外伝『エルネスト戦記』・【決戦!ファングクローの一撃】
戦場は地獄の様相を呈していた。
赤黒い夕焼けの空に、帝国旗が翻る。
瓦礫と血の匂いが混じり、戦鼓が大地を震わせる。
先陣に立つは、帝国軍の大将ベルモルト。
鎧を軋ませ、赤黒いメイスを振りかざした。
その武器は幾百の奴隷兵の血を吸い、禍々しい輝きを放っている。
背後には数十人の宮廷魔術師団。
幾重ものバフを重ね、ベルモルトの肉体を人ならざる怪物へと変えていた。
血管は膨れ上がり、筋肉は鋼鉄を超え、瞳は狂気に濡れていた。
「奴隷どもが!しかも獣人如きが、帝国に逆らうか! 叩き潰してやる!」
メイスが一閃する。
大地が砕け、獣人戦士の列が吹き飛んだ。
「ぐあっ!」
「退け! まだ立てる者は剣を!」
──その前に、虎の巨躯が立ちはだかる。
エルネスト。
革命の象徴となりつつある虎獣人は、マギスーツを纏い、ベルモルトの暴威を受け止めた。
「死ねぇい!!」
ベルモルトが強大な力でメイスを振った。
「……ぐぅぅ……!」
巨腕に力を込め、牙を剥き出しにしながら耐える。
だが、メイスの一撃は想像を超えていた。
魂殻の力で支えてなお、膝が土を抉った。
「エルネスト!」
背後からティリスの叫び。
彼女の額には煤と汗、手には布に包んだ一振りの魔導武具。
──オリハルコン鍛造。
ドワーフ一族にだけ伝わる秘技。
炉の限界を超える熱と、数千回の槌打ちによってのみ鍛えられる金属。
鍛造のたびに黄金の光を宿し、鍛冶に成功すれば魂を持つとされた。
ティリスはその武具を震える手で掲げた。
「もう、これしかない!エルネスト!受け取って!」
包みを解くと現れたのは、虎の掌を模したかの様な鉤爪。
青白い光を宿すその爪の刃は、夜明け前の月のように冷たくも美しい、どこか温かさを秘めていた。
「これが……俺の魔導武具!ファングクロー!」
ティリスの渾身の投擲が、戦場を裂く。
エルネストは飛び込むように掴み、魂殻と共鳴した瞬間、白光が爆ぜた。
ゴウン――ゴウン――。
まるで心臓の鼓動のように、鎧全体が震える。
光が爪先から迸り、血煙を払った。
「な、なんだ……?」
帝国兵が後退りする。
ベルモルトの瞳に、初めて恐怖がよぎった。
「オリハルコン鍛造?! ドワーフが失ったはずの秘技だと?!」
エルネストはゆっくりと立ち上がった。
その姿はもう、ただの虎獣人ではなかった。
革命の象徴、そして“未来の体現者”だった。
「俺たちは……奴隷じゃない!」
大地を蹴り、ベルモルトへ跳躍する。
ファングクローが煌めき、赤黒いメイスと衝突した。
ギィィィィンッ!
轟音が大地を割り、火花が戦場を白く染める。
帝国の魔術師団が慌てて詠唱を重ねる。
「強化を! 早く!」
だが、セレスティアの声がそれをかき消した。
「エル・フィン・セリア・ルナ――森羅万象よ、均衡を取り戻せ!」
翠色の光が奔り、魔術師団の術式を打ち消していく。
風が叫び、木々の囁きが響き、帝国の詠唱は次々に途切れた。
「ぐぬぬっ……!」
ベルモルトの身体から、強化の光が剥がれ落ちていく。
その瞬間を逃さず、エルネストが咆哮した。
「仲間と共に、生きる自由を掴む!」
ファングクローが閃光を放ち、赤黒いメイスを粉砕した。
破片が空に舞い、邪悪な光が散って消える。
「ごはっ!!」
ベルモルトは膝をつき、血を吐き、呻き声を残して倒れた。
戦場に静寂が訪れる。
やがて――
獣人も、ドワーフも、人族も、一斉に拳を掲げた。
「自由を!」「革命を!」「勝利を!」
ファングクローはその日、ただの武具ではなくなった。
それは“団結の証”であり、“鎖を断ち切る牙”となったのだ。




