闇に蠢く者達
禁呪の水晶に淡い光が灯り、六つの影が繋がった。
互いの姿は揺らぐ幻影。声と輪郭だけが暗闇に浮かぶ。
全ての中心には、魔道具に覆われた男――オルフェクトがいた。
「報告せよ」
◆イルミナ・カースベルン
白衣の女が肩を震わせる。
「影兵は投入しましたが、王宮は崩せず。原因は王宮魔術師ルーサーです。あの男、魔力制御は異常な域にあります」
内心では怒りに爪を立てていた。
(私の造った兵は完璧だ。だが……あの男は許さない。次は必ず突破する)
オルフェクトは無感情に返す。
「次を準備せよ」
◆カルナス・ヴァルディーン
若い男の声が軽く響く。
「舞踏会に潜入し、配置も押さえました。影兵を呼び出す魔道具もちゃんと作動しましたよ……ただ結果的に、ルーサー・グランディールはやっぱり厄介ですね」
笑みの奥に倦怠が滲む。
(正直、こんな大計画どうでもいい。俺は遊びたいだけだ。金を貰って潜入して、女と酒にありつけりゃ満足。でも……あの夜、アネモネを見た時は……心臓が跳ねた。あれはなんだ。クソ、オルフェクトに気取られるな。胸の奥に隠しとけ)
「監視を続けろ」
◆バルザック
肥え太った影がにやけた声を漏らす。
「へへ……“例の店”は燃やしてやりましたぜ。街のゴロツキに金を握らせりゃ、すぐ火を放つ。あれで小娘も商売どころじゃねえ」
胸の内では別の計算が転がっていた。
(奴隷を売る口実にはうってつけだ。『治安悪化』をネタにすりゃ砂漠の国で戦闘奴隷が高く売れる。……オルフェクト様? そのうち見限ってやるさ)
オルフェクトの返答は冷ややか。
「遊戯に酔うな。商人風情が、失敗すれば首を差し出すことになる」
背筋に冷や汗をかきながらも、バルザックは黙した。
◆赤鎌グラド
赤い仮面の影が、刃を研ぐ音と共に低く唸る。
「報告は無い。ただ強き奴を斬りたい。エルネストリオンの鎧……俺の鎌で裂く」
(戦だ。血と鋼だけが俺を歓喜させる。)
沈黙ののち、オルフェクトが短く答えた。
「いずれ機会を与える」
◆ソルミア・ヴェルハイン
白銀の髪の影が陶酔の声を上げる。
「主よ……世界を支配できるのはあなた様だけ」
けれど心の奥底で別の言葉が疼いていた。
(なぜ……“愛のために戦え”などと……忌まわしいエルネストの言葉が、今も胸を抉る)
◆レオノーラ・エヴァルティーヌ
氷の瞳の吸血鬼はただ頭を垂れ、沈黙した。
(父の心臓を人質に取られていて……逆らえぬ。上級吸血鬼が人間に従うなど有り得ぬのに。屈辱と恐怖で、もう限界……)
オルフェクトは視線すら向けない。
「お前はただひたすらに従え。力ある上級吸血鬼を支配するこの私が、いかに強大か知らしめる為に。」
彼女は唇を噛み、血の味で屈辱を飲み込んだ。
報告が終わると水晶の光が暗く沈んだ。
オルフェクトの声だけが、冷たく世界に残る。
「盤は動いた。やがて“支配の鎖”は、この世を覆う」
影は散り、闇だけが支配した。




