宝物シリーズ、街を飾る
春の息吹が王都に満ち始めたころ、リュシエルの店先にまた新しい木札が掛けられた。
《世界宝物シリーズ・ぜんぶコモン(魔力なし)》
その文字を見た子供も大人も、足を止めざるを得なかった。
並んだ絵札は、ただの遊びにしてはあまりにも豪奢だ。
金貨を溢れさせた宝箱、赤や青の宝石を散りばめた指輪、古の王冠。
血を吸った邪剣、聖光を宿した聖剣、風化した魔導書。
一つ一つに、胸をざわつかせる“夢”が込められていた。
「見ろよ! 俺、金貨の宝箱を引いた! 一攫千金だぜ!」
「わたしは透明ローブ! これ付けたら、怒られても隠れられるかな」
「オリハルコン短剣だ! 縁起が良すぎて逆に怖ぇ!」
子供たちは路地で跳ね回り、大人たちは目を輝かせる。
商人は店先に「宝剣」を飾り、客に「商売繁盛のお守りだ」と言い張った。
鍛冶屋は工房の入口に「アダマンタイト槌」のステッカーを貼り、「今日の打ち込みは百発百中だ」と笑った。
修道女が祈祷室に「聖杯」を持ち込めば、
酒場の親父は壁に「空駆けブーツ」を貼って客を煽る。
街は、一晩にして宝物の展示場と化した。
やがて、器用な職人が動き出す。
「ステッカーをそのまま持ち歩くのは味気ないだろう」と、木や銀で小さな台座を作り、腕輪や首飾りに仕立て上げたのだ。
「ほら見なよ、この首飾り。宝箱が胸元で光るんだぜ!」
「指輪に“邪剣”を挟んだら、女房が嫌がってよぉ……最高だろ?」
「いやいや、これは縁起物だよ。王冠のステッカーを身につければ、格が上がるに決まってる!」
台座アクセは瞬く間に流行となった。
子供は木の腕輪に宝箱を飾り、商人は銀細工の首飾りに聖剣を収め、旅芸人は帽子のリボンに宝石短刀を挟んで街を練り歩いた。
広場の中央では、自然発生した交換会が開かれる。
「ダイヤ指輪と金貨宝箱を合わせるから、魔導書と替えてくれ!」
「駄目だ! 魔導書は縁起がいい、勉強がはかどるんだぞ!」
「じゃあ王冠は? 冠を頭に掲げたら、子供に頭下げられたんだ!」
「おいおい、それただの遊びだろ!」
笑いと口論が絶え間なく響き、ステッカーが右へ左へと渡っていく。
その喧騒を、リュシエルは紫煙の向こうから見ていた。
カウンターに肘をつき、アクセを振り回す客を鼻で笑う。
「へっ、ただのステッカーに台座をつけただけで、この有り様さね。けど、笑ってる顔は悪かない。・・・遊びが世界をひっくり返す時もあるのかもしれないけどね」
煙がくゆり、赤い夕陽がステッカーの光沢を照らす。
街は宝物の札で飾られ、人々の胸には子供のような昂ぶりが戻っていた。
そして誰もまだ知らない。
この遊びの延長が、やがて生活の必需となり、さらには世界の秩序さえも変えていくことを。




