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工房再建と宴会


王都の大通りを抜け、角を曲がった先。リュシエルは足を止めて、呆れ声を漏らした。


「……なんだいこりゃ。砦でも建てたのかい」


 そこにあったのは、新しく建て直された工房。二階建てに増築され、厚い石壁が積まれ、しかも隣には衛兵の詰所まで鎮座している。


「まるで城塞じゃないか……」

「そ、その……治安対策と、火災防止も兼ねて、という話で……」


 ルーサーが額の汗を拭いながら言い訳する。リュシエルはジト目を向け、煙管をカチリと鳴らした。

「話が“ちょっと丈夫に”から、どうしてこうなるんだい。あたしは砦に住んでたんだったかね?」


 そこへ元気な声が割り込んできた。


「リュシエル姉ちゃん! 帰ってきた!」

「工房でっけぇー! 要塞じゃん!」


 駆けてきたのはティオ、ケント、ジャスティン、ジュノ。以前より背も伸びて、少し大人びた顔立ちになっているが、はしゃぐ様子は昔のままだ。


「俺、いつか姉ちゃんを嫁にするからな!」

「バカ言うな、オレだ! この工房を一緒にでっかくするんだ!」

「おい、じゃあオレは姉ちゃんの作ったステッカーで世界を回る!」

「ボ、ボクは……姉ちゃんが困ったらぜんぶ手伝うから……!」


 口々に叫び、顔を真っ赤にして張り合う少年たち。リュシエルは苦笑を堪えきれず、鼻を鳴らした。

「まったく……あんたら、少しは順番ってもんを考えな」


 そんな騒ぎに、街の住民たちも集まってくる。声を掛け合い、笑い合ううちに、自然と宴の準備が始まった。


 果物の盛り合わせ、焼き立てのパン、樽から注がれる酒――気づけば再建した新工房前は宴会場に変わっていた。


 カイルも姿を見せた。以前は新米冒険者と呼ばれていたが、すっかり青年の顔をしている。


「リュシエルさん。俺もようやく中堅の冒険者になりました。ここで買ったステッカーのおかげで、何度も命拾いしましたよ」


 リュシエルは煙を吐き、にやりと笑う。


「ふん、客は大歓迎さ。財布の中身ごと置いてってくれるなら、なお結構だね」


 その軽口に、広場いっぱいの笑い声が広がった。


 その場がどっと笑いに包まれる。


 やがて、賑わいの中に外交官たちも現れた。

 森の国ファーフォールンからは、賢者ホロウム。長身のエルフが酒樽を担ぐ姿に、住民たちはざわついた。


「妹よ、無事で何よりだ」

「兄さんまで酒持って来てどうすんだい……」


 聖国カナリアからはセラフィン・ド・アルヴェロ。杯を片手に、柔らかな笑みを浮かべつつ、真剣な眼差しで工房を見上げていた。

「新たな工房に祝福を。あなたのステッカーは、信徒たちの心も救っている。……それを伝えに来ました」


 東の天久国からは芦屋玄道。浅葱色の羽織を翻し、忍びらしい軽い足取りで樽を担ぎ上げる。

「祝いの席だ、飲まねば損だろう?」


 そして北の軍事国家エルネストリオンからは、ハーフタイガーエルフのアネモネ。尖った耳と縞の尾を揺らしながらも、リュシエルに歩み寄る声は柔らかかった。


「……無事に帰ったな。そして工房再建、おめでとう、リュシエル殿。あなたがいると、この街は少し強くなる気がするよ」


 リュシエルは片眉を上げ、笑った。

「アタシはそんな大層な女じゃないさ。でも、ありがとよ」


 グラスが打ち鳴らされ、笑い声と歌声が夜の街に溢れた。


 ――翌朝。

 二日酔いの頭を抱えながら、リュシエルは机に向かっていた。

「やれやれ……宴会はもう懲り懲りだねぇ」


 それでも手は止まらない。新しいマジックステッカーの図案、そしてコモンステッカーの新シリーズ。


 紫煙の向こうに、また新しい工房の未来が描かれ始めていた。


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