外伝『エルネスト戦記』・【支配の王笏】
帝都・玉座の間。
割れた大理石の床に、血と灰が散っている。
その中心に座す帝王ボルフェルンドの手には、なお赤黒い光を放つ王笏が握られていた。
「愚か者どもが…! 我にこの笏を授けた“声”が言ったのだ。
人は頂点に立つべきと! それが真理だと!」
王笏から漏れ出る黒い霧が、兵の眼を狂わせ、獣人の膝を折らせる。
だが、マギスーツを纏ったエルネストだけは揺るがなかった。
「その声が何者かは知らない」
低い咆哮とともに彼は進む。
「だが、お前たちが自分の手で鞭を振るい、血を流させたのは事実だ」
セレスティアが歩み出る。翠光の精霊が彼女の周囲を舞う。
「外の力に唆されたとしても、選んだのはお前たち自身。森の理は知っている。種が芽吹くのも、枯れるのも、その地の選択よ。故に貴方自身が手を下したも同然」
ティリスは唇を噛みしめ、鋼の拳を握った。
「言い訳ばっかり……! 父さんや皆を殺したのは、紛れもなくあんたら帝国の兵だ!」
ボルフェルンドは血走った目で叫んだ。
「違う! 我らは命じられたのだ、あの存在に!あの尊きお方に!!」
エルネストはゆっくりと歩み寄り、砕けた石段の上で巨躯を止めた。
黄金の眼が帝王を射抜く。
「命じられたからといって、人は必ず従うわけじゃない。俺たちは選んだ。互いを助け、立ち上がることを」
次の瞬間、ファングクローが閃き、王笏を一閃。
赤黒い宝玉が砕け、絶叫と共に瘴気が散った。
玉座の間に重い沈黙が訪れる。
鎖から解かれた奴隷たちが立ち上がり、ただその光景を見つめていた。
エルネストは崩れ落ちた帝王の襟を掴み上げ、静かに告げた。
「帝国が奴隷制を選んだのは、お前たちの意思だ。外の存在が囁いたとしても、それは免罪にはならない」
セレスティアが言葉を継いだ。
「この罪は、帝国が自ら背負うもの。二度と忘れさせはしない」
ティリスも鋭く叫ぶ。
「ここで終わりだ、ボルフェルンド!」
玉座の間の天窓から差し込む朝日が、砕けた王笏の欠片を照らしていた。
それは呪いの終焉であり、革命の始まりを告げる光だった。




