したライゼスが、細めた目で先生を見下ろす。
「それについては、説明しましたよね」
「本人からはまだ聞いていないわ」
腕組みをした先生と、見下ろすライゼスの間に火花が見えた気がする。
もしかして、犬猿の仲なのかな。
「魔法物理学を取らなかったのは、どんな内容の勉強なのか分からなかったからですし、他にも学びたいことがあったので、そちらを優先した結果です」
魔法物理学という言葉も、はじめて聞いた気がする、っていうぐらい馴染みがないし。
それだけ、わたしの守備範囲外なんだよね。
「ああ、なんということでしょう」
レイドロップ先生は顔を両手で覆い、大袈裟に嘆いた。
「やはり、協定など無視して、あなたに接触すればよかった。生徒の自主性のみに任せず、やはり教師がある程度生徒の適正を判断して、選択肢を与えるべきなのです」
「異議あり!」
レイドロップ先生の隣の、生真面目そうな女性の先生が、シュッと手を挙げた。
こちらもメガネ着用だ。
「そんなことをしてしまえば、生徒の自主性が育たなくなります。学園という恵まれた学び舎で育むべきは、学力だけではなく、主体性と協調性、他者との関わりによって成長する感受性なのです」
「笑止。学園とは、国の礎となる人材を育てる教育機関である、という性質を省いて、情緒的な成長のみを育てるに非ずですわ」
侃々諤々とはこういうことをいうのかな。
ライゼスは鍵をそっと、レイドロップ先生の机に置くと、わたしの手を引いて、静かに教員室を後にした。
十分に教員室から離れてから、ライゼスに顔を向ける。
「もしかして、ずっとあんな感じの人?」
「そうだね。なんというか、自分の学問に一生懸命なのかな」
ライゼスが言葉を選んで伝えてくれる。
「あの調子だと、ちょっと卒部式には誘いづらいね。ライゼスとオブディティさんが渋る理由がわかった気がする。でも、いままでよく部室に来なかったよね」
「ああ、オルト先輩がいたからね。方向性の違い、というやつみたいだよ」
犬猿の仲ということですね。
オルト先輩も、言いたいことを言うタイプではあるもんね。
「じゃあ、わたしたちだけだね」
「気心が知れていて、いいと思うよ。じゃあ僕は、オルト先輩に都合のいい日を確認しておくね」
男子寮内で、先輩の部屋を訪問するのは問題がないらしいので、今日にも確認してくれるということだ。
「それじゃあ、わたしは、オルト先輩への手紙を書こうかな」
どんなことを書こうかと楽しく悩みながら、オブディティの待つ寮の部屋へと向かった。
顧問……いたんだ…………?
次話は5日金曜日の更新です。
※前書きに前話の誤字について書きましたが、今回も凄かった(酷かった)……。たくさんの誤字脱字報告をいただきまして、本当に、本当にありがとうございます!




