表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/72

初夏の新作・かろやかステッカー


春の花が散り、王都に初夏の陽気が忍び込む頃。

石畳の道は照り返しで白く、荷車を引く馬も人も汗を垂らしていた。


リュシエルの工房の前。

その日掲げられた木札に、誰もが二度見した。


《新作・かろやかステッカー》

樽に羽根の紋をあしらったデザイン──貼った対象物の重量を四分の一に軽減する。ただし剥がせば元の重量に戻る。


「……冗談だろ」

最初に声を上げたのは、毎日市場へ魚を運ぶ商人だった。

だが、リュシエルは煙を吐き、涼しい顔で顎をしゃくる。

「貼ってみな。文句はその後で」


半信半疑で荷車の側板に《かろやかステッカー》を貼った瞬間、綱がふわりと軽くなる。

魚樽を満載した車体が、まるで羽根を生やしたように滑り出した。

「軽い! 本当に軽い!」


「4分の1、そこが限界さね。ゼロにしたら物の理が壊れちまう。……ま、楽するにはちょうどいいだろ」

煙草を吹かしながらリュシエルは言った。


見物人たちは一斉に押し寄せた。

人夫たちは酒樽を軽々と抱え、楽団の若者は大太鼓を片手で掲げて見せる。

「祭りの遠征も楽勝だ!」

「腰を壊さずに済む!」


リュシエルはカウンターを指でトントンと叩き、釘を刺した。

「いいか、軽くなったからって油断すんじゃないよ。剥がしたら“どーん”と元に戻るんだ。坂道で手を離したら下敷きだよ」


さらにもうひとつ。

「濡らして駄目にする阿呆が絶対いると思ったから、保護用の透明ステッカーも出した。合わせて買いな」

瞬く間に列の半分が「そっちも!」と叫んだ。


王都での需要は爆発的だった。


・騎士団補給係

 重い矢束も盾も、馬一頭で楽に運べる。

「長距離行軍が半日縮まったぞ!」と隊長が喜び、兵たちは《かろやかステッカー》を腰袋に忍ばせた。


・屋台の親父

 煮込み鍋を載せた屋台を軽々押し、広場を渡り歩く。

「屋台と食材が軽くなったって、腹は膨れて重くなる。これが商売繁盛に繋がらないなんて、有り得ないってもんだ!」


・孤児院

 水汲みの桶に貼られ、子供でも大人並みに運べるようになった。

「いっぱい手伝える!」と笑顔で駆け回る子供たち。シエラモニカ院長は目を潤ませながら「……ありがたい」と小声で呟いた。


熱は王都を越えて伝わった。


◆ 砂漠の国・グルバザーン

砂竜の騎士たちは水袋にかろやかステッカーを貼った。

「四倍の水を運べる……これで夜の砂漠を楽に越えられるぞ」

副官は真顔で頷く。「砂は理屈を待ってくれませんからね」


◆ エルネストリオン・鉱山都市

鉱夫たちは鉱石の詰まった荷車に貼り、歌いながら坑道を進む。

「いやはや、腰が砕けずに済む!」


工房では技術士官が記録していた。

『運搬効率、従来比四倍。採掘工程に革命的影響あり』


◆ カナリア聖国・神殿

神官たちは救護院の薬箱に貼った。

「負傷者を担ぐ荷車も軽くなる。神の奇跡か?」

「いや、いつもの如く、あの《ステッカー屋》の知恵だ。だがどんな形であれ、神が我らに齎す救いである事に変わりはないだろう。」


◆ 天久国・峠の宿場町

行商人が笑った。

「峠越えの荷物が軽い! これで旅籠の米俵も楽に運べる!」

陰陽師たちは《かろやかステッカー》を眺め、「よもや、式札で荷を軽くするとは面妖な!」と驚愕しつつも利用を決めた。


◆ エルフの国・ファーフォールン

木工職人の若者が丸太に貼った。

「ほんとに軽くなった!これまで酷く難儀していた場所での作業でも、精霊に頼らず運び出せる」


長老は眉をひそめたが、若者は陽気に笑った。



その結果、各国の役所や行商組合から《街のステッカー屋さん》に手紙が山のように届いた。


「十枚では足りません! 二百枚を!」

「軍の補給局として正式契約を」

「宿場連合の名で、定期供給を求める!」


リュシエルは山積みの書簡を前に煙草を噛み、紫煙を天井へと吐いた。


「まったく……重いのを軽くするはずが、あたしの机ばっかり重くしてどうするんだい」


かろやかステッカーは初夏の陽気と共に世界を駆け抜けた。

荷車は軽やかに走り、鉱山は歌声に満ち、砂漠の夜を越える兵が笑った。


誰もが口にする。

「この《かろやかステッカー》があれば、遠くへ行ける。」


だが、そのステッカーが本当に運んでいたのは、人類の希望かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