スラムの子供と闇ギルド
街ではステッカーが子供たちの間で大流行していた。
広場や路地裏では「どっちがレアか」「交換しようぜ」と声が飛び交い、
ちょっとした祭りのような熱気さえ漂っていた。
ティオの友人ケントも夢中になっていた一人だ。
ある日、念願の「R」ステッカーを手に入れ、
顔を輝かせて帰路についた。
──だが、家に着いたとき。
「な、ない……!?」
ポケットを探っても、買ったはずのステッカーがどこにもない。
途中でフードを被った同年代の子供とぶつかった記憶が蘇り、ケントはスリ被害を確信した。
泣きながらティオとジャスティンに打ち明けると、「最近、盗まれたって子もいる」
二人の表情も強張った。
三人はステッカー屋に駆け込み、リュシエルに相談した。
「……店の外でなくしたのは自己責任だよ」
紫煙をくゆらせながら、リュシエルは一蹴する。
だが、すぐに吐息を深くして付け加えた。
「……とはいえ、野放しにすんのも癪だね。
カイル、アンタ探してやりな」
たまたま店に居合わせた冒険者カイルは肩を竦める。
「……仕方ないな。常習なら放っとけない」
こうしてケント、ティオ、ジャスティン、カイルの四人は調査を始めた。
迷路のような裏路地を駆ける影。
「そっちだ!」ジャスティンが叫ぶ。
「返せよ、俺のステッカー!」ケントは涙声で追いすがる。
やっと袋小路で追い詰め、カイルがフードを掴んだ。
ばさりと剥ぎ取られた布の下から現れたのは、
顔中に痣を残した、ボロ布をまとった少年だった。
「……ごめん……」
少年の名はジュノ。
ティオがポーチに貼ったウサギのステッカーをなぞると腫れ上がった頬の傷はみるみる引いていく。
ジュノは堰を切ったように涙を流し、事情を語った。
〜〜〜〜
「テメェ、こそこそ盗みやがって……誰に許可もらったんだぁ?あぁ?」
路地裏。ジュノは壁際に追い詰められ、
二人のチンピラに胸ぐらを掴まれた。
「うぐっ……!」
拳が頬にめり込み、視界が揺れる。
「子供の分際でステッカーだ? いい身分だなぁ!」
蹴り飛ばされ、ジュノは泥に倒れ込む。
殴られ、蹴られ、何度も。
「……盗れ。もっと盗ってこい。さもなきゃ……」
チンピラの片方が嗤った。
「仲間のガキども、衛兵に突き出すぞ」
その言葉に、ジュノは息を呑んだ。
翌日、チンピラ二人は酒場の奥で商人に笑顔を見せていた。
「ほらよ、ガキからかすめ取ったステッカーだ」
小袋を広げると、商人の目が輝いた。
「……こりゃ高く売れるぞ。街の子供や冒険者は熱狂してる」
銀貨が数枚、机に置かれる。
チンピラはにやけ、酒をあおった。
「ククッ、こんな簡単に金になるとはな」
だが彼らはさらに欲を出した。
スラムの小屋に押し入り、子供達を縄で縛る。
泣き叫ぶ声を背に、ジュノの耳に低い声が落ちた。
「おいガキ。次にステッカーを盗ってこなきゃ、こいつら全員突き出す」
ジュノは蒼白になり、首を振った。
「やめて……! 俺がやるから、みんなは……」
こうして彼は泣く泣くスリを続けていたのだ。
〜〜〜〜〜
カイル達は事態を重く見てリュシエルに報告した。
彼女の表情が一変する。
「子供を盾に? ……地獄に落ちても飽き足らない外道だね」
紫煙を吐き捨てると同時に、壁の剣を掴む。
剣の刃が一瞬だけ、不思議な紋のような光を浮かべた。
カイルは「ん?」と目を凝らしたが、リュシエルの背に隠れて見えなくなる。
「アタシの商売に泥を塗ったツケ……全部払わせてやるよ!」
次の瞬間、リュシエルは店を飛び出していた。
数分後、チンピラ二人を瞬く間に叩き伏せ、リュシエルはアジトの場所を吐かせる。
