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竜の翼ははためかない11 〜竜の息吹は甘く苦く〜  作者: 藤原水希
第五章 新たな出会いと別れ
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チャプター32

〜シュラーフェンの森・奥地 ヘレンの家〜



「ん〜、美味しい!!」

 夕暮れ時、フォルクローレはエルリッヒ特製の夕食を頬張っていた。フォルクローレのことを考え、ハーブとスパイスを効かせつつも味が強すぎない一皿を作ってみせた。ハーブはヘレンお手製のものを、スパイスは持参したものを使い、残っていた干し肉を使って塩気を足している。きのこから出る出汁も、味に深みを与えてくれた。

 フォルクローレの食べっぷりは、作ったエルリッヒもヘレンも自分の手が止まってしまうほどの勢いで、毒で傷ついた体を癒すために使ったエネルギーと、回復のための睡眠で消耗したエネルギーを補給するようだった。

「ほら、あんまり慌てて食べると良くないよ。もう少し落ち着いて落ち着いて」

「でも、お腹が減って仕方ないんだよ。こんなに美味しい料理を出されたら、止まらないよ! パンにもよく合うし!」

 言いながら、パンをちぎって口に運ぶ。パンはどうしても王都で売っているようなふかふかのパンではないので、単体で食べるには少し味気ないのだが、こうして食事と合わせることでちょうど良いアクセントになる。

「ウチのパンを褒めてくれるのはありがたいけどね、そんなにがっつくんじゃないよ。体が驚いちまうよ」

「ほら、水も飲んで」

「うん。み、水も美味しい」

 とにかく慌てた様子で食事を続けており、見ている側としては少し心配になるのだが、兎にも角にも回復したようで、それは一安心だった。

 目が覚めた時に体調について確認したが、特に具合の悪いこともなく、体に動かない箇所や痛みもないとのことだったので、解毒は概ね問題なくできたのだろう。五感についても問題はなさそうだったので、そちらについても安心するのだった。

「今回はたまたま私たちがいたから回復までの段取りができたけど、一人で採取してたらそのまま野垂れ死にしてたかもしれないんだからね? もうちょっと慎重にしてほしいよ」

「は〜い。流石に骨身に沁みました……」

 正直なところ、どこまで反省しているのかはわからないが、珍しく殊勝なコメントを聞き出すことができた。本当にこのようなことは2度と勘弁願いたいので、ちゃんと行動に移してくれないと困るのだが、少しだけしょげたような表情をしているところは、信じてあげてもいいのかもしれなかった。

「そうさね。次にこんなことがあっても、アタシは助けてあげられないからね。たとえ同じ解毒薬を持ってても、あれだけすぐに気を失ったんじゃ、飲むこともできないだろうさ、本当に、気をつけることだね」

「ほら、ヘレンさんもこう言ってるしね。あーあ、初めてフォルちゃんと会った時は、もっとしっかりした子だと思ったんだけどなぁ。覚えてる? 私のこと結構なテンションで責めてきてたじゃん」

「え、そうだっけ? ごめん、覚えてないや。あたしがそんな辛辣なことするかなぁ。でも、エルちゃんが言うならそうだったんだろうねぇ。それ多分あれだよ、なんかやむを得ない理由があったんだよ。ま、覚えてないから、それも定かじゃないけどね。でも、錬金術を極めるって言う目標がある以上、道半ばでポックリ行くのはシャクだから、これからはもう少しだけ気をつけることにするよ」

 自分にとっては崇高な目標なのだろうが、そのために毒きのこを毒抜きも試さずに直接齧るという危険な行為を犯したのでは、体がいくつあっても足りない。もしかしたら、世の錬金術士の中にはそのような理由で命を落とした者も相応の数いたのかもしれないが、それでは本末転倒だし、フォルクローレが命を落としたのでは、やりきれない。もっと、命を大切にしてほしいと思うのが友人としての正直な気持ちだった。

