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工房の処遇と耐火ステッカーお披露目

 翌日。

 冒険者ギルドの解体場には、砂漠で討伐された魔物の死骸が並び、熱気と血の匂いが渦巻いていた。

 見習い解体師が必死に内臓を切り分け、鑑定士が素材の鮮度を確かめ、職人が素材を仕分ける。まるで戦場の続きのような慌ただしさだった。


 その場に立つルーサーは、焼け焦げたサンドプラントの一部を取り上げた。枯れ枝のように見える繊維を折ると、青白い光がほのかに漏れる。


「……この魔素の流れ。ポーション残滓に酷似している。代用になるのではないか」


 リュシエルは煙管をくわえながらも興味深そうに近づき、繊維を指でこすり、耳元で裂ける音を確かめた。

「ほぅ……音が軽い。魔力の伝導が走ってる証拠さ。……なるほど、ポーション残滓と遜色ないね」


 彼女は切片を小瓶に収め、魔力を流してみせる。淡い光が瓶全体を巡り、弟子二人は思わず歓声を上げた。

「すごい! 本当に反応した!」

「これなら……新しいステッカーの素材に!」


 ルーサーはうなずき、まとめるように言った。

「サンドプラントは本来、ただの厄介者。しかし、この国では貴重な資源になり得る」


 リュシエルは煙を吐き、わざと気怠げに言った。

「ふん……厄介者を宝に変える。工房ってのはそういう仕事さね」



 同日の午後。

リュシエルたちは王宮へ呼び出された。煌びやかな謁見の間には、衛兵や文官たちが並び、王の玉座が静かに彼らを待ち受けていた。


 ザファル・ア=ディーン・グルバザーン王は、穏やかながらも鋭い眼差しでリュシエルを見据えた。


「リュシエル殿。貴殿の工房は王宮内に置くべきだと考える。販売は王宮前広場で行え。砂塵を避けられ、警備の目も届く。……何より、弟子たちをリンボの鍵の影から遠ざけるためでもある」


 広間にざわめきが走る。

弟子のラシィナとナイールは緊張に息を呑み、ルーサーとカリムは無言で頷いた。


 リュシエルはしばらく口をつぐんだまま、煙を吐き出した。

「……あたしは渡り歩く職人さ。いずれ他国でも工房を立ち上げにゃならない。だが……子供を危険に晒すのはご免だ。仕方ない、王様の提案を受けようじゃないか」


 沈んだ声に、弟子たちは慌てて前に出る。

「師匠、私たちは大丈夫です!」「むしろ王宮なら安心ですよ!僕の家でもありますし!」


 その健気な言葉にリュシエルは目を細め、少しだけ肩の力を抜いた。

ルーサーも横から言葉を添える。

「君の負担を減らすための措置でもある。気に病む必要はない」


 重苦しい空気が和らぎ、王も小さく頷いた。



 やがて、リュシエルは懐から一枚のステッカーを取り出した。

「……そういや、王様にまだ見せてなかったね。新作《耐火ステッカー》ってやつを」


 護衛の兵が慌てて木板を運び出し、リュシエルはそこにステッカーを貼り付けた。

火打石を打つと、小さな炎が木を舐め――次の瞬間、甲高い警報音が響いた。


「ピィィィィ――!」


 弟子たちは耳を塞ぎ、広間の兵士たちは驚いて剣に手をかける。

だが炎は広がらず、淡い光に吸い込まれていく。五分後、板は黒焦げになったものの、燃え尽きることはなかった。


 王は玉座から身を乗り出し、目を見開いた。

「……火を封じるだと……!? これは……国を揺るがす発明だぞ!」


 ルーサーとカリムも険しい表情で言葉を重ねる。

「もし敵国に渡れば、火魔法は無力化される」

「軍事の均衡が崩れ、戦の形が変わるやもしれん」


 ジラも腕を組み、苦い顔をした。

「討伐現場で使えりゃ便利だが……使いどころを間違えたら危ねぇな」


 弟子二人も複雑そうにうなずく。

「師匠はすごいですけど……」「ちょっと怖い気も……」


 ザファル王は厳しい声で告げた。

「この品は登録制とし、販売には制限を設けねばならぬ。各国に周知し、悪用を防ぐことが国王としての責務だ」


 リュシエルは唇を尖らせ、不貞腐れたように言った。

「せっかくの大発明に、ケチつけられるとはね……」


 弟子たちはそんな師を見て、苦笑しながらも尊敬の眼差しを向けていた。


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