第11話 邪神の影
自由市が解禁されている中央広場は、帰りの路銀稼ぎに店を広げる行商人や、地元の商売人たち、それに、掘り出し物目当ての山師で埋め尽くされていた。中には、遺跡から出土した珍しい物も置かれている。こういうところには、店主すら気づいていない高価な品が紛れ込んでいるものだ。
「東方の茶葉だよ!」
「どうだいこれは、遺跡から出土した神話時代の壺だ」
「この切れ味! 骨までスパッだぜ。どうだい一本」
「もちろん本物の聖刻器さ。今買わないと後悔するぞ?」
興味を引かれる声が飛び交う中、足を止めたくなる衝動を必死に堪え、クラッサスたちは、山師たちが群がる横に長い掲示板の前まで到達した。そこには、この都市ピモ・ルルニンを覆う大樹海の地図が張り出されていた。都市の周りには×や〇といった印がつけられ、その横に小さく覚書が加えられていた。
「これ、何なんだ?」
印のつけられた地図だけ見せられても、クラッサスに理解できるはずもなく、隣で熱心に印の位置を確認している山師の男に聞いた。
「あん? お前、ここに来たばっかりか? こいつは樹海に眠ってる遺跡の位置を書き込んだ地図だ。×は探索済み、〇は未探索の場所があるってわけよ。つまり……まだ何も書かれてねぇところに、手付かずの遺跡が眠ってる、そういうこった。じゃあな、先を越されちまう」
男は人込みをかき分けて仲間たちと合流すると、走り去って行った。それを見送り、地図へと向き直るクラッサス。印を見る限り、探索範囲は都市の周辺にとどまっている。樹海の奥地には、まだ多くの遺跡が山師の到来を待っていることだろう。
「こんな行き当たりばったりで、その遺跡が見つかるとは思えませんが」
コランの太い腕に守られながらリンデがクラッサスの隣に来て、もっともなことを言った。彼女の言う通り、どんな危険があるかも知れない樹海を、あてずっぽうでさまようなど自殺行為。
「まぁ……そうだよな」
「だが、こいつら全員がライバルとなると、もたもたしていられんぞ?」
顔を見合わせる三人の間に仮面がフワリと降りてきた。
「では、皆さんSENロールをしてください。練法師のリンデは、知識ロール+2を足していいですよ?」
「この地図に何かあるのか?」
クラッサスの手に赤いダイスが二つ出現した。重要性を感じ、LUCを使ったのだ。戦闘ではあまり活躍できないリンデも同様にLUCを使い、コランは無造作に一つのダイスを放った。
「あっ……こんなシンボル、ありましたっけ?」
リンデが地図の隅を指さした。そこには天気図の台風を思わせる黒い渦のシンボルがつけられていた。じっと見つめていると、リンデの頭の中に「ジアクス」という単語が浮かび上がってきた。クラッサスはシンボルに気づくのみで、コランといえば、顎に手を当て唸っている。
──ジアクス。それは神話の時代に、悪しき神の軍勢に加担して猛威を振るった邪神だ。それが身を隠し、この時代まで信奉され、人間社会に入り込んでいる。
知らない記憶が頭に流れ込んでくる奇妙な感覚に、リンデは、額に手を当てつぶやいた。
「邪神……ジアクス」
「わかるのか?」
「名前だけですけど。その信者がどこかに紛れているみたいです」
クラッサスは地図全体を眺め、リンデがジアクスと言ったシンボルの位置を記憶する。わざわざロールさせたからには、意味がある場所に違いない。クラッサスは顎で外に出ようと合図し、三人は押し寄せる山師の波から脱出した。
「そいつを何とかするのが、今回の目的かもな。他にもそのシンボルに気づくやつがいるかもしんねぇ。どうする?」
「邪教徒のシンボル……財宝の香りがするじゃないか。そいつらのご神体を拝みに行くとしよう」
コランがリンデを抱えてひらりと馬に跨る。ブルルと馬が唸り、蹄を鳴らした。