「もう少しだけ?」

「あ、いやー、その……今のは言葉のあやだよ。ちゃんと気をつけるって。毒きのこだけじゃなくって、明らかに食用かどうかわからないきのこも食べないから!」

「そういう問題じゃないと思うんだけどねぇ……」

 この話はきのこに限ったものではない。たとえば、素手で触れると危険な植物や鉱石も存在しており、それらを扱うときには手袋を嵌めて触れる必要がある。錬金術では獣や虫の毒を直接扱うこともあるが、当然それらも手袋を嵌めて扱うし、それらは加熱した際の蒸気を直接吸い込まないよう、口元や鼻を布で覆って調合に臨む。しかし、今日見せたフォルクローレの迂闊な行動は、そう言った危険行為を平然と行うように感じられてならなかった。今ここで、きのこの話にフォーカスされては、それ以外の素材に対する危険を排除できない。

「お前さん、気をつけるのは、きのこだけかい?」

「あー、そう言う。やだなー、あたしがそこまでバカだと思った? きのこ以外にも気をつけるに決まってるじゃん。あ、あれ? あたし、そんなに信用ない? きのこ以外は今まで通り扱うと思ってる? 一応、アカデミーでも危険な植物や金属みたいなのは習ってきてるんですけど。迂闊に危険な素材には触れない、これ鉄則です」

「じゃあ、なんであんなにあっさり毒きのこを食べてみたわけ? 味が見たかった? 毒性を知りたかった? タカを括ってた? どっちにしても、かなり迂闊な行動だったように思たけど?」

 病み上がりの身にあまり辛辣な言葉は投げたくなかったが、それでも、こんな危険なことはこれっきりにしてほしいので、少しだけ心を鬼にして話を続けてしまう。これは、食事の手を止めてでも伝えておかなければならないことなのだ。友人としてそばにいて、錬金術という学問、技術がすごいことは肌身に感じているが、その反面危険なものであるということも実感している。現に、フォルクローレが最も得意とするレシピは各種の爆弾だ。そんな危険な道具を喜んで調合しているのだから、一般の感覚からすれば、まともではない。

「う! い、いや、ね? きのこって、食べ物じゃん? で、毒きのこって危険なやつほど毒々しくて派手な見た目をしてるじゃん? だから、ヘレンさんが毒があるって教えてくれても、あれは大したことないのかなー、なんて思って。ダ、ダメ?」

「ダメだね」

「ああ、ダメだ。あのまま放っておいたら、間違いなく今頃は天国だよ。たまたまエルリッヒがいたからここまで担いでくることができた。たまたまアタシといたから解毒薬を口にすることができた。二人のうち、どっちかが欠けてもお前さんの命は終わってたんだ、少しは自覚しな」

 こういう場面でヘレンの援護はとてもありがたい。友人よりも少し遠く、それでいて見ず知らずではないような他人の言葉が一番刺さるような場面があり、今がその時なのだ。ヘレンの言葉には、エルリッヒの言葉にはどうしても乗ってしまう軽さがなかった。その分真摯に聞いてくれるのではないかという期待が混じる。

「ゴクリ。そ、そっか、そうですよね。あたしがきのこを食べたのも、あくまで錬金術を極めるための研究みたいなものだったし、死んでもいいわけじゃないから……」

「わかってくれればいいんだけど。次は助からない、それだけは胸に刻んでおいてよね」

 本当は、こんな苦言は言いたくないのだが、フォルクローレに反省を求めるのが難しいことをよく把握していたので、夕飯時といえど口を酸っぱくしてしまった。そのことはやはりどこか心苦しく思っていた。だが、話をしながらもフォルクローレの手が止まっていなかったので、そこは胸を撫で下ろすところなのであった。

「あ、そうだ。お前さんたち、もうそろそろ行商人が訪ねてくる時期だから、もしここにいる間にやってきたら、愛想良くしてやっておくれ」

「あぁ、前に話してた人ですね? もちろんですよ」

「うん、あたしもいいですよ。あたしら客商売だから、その辺は任せてください」

 この森に定期的に訪れるという行商人の青年。一体どんな人物でどんなやり取りをしているのか、とっても気になる二人なのだった。

「じゃ、頼んだよ」

 そうして、夕食タイムは楽しい時間に戻っていくのだった。




〜つづく〜

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