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断罪の炎

夜の街道を、松明の列が進んでいた。

先頭に立つのは、ラグナ・カーヴェイン侯爵。

背後には武装した騎士たちと、黒衣の魔術師たち。


「奴を捕らえろ。あの女を陥れるのだ」

侯爵は唾を飛ばし、怒気を吐き散らした。


――だが、その道を塞ぐようにひとりの男が立っていた。

王宮魔術師、ルーサー・グランディールである。

彼は部下の魔術師達を連れていた。


「……これ以上、愚行を重ねる気か。ラグナ・カーヴェイン侯爵」


侯爵は顔を歪めた。

「ルーサー……貴様、我らの邪魔をするのか」

「邪魔ではない。止めに来たのだ」


背後で騎士たちが槍を構え、魔術師たちが詠唱を始める。

侯爵は癇癪を爆発させた。

「おまえ達!こいつと後ろの連中を叩き潰せ!」


ルーサーは部下に視線を向け、静かに告げた。

「手出し無用だ。……これは私が払う火の粉だ」


掌を掲げ、一節を紡ぐ。


「……貴族たるもの、身にかかる火の粉は払うばかりか――倍返しするものだ!」


瞬間、空に幾十もの炎槍が浮かび上がった。

紅の輝きが敵を照らし、騎士たちの足がすくむ。


「うおおお!」

恐怖を振り払うように突撃する騎士たち。

後方では魔術師たちが障壁を展開し、詠唱を加速させる。


だが無駄だった。


炎槍は一斉に放たれ、雨のように四方八方から襲いかかった。

盾ごと貫かれた騎士たちが倒れ、鎧は焼け焦げる。


炎槍は次々と着弾し、後方の結界は穿たれ、夜空を震わせ、魔術師たちの詠唱は悲鳴にかき消された。


八割がその場に崩れ、残ったわずかな者たちは武器を投げ捨て、恐怖に震え上がる。


ルーサーの部下達は魔法の威力を目の当たりにし瞠目した。


「さ、さすがルーサー様……」

「だが……リュシエル様はこれ以上だと、噂されているが、まさか……?」



「ば、ばかな……私の部下が……!」

ラグナ侯爵は腰を抜かし、後退する。


ルーサーは冷ややかに告げた。

「侯爵、身にかかる火の粉は自分で払え」


その時、鎧の響きとともに王宮の騎士団が駆けつけた。

「ラグナ・カーヴェイン侯爵! 王命により連行する!」

侯爵は必死に逃げようとしたが、無様に押さえ込まれた。


ラグナを拘束したあと――


王宮騎士団長はルーサーを労う。


「……見事なお手並みだった、ルーサー殿。もし我らだけで相手をしていたなら、甚大な被害が出ていただろう」


「いや、こちらこそ感謝する。貴公らの迅速な対応があったからこそ、侯爵を取り逃さずに済んだ」


騎士団長はわずかに微笑む。


騎士団長はルーサーに近づき、声を落とす。

「……例の“ステッカー”の件、王宮でも議題に上がっている。陛下も強い関心をお持ちだ」


ルーサーの胸に冷たいものが走った。

「……やはり、そうか」


彼は王宮騎士団が去った後も立ち尽くした。

夜風が頬を撫でる。

王宮に召し上げられれば、彼女の才は利用されるだろう。

縛られ、自由を奪われ、あの勝ち気な笑みは消える。


(それだけは……避けたい。だが……)


拳を握りしめ、彼は目を閉じた。

「……それでも、彼女は王宮にこそ相応しい。誰よりも美しく、強い魔術師なのだから」


矛盾する感情が胸を締めつける。

守りたい。しかし共に歩むなら、宮廷しかない。

その狭間で揺れる自分に、ルーサーは小さく苦笑した。



〜〜〜〜〜


脳裏に甦るのは、訓練場の記憶。


「まったく、アンタは理屈ばっかで魔力が固いんだよ。貸しな」

肩越しに抱き込まれ、背中をなぞられる感覚。

耳元で囁かれる。

「ここで一拍置いて、流すんだ。簡単だろ?」


顔は真っ赤、詠唱はぐだぐだ。

「なに赤くなってんのさ! しっかりしな!」

周囲の笑い声。


だが、その教えが今の自分を作った。

――単節で魔力を最大限に引き出す感覚。

『火の粉は払うだけじゃ足りないよ。どうせなら倍返しして黙らせるのさね!』

その言葉を、今も胸に抱き続けている。


〜〜〜〜〜


数日後。

《街のステッカー屋さん》の扉が開き、ルーサーが姿を現した。

紫煙の奥からリュシエルが顔を上げる。


「……この間は、まぁ……助かったよ」

「なんだ、珍しく素直じゃないか」

「勘違いすんじゃないよ! 借りを作るのは癪だから礼を言っただけさね」


ルーサーはわずかに笑みを浮かべる。

「やれやれ、相変わらずだな。……だが、君はやはり王宮にこそ相応しい」


リュシエルはぷはぁと煙を吐き、ぷいっと顔を背けた。

「やだね。あたしゃここが一番性に合ってるのさね」


「……そうか」

ルーサーは表情を崩さなかったが、胸の奥で思いは渦巻いていた。


二人はそっぽを向き、沈黙が流れる。

だが差し込む陽光は柔らかく、紫煙の向こうの空気は不思議と穏やかだった。

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