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闇夜の抗争

 

 裏町の灯が揺れる。

 篝火の影に蠢くのは、二つの影――人族の金蛇組と獣人の克己組。


 金蛇組の頭領、金田五郎は下卑た笑いを響かせながら腕を振り上げた。

 鎖に繋いだ違法魔道具がぎらぎらと光り、背後の子分どもが一斉に吠える。


「へっへっへぇ! 獣の分際で粋がりやがって! 今夜は潰してやるぜ!

 ――それとよォ……どこだ? あのチビのメス侍は! 俺のオンナにしてやらァ!」


 名指しされたわけでもないのに、子分たちは苦笑しつつも合いの手を入れる。

 五郎がかつて小虎に返り討ちに遭い、一目惚れして以来追い回しているのを、皆知っていたからだ。


 対する克己組の列の先頭には、熊獣人の巨躯――永山克己が立つ。

 眼光は静かに燃え、心に宿るのは任侠の誓い。


「五郎。てめぇの欲に任せて魔に縋った時点で、任侠を名乗る資格はねぇ。……今宵、この克己が断を下す!」


 獣人たちが咆哮し、次々と式札を切る。

 火花のように爆ぜた式札からは鉄針が飛び、別の封符からは槍が抜き出される。

 それは本来の陰陽師の術ではなく、玄道――かつて“湯原新吉”を名乗った忍びが遊び半分に伝えた技を、克己組が独自に磨き上げたものだった。


 金蛇組の魔道具と、克己組の式札。

 夜の裏町で、仁義と欲望の抗争が火を噴いた。


 火花が散る。

 金蛇組の若衆が放った爆裂筒から炎弾が飛び、石畳を砕いて破片を雨のように撒き散らす。


「へっへっへ! 燃えろやァ!」


 しかし克己組の獣人衆は怯まない。

 式札の閃光と共に撒かれた鉄針が火炎を貫いて逆襲する。

 針は生き物のように追尾し、金蛇組の足や腕に突き刺さった。


「ぐあっ、何だこりゃ!」


 魔道具の爆音と、式札の鋭い光。

 両者の攻撃が交錯し、路地は地獄と化した。


 金蛇組は魔道具を次々と繰り出す。

 幻惑眼鏡で姿を二重三重に映し出し、麻痺霧の壺を転がして感覚を奪う。

 力任せの一撃必殺――派手だが粗雑。


 一方の克己組は、連携の妙で応じる。

 煙符を投じて霧を打ち消し、封符から槍を取り出して突き立てる。

 爆裂符を投げ込めば、礫が蛇のように敵を追い、的確に装備を破壊する。


 金蛇組が力押しするたびに、克己組は式札で捌き返し、息の合った反撃を繰り出した。


 戦場の中心では、二人の親分が相まみえていた。


 金田五郎。

 雷撃の魔道具を両手に構え、狂いの笑みを浮かべる。

「克己ィ! 今夜でテメェらの名は地から消す! 女もシマも、ぜんぶ俺のもんだ!」


 永山克己。

 熊獣人の巨躯が吠える。

「欲のために血を流すだけの人間風情が! 任侠を汚すなら、この場で叩き伏せる!」


 五郎の雷撃が閃光を走らせる。

 だが克己組の幹部が封符を切り、隠していた鉄盾を瞬時に呼び出し受け止めた。

 雷鳴が弾け、盾の背後から獣人の咆哮が響く。


「克己組を舐めるなァ!」


 その叫びと共に爆裂札が放たれ、礫の奔流が五郎の足元を穿った。

 五郎は舌打ちし、飛び退く。


「チッ……厄介な技だ!」


 夜の路地は、爆炎と式札の閃光に彩られた。

 金蛇組の粗暴な魔道具の力と、克己組の緻密な式札戦術。

 互いに一歩も譲らず、血と火と煙が渦を巻く。


 だが五郎は吠え続ける。

「小虎だか何だか知らねぇが、女はオマケよ! 今は克己を潰せりゃそれでいいんだ!」


 永山克己の声が轟く。

「聞いたか若ぇの! これが欲に呑まれた男の末路だ! 俺たちは義で勝つ! 牙を見せろ!」


 雄叫びと共に獣人衆が突撃し、再び火花が散る。

 抗争の夜はまだ終わらなかった。


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