リュシエルの前世
病室の窓から、薄曇りの空が見えていた。
点滴の音だけが響く静かな時間。
ベッドの横には、擦り切れたバインダー。
そこに詰まっているのは、色褪せたカードやシール。
「ドッキリ天使シール」や「幻界召喚カード」──そして特別仕様の“シール・トレカ”たち。
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小学生の頃。
駄菓子屋で買ったお菓子の箱から飛び出す「剥がせるステッカーカード」。
カード中央のキラキラシールを剥がせば別の絵柄が現れる。
「剥がすか残すか……どうする!?」
友達と真剣に悩み、結局全部剥がしてボロボロにした。
今思えば、あの時のドキドキが一番の宝物だった。
中学時代は「二重構造カード」が流行った。
光にかざすと隠しイラストが浮かび上がる仕掛けに夢中になった。
授業中も窓辺でカードを揺らし、キラリと幻影が浮かぶたびに小声で歓声を上げた。
傷つきやすいから大事にスリーブに入れて……それでも擦り傷がつけば泣きそうになった。
高校では「合体カード」。
数枚を並べると一枚の巨大イラストになる。
あと一枚が出なくて、夜な夜な机に広げて眺めては「いつか揃う」と夢を見た。
トレード会で一枚手に入れた時の震えは今も忘れられない。
そうやって集め続けたカードとシールは、バインダーのページをめくるたびにキラキラと輝き、心を満たした。
誰に笑われても、それは確かに彼の生きた証だった。
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青年になり、病に倒れた彼は、ベッドで衰えゆく体を横たえながら、そのバインダーを抱え続けた。
ページをめくるたび、幼い日の駄菓子屋、放課後の教室、仲間との笑い声が鮮やかによみがえる。
最期の時。
両親が泣きながら言った。
「……こんなことなら、もっとカードやシールを買ってやれば良かったな」
彼はかすかに笑った。
「ううん……何が出るか分からない……そのドキドキが楽しかったからさ……」
言葉はそこで途切れ、静かに瞳が閉じられた。
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現在。
リュシエルはステッカー屋のカウンターで紫煙を吐きながら、バインダーの記憶を思い出す。
「……あたしがステッカー屋なんてやってる理由? 前から決まってたのさね。剥がすか残すか、光にかざすか、揃えるか……あのドキドキが、あたしの命なんだよ」
彼女の瞳には、前世から変わらぬキラキラした光が宿っていた。




