表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/72

各国に広がるステッカーの輪


王都を賑わせた《世界魔物シリーズ》。

その熱は、交易路や旅人の鞄を通じて、遠い国々へと広がっていった。


◆ ファーフォールン(エルフの国)


森の集落の集会所。

若いエルフたちが机にステッカーを広げ、互いに見せ合っていた。


「見ろよ、ヒュドラ。“ギュオオオオオ!!”」

「やめろ! 声が聞こえた気がして鳥肌立った!」


長老は少し眉をひそめたが、やがて笑った。

「自然の理を紙に封じるのは軽率だと思っていたが……これはただの遊びだな」


だが一人の若者はステッカーを手にして真剣に言った。

「遊びであっても、魔物を学ぶ手がかりになる。無駄じゃないはずだ」


森の長老たちは渋い顔を崩さぬまま、それを黙認した。

エルフの国でも、子供から大人まで夢中になる声は止まらなかった。


◆ カナリア聖国


神殿の裏庭で、修道女たちがそっとステッカーを見せ合っている。


「ほら、この吸血鬼。“今宵は生娘の生き血で乾杯しようぞ”」

「やめてください、夜に読むと背筋が寒くなります・・・」


高位聖職者の中には「異端だ」と声を荒げる者もいる。

だが救護院の子供たちは嬉々として雑魚魔物のステッカーを集め、遊びに興じていた。


「見て! スライム。“ぷるるっ!”」

「可愛い……これなら神の奇跡を侵すこともないでしょう」


信仰を脅かすか、それとも民の心を救うか。

議論は続いても、ステッカーそのものは静かに受け入れられていった。


◆ グルバザーン王国(砂漠の国)


市場の一角で、隊商の男たちが交換を始めていた。


「ほら、俺はケルピー。“おいで・・・ずぶずぶ・・・”」

「気味が悪い! だが夜の井戸端で語れば、いい肴になるな」


呪術師は冷めた顔でステッカーを眺める。

「これはただの遊戯。しかし“魔物を呼び寄せる呪物”と信じ込む者も出るやもしれん」


一方、砂竜軍の若兵は密かに持ち歩き、夜営で仲間とステッカーを並べて笑いあった。

「行軍が辛くても、これがあると気がまぎれるんだ」


表では異端、裏では娯楽。

砂漠の夜は、ステッカーで遊ぶ声で賑やかになっていった。


◆ エルネストリオン(軍事国家)


軍の兵舎で、若い兵士が叫んだ。

「見ろよ! レイス。“ぉぉぉお……” 背筋が寒くなる!」

「夜番に持つな、余計に怖いわ!」


工兵の机には、ゴーレムやミノタウロスの札が貼られている。

「こいつらは勇ましい。士気が上がるんだ」


しかし老練の軍属は口を挟む。

「遊びにうつつを抜かすな。だが、それの裏に書かれている知識自体は有用だ。弱点の情報は覚えておけ」


((自分だってしっかり持ってるじゃないか))


ステッカーは娯楽であると同時に、兵士たちの非公式な教材にもなりつつあった。


◆ 天久国


峠の宿場町の酒場。

旅芸人が魔物ステッカーを取り出すと、若侍たちが身を乗り出した。


「ほら、バジリスク。“クワッ!!”」

「睨まれただけで動けなくなる、ってか! こりゃ笑えぬな!」


陰陽師の若者は魔物ステッカーを手にしながら呟く。

「式札と似ているが・・・これは信仰や呪術ではなく、ただの遊戯か」

老陰陽師は盃を置き、渋く頷いた。


武士たちは酔いに任せて声を上げる。

「俺はオーク。“メシよこせぇ!” これが一番好きだ!」


遊びはすでに、式札とは別の文化として受け入れられつつあった。


◆ 王都・街のステッカー屋さん


リュシエルの工房に、封蝋付きの手紙が山のように積まれていく。


森の葉で封じられたもの、砂竜の紋章が刻まれた革紐で丸められたもの、赤い星に歯車の紋章が刻まれたもの、神殿の印が押されたもの・・・。


「まったく。次の魔物はこれを入れろ、だの、もっと怖いのを描け、だの」


紫煙を吐きながら、リュシエルは一通を裂いた。

『天久国の子供たちは、妖怪の札を望んでおります』


次の封を開けば、

『砂漠の兵士たちは、砂漠の魔物が欲しいと』


さらに別の手紙には、

『聖国の子らが、天使のステッカーは作れないかと問うています』


リュシエルは苦笑した。

「ステッカー一枚で、世界じゅうから宿題を押し付けられるなんてね」


灰を落とし、机の端に新しい紙束を置いた。


「まあいいさ。次は、もっと面白くしてやろうじゃないの」


窓の外では、子供の声が響いていた。

「ぷるるっ!」「ガチャ、ガブッ!」「ギュオオオオオ!!」


世界魔物シリーズは、国境を越えて人々をつなげていた。

そして、次の一枚を待つ声は、止めどなく膨らみ続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