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かろやかステッカーの副作用


初夏の陽気と共に爆発的に広まった《かろやかステッカー》。

荷物は軽くなり、人々は笑い、王都はまるで羽根が生えたように活気づいていた。


だが、すべての便利さには、必ず影がある。



◆ 軽すぎる悲劇・市井にて


ある八百屋が、野菜を山盛り積んだ荷車にかろやかステッカーを貼った。

「ほら見ろ、片手で押せる!」


見物人が笑う中、突風が吹いた。

軽すぎた荷車は石畳をすべり、屋台を直撃して煮込み鍋をひっくり返した。


「熱ッ!」

「おい、軽くしすぎだろ!」


結局、八百屋は大鍋分の賠償を払う羽目になり、肩を落としてリュシエルの店に怒鳴り込んだ。


「おい!このステッカー、危険じゃねえか!」


リュシエルは煙草を咥え直し、紫煙を吐いた。

「馬鹿だね、軽くしたら風で飛ぶに決まってるだろ。ちゃんと重さが四分の一になるって言ったよあたしは。そっから先はあんたらの問題さね。」

---


◆ 泥棒の末路


深夜の王都。裏通りの影を縫って、一人の男が倉庫へ忍び込んだ。

盗んだのは銀食器と宝飾の詰まった木箱。重いはずのそれを、彼は涼しい顔で抱えている。


「ふふ……《かろやかステッカー》さまさまだ」


木箱の側面に《かろやかステッカー》が貼られていた。重さは四分の一。箱ごと麻袋に突っ込み、肩に担げる軽さになっている。


しかし、背後から甲冑の擦れる音。


「止まれ、盗人!」


追ってきた衛兵たちは、分厚い鉄鎧のはずなのに、軽やかに駆けてくる。

その胸当てや脚甲には、しっかりと《かろやかステッカー》が貼られていた。


「……衛兵まで使ってやがるのか!」


盗人は路地を必死に逃げる。だが、角を曲がった瞬間、袋の口を衛兵の槍に引っ掛けられた。


「うわっ!」


ビリッと音がして、麻袋の内側に貼ってあったステッカーが破れた。


次の瞬間、木箱は本来の重量に戻り――


「ぐえぇっ!!」


盗人は潰され、石畳に押し倒された。袋の裂け目から銀食器や宝飾が散らばる。


衛兵が肩をすくめる。

「軽さは一瞬、しかし罪の重さは一瞬で戻ってくるものだ」


路地に響くのは、鎧の足音と、転がる銀器の乾いた音だった。


以後、王都の衛兵詰所には《かろやかステッカーで盗みは御法度!》と書かれた注意書きが貼られることになる。



◆ 騎士団の試練


騎士団でも問題が起きた。

重い鎧にステッカーを貼り、身軽になった兵士たち。

だが、軽くなりすぎた剣や盾、鎧は打ち合いの衝撃に負け、逆に弾かれてしまう。


「手応えが軽すぎて、押し込みが厳しい!」

「刃の重みが無きゃ、かえって戦えないな!」


訓練場で混乱する兵たちに、リュシエルが呼び出された。


「貼る場所を選べって言っただろ。盾や剣は軽すぎちゃ駄目だ。あくまでこれは運搬目的で開発したものだよ。荷物に貼りな」

煙を吐きながら、彼女は武器が突っ込んである樽を指差した。


「使い方次第。あたしゃ知らないよ、命のやり取りはあんたらの責任さね」


◆各国の反応


・エルネストリオン

鉱夫たちは狂喜乱舞したが、技術士官が苦い顔。

「軽すぎて鉱石が転がり落ち、崩落の危険が増す。規程を定めねば」


・砂漠の国

水袋を軽くした兵たちが誤って夜風に煽られ、袋を吹き飛ばされた。

「砂に埋もれた水袋なんて見つからないぞ!」

以後、袋に縄を結びつけるのが義務付けられた。


・カナリア聖国

神官が聖遺物の箱に貼ったところ、軽くなりすぎて祭壇から落下。


壊れた壺を前に、助祭は青ざめた。

「神罰ではないか?」

年長の神官が肩をすくめた。

「ただの不注意だ。何故あれに《かろやかステッカー》を貼った?何でも軽くしても良い事は無いだろう。次からは注意せよ」


・天久国

峠を越える商人が笑った。

「軽すぎて馬が調子に乗って転んだ! だが楽だ。ステッカーを減らせばいいな」


「貼りすぎだよ。」

商人の護衛は呆れていた。


・エルフの国

若者たちが丸太に貼り、森の中で暴走。

「軽過ぎて転がる!」

転がる丸太に追われ、木々に激突する騒ぎとなった。

長老は額を押さえ、ため息をついた。



◆ 王宮の苦情


やがて王宮から正式に通達が届いた。


「《かろやかステッカー》は有用だが、混乱も多発している。

 使用規程を定め、ギルドや騎士団を通じて配布・指導を行いたい。貴殿も販売する際はその様にして頂きたく・・・」


リュシエルは煙草を吹かしながら書状を投げ出し、机に肘をついた。


「まったく。足腰が楽になればと思って軽い気持ちで作ってみたけど、責任はそれなりに重かったかい。また売るときに決まりごとを言わなきゃいけないさね」


だが、彼女の口元はわずかに笑っていた。

街も各国も、今日も彼女のステッカーに振り回されている。



初夏の風に舞うのは、軽やかになった荷物と、軽くなったはずのはずの人の心。

けれど、浮かれた空気の裏では、新たな秩序と規則が芽吹き始めていた。


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