「目立たないようにシンボルをつけたということは、邪教徒が連絡を取るために描いた可能性があります。気をつけましょう」
「ああ、そうだな。オレは相棒で行くぜ!」
仮面がフワリとクラッサスの前に降りてきた。
「駐機場の使用料5ゴルダを払ってから出かけてください。操兵は、何をするにもお金がかかりますからねぇ」
「うへぇ、金とるのかよ」
「ふむ。有料駐車場みたいなものか。先に外で待っているぞ」
コランはそう言い、馬を門へと急がせた。
「オレも乗せろよ、でかいんだから」
取り残されたクラッサスは、小石を蹴飛ばして後を追った。
◇ ◇ ◇
街道を外れれば、その景色は一変する。折り重なるように迫る樹木の緑。熱気を含む湿度の高いべたついた空気。むせかえる草の匂いが鼻を突く。
数多くの山師が切り開いた道が樹海の半ばまで続き、ひらけた場所に野営地が築かれていた。探索を終えて腰を下ろす山師たちの会話を聞けば、どこへ行ったかなどの情報も転がり込んでくるだろう。
「おいおい、従兵機なんか持ち出して、森の奥まで行く気か?」
「木に引っかかって槍なんぞ振り回せんぞ」
「随分とおんぼろだな。まぁ、それなら持ってかれる心配もなさそうだ」
野次と笑い声を浴びながら、傷ついたガレ・メネアスが悠然と山師たちの間を歩いて行く。
──好き放題言いやがって。樹海じゃ戦闘できないとか、効率がどうとか、そんなことはどうでもいい! オレは乗りたいから乗ってんだよ!
「今に見てろよ、お前らが馬鹿にした男が凄腕の操手になっていく姿を」
「ははは、そのいきだ。さて、そのシンボルはどの方向だったか」
コランがぐるりと広場を見回した。いくつか踏みしめられた獣道のようなものはあるが、そのどれかは不明だ。
「あちらですね」
リンデが指さした方角に道はなかった。まだ誰も向かっていないようで、そのことには安心したが、従兵機が通れるスペースがないため、強引に突き進むことになる。
「木を倒していくのは気が引けるけどな」
「それを言うなら、この広場だって同じだろう」
「……じゃあ、行くか」
クラッサスは行く手を遮る木々に機体を寄り掛からせ、じわじわと圧力をかけた。すると、ミシミシとたわみ、根元から破壊音を響かせて倒れていく。ガレ・メネアスの重量は8トンを超える。こんな鉄の塊が圧力を掛ければ、やすやすと木を倒せるのもわかるだろう。その様子に、背後から冷やかしなのか歓声なのかわからない声が上がる。当然、無視だ。
後々、木材として使えるようにと彼なりに気を使ったつもりだが、森を根城にしている動物たちにとっては災難だ。極彩色の鳥が抗議の奇声を上げ飛び立ち、小動物が右往左往しながら逃げ惑う。
「わりぃな。しばらくうるさくするぜ」
クラッサスは確かな手ごたえを感じていた。以前よりもスムーズに動かせている。これが操手技能レベルを上げた恩恵か。
──ちゃんと成長してるんだな。ニヤリと笑い、操縦ロールに集中する。幸い、絶対失敗はまだ出ていない。
しばらく開拓作業に従事していたクラッサスは、コツを掴めたらしく、数本まとめて倒せるようになっていた。
「ふむ。山師を失業しても、やっていけそうだな」
作りたての道を悠々と進みながらコランが言った。三人の笑い声が、ざわめく森の中に溶け込んでいった。
◇ ◇ ◇
「何だお前たちは! 操兵なんぞ持ち出しおって。動物が逃げてしまったではないか!」
突然男の声が発せられ、クラッサスは操縦桿から手を離した。立ち上がり辺りを見回すが、それらしい人影はない。
「上だ上。まったく、山師連中は自然を何だと思っとるんだ」
白い立派な髭を顎に蓄えた老人が、縄梯子をたらしてスルスルと降りて来た。見た目のわりに逞しく、体の切れもいい。ただの世捨て人ではないことが、一目で感じ取れた。
