外伝『エルネスト戦記』・【反抗】
カグラガムル帝国の処刑場では、鉄の杭に縛られた囚人たちがいた。
火刑。反乱を企てたドワーフの鍛冶一族。
逃げのびた一人――ティリスの名を、兵士は何度も叫んだ。
「残りの奴隷に見せしめろ!」
「反抗すれば、末路はこうだ!」
火柱が夜空を焦がす。帝都の石壁に、罪とされた者たちの影が揺れた。
収容区の片隅で、その報せを聞いたティリスは泣き崩れた。
エルネストは黙ってその肩を支えた。
やがて彼女は震える声で告げる。
「……家族は…もういない」
焚き火の火が、彼女の涙でにじんだ。
数日後。帝国兵が収容区に現れた。
鎖を鳴らし、酔いに任せて奴隷を蹴り飛ばす。
「おい、獣ども! 明日の行軍に駆り出すぞ。死んでも数には入らん!」
血を吐く老人。泣き叫ぶ子供。
だがその時、一人の男が兵士の手を押し返した。
虎獣人の青年――エルネストだ。
「やめろ」
低く短い言葉に、兵士は一瞬怯んだ。
次の瞬間、殴打が飛ぶ。
だがエルネストは倒れなかった。瞳だけは、鋭く燃えていた。
「どうした?俺達を痛め付けるんじゃなかったのか?けど、俺達はお前らなんか怖くない。」
周囲の奴隷たちが息を呑んだ。
誰もが胸の奥で思っていたこと。けれど、口にすれば死ぬ言葉。
兵士は怒りに顔を歪め、剣を抜いた。
「黙れ、奴隷風情が!」
刃が振り下ろされる。
だが、その瞬間。
ティリスが投げた石ころが兵士の手を弾いた。
剣は地面に落ち、乾いた音を響かせる。
「やめて!」と叫ぶ少女の声に、群衆がどよめいた。
次の瞬間、鎖に繋がれた奴隷たちが立ち上がった。
木片を掴む者、レンガを投げる者。
暴動は波紋のように広がり、空気を震わせた。
エルネストは拾い上げた剣を逆手に構えた。
だが、斬らない。
ただ兵士の喉元に突きつけ、言った。
「これ以上血を流すなら、次は帝国の番だ」
兵士は蒼白になり、笛を吹いた。
駆けつけた部隊が奴隷たちを鎮圧し、エルネストとティリスは殴り倒された。
夜。牢の中で、血まみれのエルネストは静かに笑った。
ティリスが不安げに問う。
「どうして笑えるの……?」
「火は、もう点いた。誰も消せやしない」
彼の瞳は夜明けを映していた。
奴隷の檻の中で、最初の衝突が起きた日。
それは帝国崩壊への最初の鐘の音だった。




