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天国塔  作者: 前田瑠希
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第三十八話 決戦


 エレンとクラディウスは、真っ白い空間に立っていた。


 クラディウスが、エレンと共に転移したのだ。


 視界の果てまで白だけが広がる世界。


 空も地平もなく、静寂だけが支配している。


 エレンはゆっくりと周囲を見渡した。


(……アウローラ様のいたところみたい)


 その呟きと共に、小さく息を吐く。


 そして、視線を前へ向けた。


 少し離れた場所に、一人の少年が立っている。


 十代前半ほどの少年の姿。


 黒く短く切り揃えられた髪。


 黒い瞳。


 透き通るように白い肌。


 穏やかに整った顔立ち。


 身に纏うのは、純白のローブ。


 外見だけを見れば、どこにでもいる少年だった。


 クラディウス。


 対峙しているだけで、全身を押し潰されるような圧力が、静かにエレンへ降り注ぐ。


 三百年前。


 初めて会った時と、何一つ変わらない姿だった。


 クラディウスが口を開く。


「三百年前……」


 エレンは何も言わず、その言葉を待つ。


「私は、そなたを逃した事を後悔した」


 クラディウスはエレンを見据えていた。


 ──違う。


 その視線は、エレンという肉体ではない。


 その奥にある魂だけを見つめていた。


 エレンも静かに口を開く。


「私も三百年前、後悔した」


 一度、息を吐く。


「あんたを倒せるだけの力が、あの時はなかった」


 クラディウスは、その言葉を聞くと、小さく鼻で笑った。


「……ふっ」


 静寂。


 やがて、クラディウスが静かに口を開く。


「……仲間のことが心配か?」


 エレンは答えず、クラディウスを真っ直ぐ見据える。


「なに、私と共にいた部下達が、そなたの仲間にそれぞれ興味を持ったようでな」


 クラディウスは淡々と続ける。


「それぞれ別の空間へ転移させた」


 エレンの表情は変わらない。


「そして、どちらか一方が死ねば、残った者は天国塔の最上階へ自動的に戻る」


 一拍置き、クラディウスは僅かに笑った。


「無論――私の部下が勝つと思うがな」


「……そう」


 エレンは、それだけを返した。


 ルビア。


 レイコ。


 ハニエル。


 三人の顔が、一瞬だけ脳裏を過る。


 けれど、不安はなかった。


 あの三人なら、大丈夫。


 エレンはそう信じている。


 ならば、自分が今やるべきことは一つだけ。


 目の前にいる、クラディウスを倒すこと。


 再び静寂が訪れる。


 互いに動かない。


 白い世界には、二人だけが立っていた。


 やがて、エレンが口を開く。


「一つ聞きたい」


 クラディウスは何も答えない。


「三百年前、私達クリエイド一族が滅んだ魔物との戦争について、戦う前に聞きたい」


 クラディウスはしばらく黙っていた。


 まるで、その問いに答える価値があるかを量るように。


 そして、小さく呟く。


「……食材の下拵えも大事か」


 その声はあまりにも小さく、エレンには届かなかった。





 クラディウスは、どこか懐かしむように目を細めた。


「三百年前、そなたが天国から逃げおおせた後……」


 一度言葉を切る。


「……そうだな。そこから、およそ五十年ほど経った頃か……」


 静かに続ける。


「クリエイド皇国は、魔物の群れに攻められ、滅んだ」


 エレンの表情は変わらない。


 その事実は、すでに知っている。


 クラディウスもそれを察したのか、話を続けた。


「私も詳しいことは知らん。魔物達が、この天国塔のある国を襲っていた時、私は天国塔を封鎖していた。 時折、天使達を偵察へ向かわせてはいたが……」


 そこで一度、視線を伏せる。


「クリエイド一族は、およそ一週間で滅んだ」


「……一週間」


 エレンは思わず呟く。


 あまりにも短い。


 長い間、歴史を築いた一族が、たった一週間で滅んだという事実が、胸に重くのしかかる。


「その後、しばらくして、現在のノア一族をはじめとした各勢力が魔物の群れを退けた……そして、今に至る」