「すみません。私はリンデ。この近辺に遺跡があるという情報を得て探しているのですが……」
リンデが馬から降りて名乗り、ここへ来たいきさつを短く説明した。対峙すると、老人の背が意外と高いことがわかった。
「ふん。わしはダーウィンじゃ。動物学者をしとる。お前らのおかげで職を失わなければな」
「俺はコランだ。動物学者なら、危険な生物についてくわしいのだろう? まだ出くわしていないが、どんなやつがいる」
「森の危険性も知らずに来たのか……まったく、しょうがないやつらだ」
悪態をつきながらも、老人はどこか楽しそうだ。実は、これまでの人生で蓄積された知識を放流できるこの瞬間が、彼の楽しみなのだ。人類全体の知性の底上げが進化につながる。そう信じていた。
彼の言葉は、聞く者にとって初めて知ることばかりだろう。興味深いものから、全く食指が動かないものまで、あまりにも豊富な知識量に圧倒される。危険な生物の知識は、山師としても有益だ。ただ、話がものすごく長い。
◇ ◇ ◇
──校長の話の次に、効果的な睡眠導入剤だ。
クラッサスは落ちる瞼を必死に持ち上げ、切りのいいタイミングを見計らっていた。老人が一息つき、膨らんだリュックから分厚い本を取り出そうとした。今だ!
「ありがとなじいさん、オレたちはもう行くよ。勉強になったぜ」
「なに? そうか……また聞きたくなったら来るがいい」
ダーウィンは出した本をリュックに戻すと、名残惜しそうにクラッサスたちを見た。「場所を変えんといかんな」と言って縄梯子をブンと振り、枝に引っかかっていたフックを器用に外すと、これも丸めてリュックに詰めた。
「そういえば、お前たちみたいに、ここを通って行ったもんがおったな」
荷造りをしながらダーウィンが言った。そいつらって、シンボルを描いた邪教徒なのではないか? ガレ・メネアスに手を掛けたクラッサスが振り返る。
「どんな奴だった!?」
「黒いローブを着た連中じゃ。顔は知らん。わしは木の上にいたからの」
「そっか。そいつらが先に行ってるってことだけでも知れてよかったよ。じゃあなじいさん。楽しい話をありがとよ」
クラッサスはダーウィンに礼を言い、背面に溶接された足場を登り、操手槽へ入ると、座席に体を固定して愛機を起動させた。心肺機が動き、ブルブルと小さな振動が機体を小刻みに揺らす。心肺機がひときわ大きく唸ると、安定した低い音に替わった。
「その話を、最初に知りたかったけど……へへ」
クラッサスは、一期一会のこのひと時に、手を上げて別れを告げた。老人は、その後ろ姿を静かに見守っていた。
三人は、ダーウィンの話を熱心に聞いたことで、動物学技能の修練度を10点獲得した。
◇ ◇ ◇
どこを向いても緑、緑、緑。代わり映えの無い植物の応酬に、本当に進んでいるのかと錯覚するほどだ。
「クラッサス、何かあるぞ」
コランが木々の合間から見える白い柱のようなものを指さした。呼び止められたクラッサスが身を乗り出して目を凝らす。
「ああ、あれか。奥にでかい建物があるな」
「目的の遺跡……でしょうか」
「ふむ、そのようだな。ここからは降りていくぞ」
コランはリンデを抱えて馬から降りると、手近な木に馬を結び付け「待っていろ」と声をかけた。
「あれだけでかい音を出してたからな、気づかれてるかもよ?」
クラッサスもまた、愛機に駐機姿勢をとらせ、ぶら下がりながら降りてきた。
突如現れた石造建築。半ばで砕け落ちた石の柱が並び、その奥にある低いピラミッド状の遺跡はコケと蔦に覆われ、半ば森と同化している。
三人は木の影から影へ身を隠しながら慎重に足を進めた。静かだ。邪教徒の姿は見えない。
「誰もいないよな?」
クラッサスが木の幹に背をつけながら言った。聞こえるのは動物たちの声と鳥の羽ばたき、草木がこすれ合う音だけだ。
「それだけではないようだ。地面を見ろ」
