閑話・野営の魔道具検証
砂漠の夜は昼とは打って変わり、冷え込みが骨に染みる。
一行は砂竜を輪にして陣を敷き、焚き火を囲んでいた。
捕縛された小悪党――シーパックは、両手を縛られたまま、やたら低姿勢で頭を下げている。
「へ、へへっ……ほんのちょっとの荷物でございますよ。大したものじゃ、ええ、大したものじゃないんです……!」
だが荷を開けば、山ほどの怪しげな魔道具が現れる。
「……血晶燭台」
ルーサーが眉をひそめる。真紅の結晶をあしらった燭台が、月明かりに不気味な光を放っていた。
「人の血で灯し、魔道具の出力を増幅させる……禁制品だな」
「ち、違うんです! 骨董市で買っただけで! 決して血なんて……」
シーパックが脂汗を浮かべて必死に弁明するが、誰も信じていない。
「こっちは……砂蝕羅針盤か」
カリムが手に取ると、針がじわじわと砂漠の奥を指した。
「魔力の濃い場所を指す羅針盤だ。盗賊が隊商を襲う時に使う……違法魔道具の典型だ」
「ひ、ひぃっ……! いえ、それは……ただの旅の道しるべに……!」
「便利そうだな!」ジラが素直に感嘆する。
カリムは即座に横目で一喝した。
「お前が言うな」
ジラが次に掴んだのは銀色の腕輪だった。
蛇の意匠が浮き彫りにされている。
「なんだ、これ……動いたぞ!?」
腕輪の蛇がにゅるりと伸び、ジラの手を魔力の鞭で絡め取った。
「蛇咬腕輪……使用者の魔力を吸い、自動で触手を生やす。中毒性が強い。装着を繰り返すと外せなくなって衰弱死するぞ」
ルーサーの冷たい声。
「ちょ、ちょっと見た目がカッコよかっただけなんですぅ! 本当に……!」
最後に残ったのは束ねられた呪符。
ルーサーが一枚を指で弾くと、ふっと焚き火が消えた。
「お、おい! 誰だよ今!」ジラが叫ぶ。
シーパックは土下座寸前で首を振る。
「ち、違うんです! ただの模造品で……たまたま本物みたいな効果が……!」
暗闇の中でルーサーの眼光だけが冷たく光った。
「欠陥品ゆえに余計に危険だ。……呆れるほかない」
焚き火を再び灯すと、ジラがにやりと笑い、シーパックを茶化した。
「お前、名前と実力が釣り合ってねぇな! “大海原を跨ぐ大商人”どころか、船酔いで倒れるタイプだろ?」
「ぐ……耳が痛いお言葉でございます……」
カリムは冷たく言い放つ。
「親の願いを裏切ることほど愚かなことはない。覚えておけ」
「は、はいっ……! 身に染みます……!」
シーパックの荷は没収され、怪しい魔道具の一部はルーサーの監視下で後日検証されることになった。
野営の夜は、少々騒がしくも笑い混じりに過ぎていく。
――だがこの小悪党が、後に再び物語に関わることになるとは、まだ誰も知らなかった。