「報復が来るぞ……」、「俺達は闇ギルドの一員!タダで済むと思うなよ!」と脅す二人に、リュシエルは鼻で笑った。
「上等だね。まとめて潰してやる!」
チンピラ2人を引きずってアジトに突入すると、構成員たちが気炎を吐いた。
「アンタ達が闇ギルドかい。これから全員叩きのめしてやるから、1列に並ぶか、まとめて掛かってくるか選びな!」
「舐めるなよエルフ女! ここは闇の掟が支配する場所だ!俺たちの背後には商会も貴族もいるんだ、潰されてたまるか!」
武器を構える構成員たち。
リュシエルは唇を歪めた。
「背後に誰がいようが関係ないね。……子供に手を出した時点で終わりだよ」
炎槍が宙に浮かび、雷光が走り、風刃が壁を裂いた。
剣が閃き、構成員たちは次々となぎ倒される。
「ま!待ってくれ!俺達にも事情は分からんが、その2人が原因だろう?頼むからもうやめてくれ!、、、」
全滅寸前、闇ギルドの長が土下座し謝罪する。
だがそこへ王宮騎士団が駆けつけ、リュシエルを拘束した。
「リュシエル!破壊行為で拘束する!」
「なんだいアンタら今さら雁首揃えて!!誰もやらないからアタシがやったんだよ! この腑抜けども!放せ!っこの!」
暴れる彼女を縛り上げ、騎士団は詰所へ連行する。
事態を聞きつけたルーサーはすぐに部下をステッカー屋に配置し、自らは詰所へ交渉に向かった。
〜〜〜〜
チンピラ二人は、闇ギルドの長の前で土下座していた。
「違うんです! 俺たちは被害者で……」
「全部あの女が悪いんです!」
だが暗殺者が背後に立ち、冷たく囁いた。
「見苦しいクソが。子供を玩具にした時点で、下っ端以下の恥さらしだ。……口を閉じろ」
閃光が走り、二人の首筋から赤い線が迸った。
チンピラたちは呻きもせず、床に崩れ落ちる。
暗殺者は刃を拭い、吐き捨てた。
「こいつら二人の命じゃ、面子も保てないし……割に合わなさすぎます」
重苦しい沈黙の中、長は呻くように言った。
「……もうここでのシノギは無理だ。王都の別の闇ギルドに目をつけられる前に、引き払うぞ」
〜〜〜〜〜
闇ギルドは人質の子供を解放し、王宮に投降。
ルーサーの尽力もあり、リュシエルは釈放されたが、「通報を怠った」として孤児院での奉仕活動を命じられた。
「ったく、面倒なこと押し付けやがって……」
悪態をつきながらもリュシエルは孤児院に赴く。
そこでジュノらスラムの子供達と再会。
そこにはカイル、ティオ、ケント、ジャスティンもジュノ達の為に集まっていた。
ジュノはケントに深々と頭を下げた。
「ごめん……もう盗んだりしない。これからは友達として、ステッカーを交換して欲しい。良いよね?」
「もちろんだよ!」
ケントも涙目で笑い、握手を返す。
孤児院では、子供たちがお金なしでも楽しめる仕組みを作ることになった。
リュシエルは考え込んだ末、10歳以下を対象にポイント交換制度を導入する。
「五ポイントでノーマル、十でレア、十五でスーパーレア。
手伝いでも素材持参でも加算するよ」
「やった! 明日は雑草抜きでポイント稼ごう!」
「俺は薪割り!」
子供達の歓声に、孤児院の院長も深く頭を下げた。
ルーサーは少し離れた場所から彼女の表情眺めて頬を緩めた。
リュシエルは紫煙を吐き、子供達を見渡す。
前世で病に倒れた自分、今世で子供に無配慮だった自分を思い出し、恥じた。
「……これからは孤児院も神殿も、出来る限り協力してやるさね」
リュシエルが腰に提げた剣が、一瞬だけ鈍い光を放つ。
誰も気づかなかったが、そこにはまだ語られていない秘密が宿っていた。