コランが異変に気付いた。地面のいたるところに黒いしみがあり、何か重い物を引きずった跡が、遺跡の入口へと続いている。砕けた柱には赤い飛沫が散っている。
「……血か?」
クラッサスは槍と盾を構え、謎の惨劇跡地へ近づいた。コランも、リンデの肩に手を置き「ここで待て」と言い、後に続く。
遺跡へ近づいてみると、黒いローブの男が二人倒れているのがわかった。いずれもひどく損傷しており、引き裂かれたローブからはおびただしい量の血が流れていた。槍先で突っついてみたが、反応はない。
「うわっ……死んでるのか? ……ひでーなこれは」
「どうやら、こいつらが邪教徒で間違いないな」
コランが物言わぬ男の腕を剣で示した。そこには邪神ジアクスを示す、渦を巻くシンボルのタトゥーがあった。
「どういうことだ? 仲間割れでもしたのか?」
「ぬう! もっとおかしな奴が倒れているぞ」
コランが驚きの声を上げた。そこには、トカゲが人に近づいたような姿をした怪物が倒れていた。体には酷く引き裂かれた傷があり、それが致命傷となったのだろう。
「ますますわからねぇ。どうなってんだ……」
「……きっと、マグ・ドラフですね。おじいさんが言ってたじゃないですか」
好奇心に負けたリンデが、おずおずと二人のもとへやって来た。無惨に横たわる死体を前に、青ざめた顔でコランに引っ付いている。
──おじいさんによれば、マグ・ドラフは直立歩行する人型のトカゲといった外見。独自の言葉を持ち、火を使わない原始的な生活をしています。人間に対してあまり友好的ではないですね。なぜかというと、神話の時代に、人に化けた「竜」と人間とのあいだにできた、忌むべき種族だとも言われているからです。だから、自分から人里に近づくことはないそうです。
「ここを巣にしていたマグ・ドラフと、邪教徒が争ったのかもしれません」
「じゃあ、なんで両方倒れてるんだ? 勝った奴がいるはずだろ」
「ふむ。答えはあの中にありそうだな」
コランが黒く開いた遺跡の入口に目をやった。この惨状を見た後では、人を喰らう怪物の口にも思えた。
「よっし! そんじゃダンジョン探索と行こうぜ」
クラッサスが気合を入れ槍で入口を指し示すと、仮面がフワリと降りて来た。
「さあ、今日はここまでです。これ以上の冒険は、体に負担がかかりますからねぇ」
出鼻をくじかれ、ズルっとずっこけるクラッサス。ワースメーカーの登場で、緊迫した空気が一瞬で霧散した。
「ちぇ、これからってときに」
「ははっ、しかたあるまい」
コランが剣を納め、腰帯をぐいと引き上げた。
「ふー、なんだか緊張しっぱなしで、疲れました」
周囲の風景が、風に吹かれて舞い上がるジグソーパズルのように崩れて、天に昇っていく。それを見上げた三人の意識もまた、空へと吸い寄せられていった。
◇ ◇ ◇
短い夏も終わりに近づいていた。資料室の窓から入る風が、涼やかにカーテンを揺らし、室内にわだかまる熱気を押しのけていく。リンデは、朦朧とする意識の中、瞬きしながらゆっくりと目を開いた。ショーの顔が近い。
「……縮んだ」
ついさっきまでクラッサスだった男が、自分の下にいる。事態が飲み込めないリンデが上体を起こす。ふいに、ずきりと頭が痛み眉をしかめた。
「痛った……」
頭がぼーっとしている。うまく考えることができない。もう少し休んでも──リンデが深くため息をつき、もう一度顔を埋めようとしたその時。
「ふふっ。少し見ない間に、ずいぶんと仲良くなったのね」
背後から、メリー・クラウンベルの声がした。びくっと肩を震わせ硬直するリンデ。古びた木の人形のようにギギギと音が鳴りそうな動きで、顔をそちらに向けた。
「ベル先輩!? あ、あの! これはっ!」
「早くどかないと、ショーが目を覚ますわよ?」