 クラディウスは語り終えた。


 白い空間に、再び静寂が訪れる。


 エレンは何も言わない。


 ただ、クラディウスの言葉を一つ一つ頭の中で反復していた。





 やがて、エレンは静かに顔を上げた。


 その瞳には、もう迷いはない。


 クラディウスはその表情を見ると、小さく口元を緩めた。


「……どうやら、話したかいはあったようだな」


 その呟きは、あまりにも小さい。


 エレンの耳には届かない。


 エレンは首元のオリヴィエの御守(アミュレット)を外し、ゆっくりと黒い剣を抜く。


 鞘から刃が現れ、静かな音が白い空間に響いた。


「教えてくれてありがとう」


 一拍置き、剣先をクラディウスへ向ける。


「もういいわ。始めましょう」


 クラディウスは静かに頷いた。


 そして、白い世界に響く声で告げる。


「始めようか――」


 一瞬の静寂。


「我々の三百年の……」


 エレンは黒い剣を握り直す。


「決着を」





 クラディウスは静かに詠唱を始めた。


 純白の魔法陣が次々と展開される。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 やがて、その数は空間を埋め尽くすほどとなり、あらゆる属性の魔法が発動の時を待っていた。


 対するエレンも、静かに創造を始める。


 突撃銃(ライフル)


 機関銃(マシンガン)

 

 狙撃銃(スナイパーライフル)


 多銃身回転式機関銃(ガトリングガン)


 火炎放射器。


 無誘導弾射出器(バズーカ)


 大型滑空砲(グレネードランチャー)


 誘導弾(ミサイル)


 多弾頭誘導弾(マルチミサイル)


 超大型誘導弾(ラージミサイル)


 特殊弾倉型誘導弾(コンテナミサイル)


 次々と銃火器が出現し、エレンの背後へ整然と並んでいく。


 その数は、空間を埋め尽くすほど。


 クラディウスは、その光景を見て僅かに目を見張った。


 だが、それも一瞬。


 すぐにいつもの無表情へ戻る。


 白い世界で──無数の銃火器と、無数の魔法陣が向かい合う。


 静寂。


 エレンは剣を握っていない左腕を静かに持ち上げた。


 カチッ。


 カチッ。


 カチッ。


 無数の撃鉄が起きる音だけが、白い空間へ響く。


 同時に、クラディウスも右手を前へ差し出した。


 純白の魔法陣が一斉に回転を始める。


 互いに、一歩も動かない。


 そして――


 両者は、同時に放った。


 轟音。


 無数の瘴気を纏った黒い銃弾と、黒い弾頭が白い世界を駆け抜ける。


 クラディウスの無数の魔法が迎え撃つ。


 次の瞬間、銃弾と魔法が、正面から激突した。





 轟音が白い空間を埋め尽くす。


 銃弾、弾頭と魔法が激しくぶつかり合い、無数の爆発が連鎖する。


 その中を、エレンは駆けた。


 黒い剣を構え、一気にクラディウスとの距離を詰める。


 対するクラディウスは微動だにしない。


 クラディウスは詠唱をし、目の前に小さな魔法陣を一つだけ展開した。


 そこへ右手を差し入れる。


 そして──


 黄金に輝く一振りの剣を抜き放った。


 ギィンッ!!


 黒い剣と黄金の剣が激しくぶつかる。


 火花が散る。


 エレンの瞳が僅かに見開かれた。


(!! 聖剣!?)


 一瞬、そう思う。


 だが違う。


 ルシファーの持っていた聖剣から感じた、あの嫌な感覚がまるでない。


 それなのに、この黄金の剣には別の異質さがあった。


「……ほう」


 クラディウスが小さく呟く。


 感心したような声だった。


 その間も背後では、銃弾、弾頭と魔法が空中で幾度も激突し、轟音が鳴り響いている。


「私のこの剣を受けても、その剣が壊れないとは。少し驚いた」


 クラディウスは黄金の剣ではなく、エレンの黒い剣を見つめていた。


「なんだ、その剣は?」


 エレンは鼻で笑う。


「教える訳ないでしょ」


 そう言うと、一旦距離を取った。


 ちょうどその時、銃弾、弾頭と魔法も撃ち尽くされ、一瞬だけ静寂が訪れる。


 エレンはクラディウスの言葉を頭の中で反復した。


(今の言葉……まるで、自分の剣なら私の剣を一撃で壊せるような言い方だった)


