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外伝『エルネスト戦記』・【パルチザン結集】


 脱獄から数週間。

 カグラガムル帝国の監視の目をかいくぐり、エルネストとティリスは北の山間に潜んでいた。岩と苔に覆われた廃坑。かつてドワーフたちが鉱石を掘り出した場所は今や忘れ去られ、奴隷狩りの兵すら近づかぬ“死んだ穴”だった。


 その暗がりに、小さな炎と笑い声が灯り始めていた。



「エルネスト、また人を連れてきたの?」

 鍛冶場代わりの岩棚で槌を振るうティリスが、煤だらけの顔を上げた。

 彼女の手には鉄片が握られ、炉代わりの石窯には赤々とした火が燃えている。


「そうだ。こいつは犬獣人の狩人だ。鼻が利く。兵士の足音を三里先から嗅ぎ分ける」

 エルネストが肩を叩くと、狼獣人の青年が無言で頷いた。


「……お前の話を聞いた。俺も狩られるだけの生はごめんだ。使ってくれ」


 その隣には耳の長い影。痩せこけたエルフの女が、慎重に周囲を窺っていた。

「森を焼かれ、仲間を失った。あんたが“檻を壊す”というなら、弓を貸す」


 さらに地下の通路から現れたのは、岩の粉をまとったドワーフの青年たち。

「ティリス様がご無事だと聞いて! 俺たちも働きます。武器を作れっていうなら、手は覚えてます!」


 ティリスは一瞬、涙がこぼれそうになったが、強く瞬きをして槌を振り上げた。

「だったら、泣いてる暇なんてないわ。叩くよ、鍛えるよ! 私たちの手で!」



 夜ごと集う仲間は増えていった。

 獣人、エルフ、ドワーフ、人族の反体制派。誰もが身に傷を負い、誰もが居場所を奪われた者ばかり。

 しかし炎の周りでは、酒もなく、粗末な干し肉と根菜しかなくても、笑いが絶えなかった。


 「檻の中の虎」という呼び名は、やがて「戦士エルネスト」という呼び名に変わりつつあった。



 ある夜、ティリスが叩き出した鉄の欠片をエルネストの前に差し出した。

「見て。父や叔父から教わった“魂殻”の基礎よ。金属の中に“力の空洞”を刻み、魔素を流し込むと──周囲の鉄を、ただの鉄より数倍硬く、軽く出来る」


 エルネストは掌に乗せ、しばし黙った。

「……これを拡大すれば、鎧や武器そのものを強化できるか?」


 ティリスは頷いた。

「そう。でも、術式の安定が難しい。小さな欠片なら持つけど、大きな武具になると、制御が暴れて爆ぜるの」


 エルネストは焚き火の炎を見つめ、口の端を吊り上げた。

「なら、答えは一つだ。爆ぜない程度に区切って、繋げばいい。幾つも、幾重にも。鎧を一つの器じゃなく、“組み合わさった殻”にするんだ」


 ティリスの目が見開かれる。

「そんな発想、聞いたことない……でも、やれるかもしれない!」


 二人は石窯の火をさらに強め、鉄を打ち鳴らした。

 響く音は反逆の鐘の音。廃坑の闇に反射して、夜ごと帝国の心臓へ届くかのように。


 パルチザンはまだ数十名。帝国の軍勢から見れば塵にも等しい。

 だがその中心で、エルネストは静かに拳を握った。


「現実主義者でありながら、不可能を求めよ。──俺たちが不可能を形にした時、帝国は初めて恐れる」


 仲間たちが頷き、炎が踊った。

 小さな抵抗は、やがて止められない奔流へと膨れ上がる。



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