先に目を覚ましたメリーが頬杖を突き、折り重なるように倒れる二人を眺めていた。途中参加だった彼女は、この二人よりも精神的疲労が少なかったのだろう。
見られていたことで頭に血が上り、思考が加速する。ショーに馬乗りになっていたリンデは、顔を真っ赤にしながら飛び跳ねて、ちょこちょこと足を動かし、メリーの向かいの椅子に音を立てて座った。それでも感情が収まらず、パントマイムのように手を泳がせていた。
「わた、わわわ……これは、そのっ……私もよくわからなくてっ……」
「落ち着きなさい。あなたが頭を打たないように、ショーがかばったのよ」
「あ……そ、そう……なんですね……」
胸の前で両手の指を絡めていると、制服の前が汗で濡れて、薄い水色の下着が透けていることに気づいた。ショーと体を重ねていたから──そう考えただけで頭が沸騰しそうになる。
リンデは窓際へいき、風に吹かれて熱を冷ますことにした。チラリとショーへ視線を向ける。すると、もぞりと体をくねらせショーが目を覚ました。はっとして、咄嗟に顔を外へ向けた。
「いてて……オレが最後か」
ショーがテーブルに手をかけて立ち上がった。硬い床に長時間寝ていたことで、体の節々が痛む。外を眺めている窓際のリンデをちらりと見て、何か思いついたかのように頷いた。
「なぁ、リンデがコラン知らないからさ……」
メリーに顔を寄せてヒソヒソと耳打ちするショー。
「そうね。……リンデ、あなた今日わたくしの家にいらっしゃい」
「はい? ……えっ!? いいんですか!? 行きます!」
突然の僥倖に、顔を輝かせ飛び上がって喜ぶリンデ。だが、その真実を知るショーは、憐れむような視線を投げかけていた。
「明日は風曜だし、ごゆっくり」
──ショーたちの世界の一週間は八日あり、風曜は週の最後の日。つまり休日である。
「先に帰るわ」
立ち上がるメリーの腕に自分の腕を絡めるニコニコ顔のリンデ。
「ショーさん、さようなら。行きましょうベル先輩」
「ああ、気ぃつけろよ」
はしゃぐリンデを連れて部屋を後にするメリー。二人に手を振って見送ったショーは、ぼそりとつぶやいた。
「生きて帰れよ、リンデ」
◇ ◇ ◇
違う、そうじゃない……思ってたのと違う! リンデは理想と現実の落差に、またしても絶望を味わうこととなった。
女子会ですよ? パジャマパーティーはクリアしました。でも、もっとこう恋バナとかあるじゃないですか! ベル先輩とショーさんがどうなんだとか! ね?
それなのに……大きな液晶テレビが映し出しているのは、剣闘士として死闘を繰り広げる半裸の男たちの狂乱。そして、勇猛な戦士たちが横たわる闘技場に、二人の男だけが残った。
一人は無論、我らがコラン。相対するは、伸ばし放題の乱れた黒髪に顔を覆う髭。まるで獅子のような顔の男だ。
「名乗れ! 俺は、並ぶもの無きグレルダンの子。バンタレス!」
「あの世で誰に斬られたのか聞かれたら、こう答えろ。コランだ!」
しかも、テレビが乗っているラックには、メリーが操るキャラクター、コランの原作である「蛮人王コラン」のボックスセットがシーズン10まで並んでいる!
ベル先輩といえば、マッチョたちの戦いをニコニコしながら鑑賞中。あっ、先輩がこっちを見た。そして、私の顔を両手で挟む。風呂上りで上気した艶やかな肌。悦に浸るベル先輩の顔にうっとりと見とれていると──
「見逃しちゃだめよ」
ぐいと、画面の方に顔を修正された。
コランがスライディングのように相手の下へ滑り込み、剣を突き上げた。黒髪の男の腹を貫き、そのまま横へ投げ飛ばす。男は動かなくなり「勝者、コラン」と高らかに宣言された。
闘技場が割れんばかりの歓声に包まれた。むさくるしい男たちの戦いに、決着がついたのだ。
私がこの状況から助かる方法は一つしかない、それは──寝落ちだ。