「来ないのか?」


 クラディウスが静かに言う。


 その言葉と共に、再び数多の魔法が放たれた。


 銃弾と弾頭を再び創造し、装填を終えたエレンも、再び大量の銃火器で射撃する。


 無数の銃弾、弾頭と魔法が再び空中で激突した。


 その爆煙を突き抜けるように、エレンはクラディウスへ斬りかかる。


「はあっ!」


 黒い剣が一直線に振り下ろされる。


 クラディウスは黄金の剣で受け止めた。


 ギィィィンッ!!


 甲高い金属音が白い空間に響く。


 クラディウスは黒い剣を見つめ、静かに呟いた。


「やはり壊れぬ」


 僅かに眉を寄せる。


「……おかしい」


 今度はエレンが問い返した。


「なんなの、その剣」


「これか?」


 クラディウスは黄金の刀身へ視線を落とす。


「これは私が作り出した剣だ」


 そして、当然のことのように続けた。


「なに、なんのことはない。ただ単に切れ味が鋭いだけだ……なのに、なぜそなたの剣は壊れぬ?」


 エレンの背筋に冷たいものが走る。


(切れ味が鋭い……?)


 違う。


 その言葉は――


 まるで、何でも斬れる、と言っているようなものだった。


「まあよい。今度はこちらからいくぞ」


 そう言うと同時に、クラディウスの姿が掻き消えた。


 次の瞬間には、エレンの目の前にいた。


(速っ……!)


 だが、対応できないほどではない。


 黄金の剣が鋭く振るわれる。


 エレンは黒い剣で受け流し、そのまま身を捻って次の一撃を避ける。


 休む間もなく、二撃、三撃と剣戟が襲い掛かった。


(聖剣じゃない……だけど、一度でも当たったらまずい)


 そう判断したエレンは焦ることなく、クラディウスの剣をいなし続けた。


 一方、クラディウスは静かに思考していた。


(なんだ、この剣は? なぜ壊れない? 私の剣の切れ味より、硬度が上なのか?)


 黄金の剣と黒い剣が激しくぶつかる。


 それでも黒い剣には傷一つ付かない。


(それに……何もない空間から大量の銃火器が次々と現れる。まるでエリザベードの創造のようではないか)


 剣を交えながらも、クラディウスの視線は冷静だった。


(そして、なぜ地獄の魔法を使わない? その力があるなら、使わぬ理由が分からん)


