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王宮襲撃



 舞踏会の余韻が、まだ大広間の隅々に漂っていた。

 楽士たちは楽器を片付け、香の煙が天井に溶け、貴族たちは談笑を続けていた。

 しかし――その静けさを裂くように、突如として石造りの回廊に甲高い金属音が響いた。


「……何だ?」


 最初に異変に気付いたのは、警備の騎士だった。

 背後の影が揺れ、次の瞬間には人影がすっと現れる。

 それは兵士の姿を模してはいたが、顔には血色がなく、瞳は虚ろに沈んでいた。

 甲冑の隙間からは黒い靄が漏れ、まるで人ではなく人形――いや、“思考だけを与えられた影”だった。


「敵襲!!」


 騎士の叫びを皮切りに、複数の影兵が回廊から雪崩れ込んだ。

 無言のまま剣を振るい、床を削り、燭台を弾き飛ばす。

 場はたちまち混乱に陥った。


 リュシエルは客間で休んでいたが、直ぐに扉の外へと飛び出した。

ドレスの裾を踏まぬよう翻し、素早く壁際へ身を引いた。

 廊下にいる騎士達の背後で彼女が何か魔法を発動するよりも早く、低い声が響いた。


「リュシエル!」


 ルーサーだった。

 漆黒のローブが翻り、杖の先から雷光が奔る。

 稲妻が影兵の群れを貫き、数体が黒煙と共に床に崩れ落ちた。

 しかし、残る影兵たちは怯むことなく前進する。

 まるで痛みも恐怖も持たない、ただの駒のように。


「くっ……!」


 王宮騎士が盾を掲げ、剣を抜く。

 槍と剣がぶつかり、火花が散る。

 だが、影兵は次々と湧き出るように現れ、廊下を埋め尽くしていく。

 広間の豪奢な壁画に血煙が散り、絹のカーテンが裂かれた。


 リュシエルはステッカーを一枚引き抜き、兵士の盾に叩きつけた。

「《硬化ステッカー》――持たせてやるよ!」

 次の瞬間、盾は鈍い光を放ち、迫る剣を叩き返した。

 兵士が驚愕と感謝の声を上げる。

「す、すごい……!」

「いいから踏ん張りな! 折角の盾を無駄にするんじゃないよ!」


 影兵の一体が跳躍し、リュシエルへと剣を振り下ろす。

 だが、その刹那――杖の一閃が割って入った。

「下がれ!」

 ルーサーの一撃で影兵は後方へ吹き飛び、石床に叩きつけられる。


「……助かったね、あんたが居てくれて」

「礼は後だ。今は集中を切らすな」


 二人が短く言葉を交わしたその時、捕縛された影兵の一体が、突然、口を開いた。

 それは人間の声ではなかった。

 枯れ果てた風のような、虚ろな響き。


「……虎の真似事か……」

 影兵の口が裂けるように笑った。

「エルネストを気取るか、小娘……お前も檻に戻るといい……」


 言葉を残すと、その体は砂のように崩れ、闇に還っていった。

 残されたのは不気味な笑みの残響だけ。


 広間には沈黙が落ちる。

 リュシエルは眉をひそめ、心の奥に冷たいものが落ちていくのを感じた。

「……エルネスト……? どうして今、その名が……」


 ルーサーは険しい表情で杖を握り締めた。

「ただの刺客じゃない。黒幕がいる……!」


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