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再建への道筋


王都の片隅。リュシエルの工房は、黒い炭と瓦礫だけを残して燃え尽きていた。

灰にまみれた匂いがまだ立ちこめ、子供たちが泣きじゃくる。

「リュシエル姉ちゃんの工房が……」

「昨日まで、ここで遊んでたのに……」


常連客の老人も涙を浮かべて呟いた。

「せがれに買ってやったステッカーが、もう買えないのか?……」


リュシエルは両手を腰に当て、燃え残った梁をじっと見つめた。

炎に飲まれたはずのマジックステッカーは、彼女の【収納魔法】で守られている。

だが、壁に貼られていた数えきれないコモンステッカーは全て灰と化していた。


その背後にルーサーが立った。

普段は冷徹な眼差しの王宮魔術師が、今は深く眉を下げている。

「……すまない。もっと早く動けていれば、君の店は……」


リュシエルは肩越しに振り返り、かすかに笑った。

「気にするんじゃないよ。壊されたらまた建て直せばいい。それだけさ」


ルーサーは唇を噛み、言葉を絞り出す。

「再建は、私に任せてほしい。……借りを作ったままではいられない」


リュシエルは腕を組み、わざとぶっきらぼうに答えた。

「任せるのはいいけど、あたしゃ借りっぱなしは性に合わないね。だから条件を出すよ」

「条件?」

「どうせ工房が出来るまで、暇を持て余すんだ。あんたと一緒にしばらく仕事をさせておくれ。魔術師と職人、やれることは山ほどあるはずだろ」


ルーサーは意外そうに瞬きをし、やがて静かに頷いた。

「……承知した。共にやろう」


灰に沈む街角で、二人の間に小さな炎のような絆が芽吹いた。



後日、王都冒険者ギルドの訓練場。

工房再建の話を聞きつけた各国の使節たちが、次々に姿を見せた。


「互いの力を知るべきではないか」

そう言ったのは、ファーフォールンの森の賢者でありリュシエルの兄、ホロウムだった。

提案は瞬く間に受け入れられ、ギルドにて模擬戦をする手筈となった。


リュシエルが手にしたのは、一見ただの鉄の剣。

だが刃毀れひとつなく、磨いたように鈍く光る。

それはかつて、手入れが面倒で貼った《不壊のステッカー》によって、剥がすことも分解することも出来なくなった「失敗作」だった。

──それゆえに、あらゆる物理・魔法攻撃を斬り裂く、唯一無二の業物となっていた。


対するホロウムは、精霊魔法を纏った剣を握る。

「妹よ、刃の冴えを見せてみろ」

「望むところさ」


二人の剣が交わるたびに、火花と翠光が舞い、観衆の息が詰まる。


続いてルーサーが戦場に立つ。

緻密な魔力制御で炎と氷を自在に操り、闘技場の空気そのものを支配する。

「これが王宮魔術師か……」と各国の使節が唸った。


アネモネはしなやかな獣の動きで突進し、槍の一閃で観衆を圧倒する。

セラフィン・ド・アルヴェロは光槍を掲げ、祈りの言葉で仲間を支援しつつ猛攻。

カリム・アル=サルハーンは砂竜軍仕込みの槍を構え、大地を叩いて砂嵐の幻を呼ぶ。

芦屋玄道は式札と手裏剣を投げ、幻影を操りながら敵の背後を取る。


戦いは激しく、だがどこか遊戯のような熱狂を生んだ。

「互いを知る」――その目的は十分に果たされた。


リュシエルは剣を肩に担ぎながら呟いた。

「やっぱりあたし一人じゃ無理さね。こうして力を合わせるから、世界を変えられるんだ」



模擬戦が終わると、観客席は割れんばかりの歓声に包まれた。

リュシエルは皆の前に進み出る。


「世話になった六国に、借りを返す時が来たね。……支店を作るよ。それぞれの国に、あたしの工房を置く。そして弟子を集める」


ざわめきが広がる。

彼女は言葉を続けた。

「ステッカーは、あたし一人のもんじゃない。皆で作り、皆で守るもんだ。だからこそ、世界に広げるんだ」


セラフィンが静かに胸に手を当てた。

「聖国は協力を惜しみません」

カリムは太い腕を掲げて言った。

「砂竜軍も支援する。我らの兵は、もう貴殿のステッカーなしでは戦えぬ」

玄道は薄く笑い、巻物を掲げる。

「天久国も……まあ、俺の首が飛ばん程度には力を貸すさ」

アネモネはリュシエルに歩み寄り、力強く握手した。

「エルネストリオンは、君を同志と認める」

ホロウムは剣を下ろし、妹の瞳を見つめる。

「お前はもう、ただのエルフではない。ファーフォールンの――森の誇りだ」


ルーサーは一歩前に出た。

「私も……君の傍で支える」

その言葉は短いが、重かった。


リュシエルはにやりと笑った。

「ま、そういうことなら……働いてもらうよ、みんなに」


こうして彼女の新たな挑戦――世界を結ぶ「ステッカーの絆」が始まろうとしていた。


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