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閑話・衛兵達の闘い

 工房の隣に新設された衛兵詰所は、王都で最も騒がしく、そして最も忙しい場所となっていた。

 理由はひとつ――リュシエルの工房である。


 《ひんやり》《ほかほか》《癒し》《耐火》、さらに話題沸騰の《鏡面ステッカー》。

 便利さと希少性に惹かれ、冒険者、職人、商人、貴族までもが殺到し、工房前は常に市場の戦場と化していた。


 当然、影も差す。偽物を掴ませる輩、デマを流す商売敵、横槍を入れる貴族。背後で暗躍する《リンボの鍵》。

 ――それらをすべて捌くのが、衛兵団の役目だった。


「報告! 《耐火ステッカー》の偽物を掴まされた鍛冶屋と行商人が、広場で大立ち回り!」

「南門で“リュシエル殿は税を誤魔化している”と触れ回る連中が!」

「工房前に、貴族の使者を名乗る男が居座っています!」


 立て続けの報告に、詰所の空気が張り詰めた。

 団長ガルドンは机を拳で叩き、号令を飛ばす。


「第一分隊、広場の乱闘を止めろ! 棍で押さえ、双方を詰所に連行!

 第二分隊は南門へ! 扇動屋は鎖で括って背後を洗え!

 第三分隊は工房前だ。使者を名乗るなら証文を出させろ、無ければ牢屋で冷やさせろ!」


「「「応ッ!!」」」


 鎧の音が響き、衛兵たちは雪崩のように駆け出していった。



 広場の乱闘は盾と棍棒であっさりと制圧出来た。

 南門では扇動屋が縄に掛かり、黒幕を吐かせるため詰所へ連行され、工房前では使者を名乗る男が証文も出せず鎖で繋がれ、見物人に嘲笑されながら引き立てられた。


 ――だが本当の闘いは夜に訪れた。


 深夜、工房を狙って二十名近い武装集団が押し寄せる。

 その狙いは《鏡面ステッカー》の強奪。


「隊列組め! 盾を前に!」

 団長ガルドンの声が夜気を裂く。


 だが敵は数で押し切ろうと突撃してきた。盾列が軋み、足が押し下げられる。

 その瞬間、ガルドンが腰の袋から札を取り出し、最前列の盾に叩きつけた。


「発動――《硬化ステッカー》!」


 岩の紋のステッカーが淡く輝き、盾が岩を纏う。

 重量が増し、厚みを増したそれは小さな城壁のごとく揺るがない。


 突撃してきた賊どもは「ぐっ……動かねぇ!」「いっでぇ!?」と呻き、衝撃に弾かれ次々と倒れていった。


「今だ! 押し返せ!」

 衛兵たちは一斉に突き出し、賊の列を崩壊させる。残党は蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、数名は鎖に繋がれて牢へ送られた。


 戦いを終えた衛兵たちは、汗と血にまみれた鎧を脱ぎながら笑い合う。

「《硬化ステッカー》は反則だな……まるで大盾が石壁になったみてぇだった」

「工房の品を護るのに工房の品を使う――いい話だ」


 団長ガルドンは杯を掲げる。

「聞け! 我らの詰所は王都で最も忙しく、最も危険だ。だが俺たちが護るのは、王都の心臓だ! 胸を張れ!」


「「「おおおッ!!!」」」


 声は夜空を揺らし、工房の灯と混じり合って、王都の一角を照らしていた。


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