 次々と疑問が浮かぶ。


 だが、そのどれも答えは出ない。


 その時だった。


「はあっ!」


 エレンが力任せに黒い剣を振り抜く。


 重い一撃に押され、クラディウスは数歩後方へ下がった。


 その一瞬の隙を逃さず、エレンは黒い剣を大きく振り上げる。


 漆黒の瘴気が刀身へ絡みつく。


 そして――振り下ろした。


 瘴気を纏った斬撃が一直線にクラディウスへ飛ぶ。


「……!」


 クラディウスは僅かに目を見開き、その斬撃を紙一重で回避した。


 漆黒の斬撃はクラディウスの横を通り抜け、白い空間の彼方へ消えていく。


「……今のは、なんだ?」


 クラディウスは静かに問い掛ける。


 エレンは黒い剣を構え直し、一言だけ答えた。


「聖剣の真似技」


 そう言うと、間髪入れずに黒い剣を振るう。


 瘴気を纏った斬撃が、一つ、二つ、三つ。


 立て続けにクラディウスへ襲い掛かった。





 エレンには、一つ懸念していることがあった。


 地獄で修行していた頃、シルヴィアに聞いたことがある。


「クラディウスが神器を使った能力って何?」


 シルヴィアは少し困ったように笑った。


「それがね……私達にも分からないんだ」


「……え?」


 思わぬ返答に、エレンは驚きを隠せなかった。


 シルヴィアは静かに続ける。


「クラディウスはね、一度も神器を使った能力を私達に見せたことがないの。だから、未知の能力なの」


 エレンは黙って話を聞く。


「だからね……」


 シルヴィアの表情が真剣になる。


「クラディウスと戦う時は、まず神器の能力を明らかにすること。まずは、そこからだよ」





 だからこそ、エレンが最初にやるべきことは、クラディウスに神器の能力を使わせることだった。


 何があるか分からない。


 だから慎重に戦う。


 魔力は温存する。


 地獄の魔法も、まだ使わない。


 魔獣も召喚しない。


 龍の左腕も使わない。


 手札は――慎重に切る。


 エレンは黒い剣を振るう。


 瘴気を纏った斬撃が一直線に飛んだ。


 一つ目。


 クラディウスは身体を僅かに傾け、避ける。


 二つ目。


 今度は一歩だけ踏み込み、紙一重で躱した。


 そして――三つ目。


 避けきれない。


 漆黒の斬撃が、クラディウスの右肩を斬り裂いた。


「――――ッ!」


 クラディウスの表情が僅かに歪む。


 瘴気の斬撃はあまりにも鋭い。


 傷口から血は流れない。


 断たれた傷口は、瘴気に侵されるように黒く染まっていた。


 クラディウスは右肩を押さえ、小さく息を吐く。


 苦しげな表情のまま、静かにエレンを見据えた。


(さあ……神器の能力を見せなさい)


 エレンは黒い剣を構えたまま、相手の動きを見逃さない。


 しかし、クラディウスは後方へ跳び退くと、多数の魔法陣を展開した。


 次の瞬間、無数の魔法が一斉に放たれる。


(……どういうこと?)


 エレンは眉をひそめる。


 すぐに銃弾と弾頭を創造し、装填を終えた銃火器が一斉に火を噴いた。


 銃弾、弾頭と魔法が再び空中で激突する。


 その爆炎の向こうから、クラディウスの声が響いた。


「……少し、そなたのことを見誤っていた」


 その言葉にも、エレンは警戒を解かない。


 黒い剣を振るう。


 再び、瘴気を纏った斬撃がクラディウスへ襲い掛かった。


 一つ目。


 クラディウスは身体を捻り、避ける。


 二つ目。


 黄金の剣を振るい、斬撃を弾いた。


 そして三つ目――


 瘴気の斬撃が今度はクラディウスの左脚を斬り裂く。


「――ッ」


 一瞬だけ、クラディウスの表情が歪んだ。


 左脚に刻まれた傷は、右肩と同じように黒く侵食されていく。


 クラディウスは静かに息を吐いた。


 そして何事もなかったかのように顔を上げる。


「……ふむ」


 その一言だけ呟き、後方へ跳び退いた。


 直後──


 クラディウスは新たな詠唱を始める。


(また同じ手……?)


 エレンはそう思った。


 だが──


 次の瞬間、その考えは消え去る。


「……っ!」


 白い空間が、光で埋め尽くされた。


 先ほどとは比べものにならない。


 莫大――


 いや──


 莫大という言葉ですら足りない。


 無数の純白の魔法陣が、白い世界を埋め尽くしていた。


 その数は、最初に展開した魔法陣のおよそ五倍。


「まずいっ!」


 エレンが叫ぶ。


 次の瞬間、白い世界を覆い尽くした魔法陣が一斉に輝く。


 そして──莫大を超える数の魔法が、一斉に放たれた。


 大雨のように、数え切れない魔法が降り注ぐ。


 エレンは次々と銃火器を創造し、迎撃する。


 だが、到底追いつかない。


「っ……!」


 咄嗟に巨大な盾を創造し、身を守る。


 しかし、盾は数秒と持たなかった。


 絶え間なく叩きつけられる魔法によって、ひび割れ、砕け散る。


 エレンは新たな盾を創造する。


 同時に、迎撃を続ける銃火器も次々と破壊されていく。


 突撃銃(ライフル)が砕ける。


 機関銃(マシンガン)が吹き飛ぶ。


 大型滑空砲(グレネードランチャー)が爆散する。


(……このままじゃ)


 思考する暇すら与えられない。


 クラディウスの魔法は止まらない。


 ただ、放ち続ける。


 技巧ではない。


 策でもない。


 ただ圧倒的な物量。


 それだけだった。


 だが、その「だけ」が、常識を遥かに超えている。


 エレンは歯を食いしばる。


 創造。


 盾を創造する。


 創造。


 銃火器を創造する。


 創造。


 壊される。


 創造。


 また壊される。


 創造。


 創造。


 創造。


 終わらない。


 創造し続けるしかなかった。





 どれほどの時間が経ったのか。


 エレンはひたすら創造し続けた。


 盾を、銃火器を、壊されては創造し、また壊されては創造する。


 その繰り返し。


 だが、その時だった。


(……?)


 違和感。


 ほんの僅かだった。


 創造した盾が破壊されるまでの時間が、少しだけ伸びた。


 迎撃する銃火器が撃ち落とす魔法の数も増えている。


 そして、破壊される銃火器の数が、先ほどより少ない。


(……魔力切れ?)


 一瞬、その考えが頭をよぎる。


 だが、すぐに否定した。


(いや……違う。神器がある。 魔力切れになるはずがない。 なのに……明らかに魔法の数が減ってる。どういうこと……?)


 エレンは盾を創造し続けながら、クラディウスを見据える。


 その時──再び、放たれる魔法の数が少し減った。


 エレンは僅かに思考する。


 だが、すぐに結論を出した。


(……このままじゃ、じり貧ね)


 先ほどから、ひたすら創造を繰り返している。


 盾を、銃火器を、壊されては創造し、また壊されては創造する。


 魔力に問題はない。


 だが、精神力は確実に削られていく。


 魔法を創造するほどではない。


 それでも、僅かな疲労が積み重なっていた。


 そして、その時だった。


「……っ!」


 全身に痺れが走る。


 聖域だ。


 身体の自由が、ほんの僅かに奪われ始める。


(まずい……)


 このまま耐え続けても、いつ魔法が途切れるか分からない。


 それどころか、


(……わざと魔法の数を減らして、私を誘い出そうとしている可能性もある)


 考えられる。


 だが――


(それでも……)


 エレンは静かに息を吐いた。


(……仕掛けてみるか)


 創造した巨大な盾を頭上へ掲げる。


 降り注ぐ大量の魔法を受け止めながら、黒い翼を大きく羽ばたかせた。


 一直線に、クラディウスへ向かって突っ込む。


 頭上の盾が砕け散る。


 エレンは間髪入れず、新たな盾を創造した。


 降り注ぐ数多の魔法を受け止めながら、一直線に駆ける。


 クラディウスは、その動きを見据えた。


 正面へ向け、新たな魔法を放つ。


 エレンは前方にも盾を創造する。


 轟音。


 魔法が盾へ直撃する。


 盾は砕ける。


 それでも、エレンは止まらない。


「はあああっ!!」


 黒い剣を突き出す。


 そして――


 その切っ先は、クラディウスの胸を貫いた。


「……通った?」


 エレンは思わず呟く。


 黒い刀身から溢れた瘴気が、クラディウスの体内へ静かに侵食していく。


 胸の傷口は黒く染まり、血は一滴も流れない。


 クラディウスの瞳から光が消え、展開されていた莫大な数の魔法陣も霧散して消えていく。


 焦点を失ったまま、その身体が僅かによろめいた。


 エレンはゆっくりと黒い剣を引き抜く。


 クラディウスの身体が、その場へ崩れ落ちた。


 白い空間に静寂が訪れる。


「……勝った?」


 エレンはそう呟いた。


 一瞬だけ、そう思った。


──その時、エレンは突然、悪寒を感じた。


本能が――危険だ、と告げている。


目の前で倒れているクラディウスを見る。


だが、変化はない。


――――その時、白い空間の上空の、エレンの頭上から少し離れた場所に、途方もない大きさの光の塊が出現した。


光の塊は、ゆっくりと形を成していく。


やがてそれは、巨大な黄金の華へと姿を変えた。


さらに、その巨大な黄金の華を包み込むように、薄い金色の膜が広がっていく。


――――倒れたクラディウスの身体が、静かに光り始めた。

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