5-8
褐色のママとわたしは満面の笑みを浮かべて爪を立て合い、友情を深めた。
「痛いわね、馬鹿女! 夢魔って爪にも細工してあるんじゃないの?」
「そっちこそ、毒でも塗ってあるんでしょう? 手が腫れてきたじゃない! 嫌味なお姉様だもの、それくらいしてるに違いないわ!」
「あんたさっき夢魔術で胸を膨らませていたでしょう? 見たんだからね!」
「なによ! おっぱいお化け!」
ハッと気が付くと、ママ達全員がこちらをにらんでいた。
猫のママが言った。
「みんな~。お仕置きだよね~?」
号令とともに、ママ達が襲いかかってきた。
「ごめんなさい! そういうつもりでは……」
「もう、遅い!」
――わたしは角の生えたママの膝に押さえつけられた。
「ルシファ様、あっちを向いてて」
「サッちゃんをいじめるなよ」
「ハーレムにはハーレムのルールがあるのよ。特別扱いしたら、この子のためにもならないわ」
「わかったよ」
ルシファ様は後ろを向いてしまった。
「ルシファ様の裏切り者!」
「さあ、みんな。百回だけよ? いじめじゃないんだからね?」
角のママがわたしのスカートをめくり上げ一回叩いたのを皮切りに、並んだママ達が順番にわたしのお尻を打って(ぶって)いく。「上げ底」とか「男たらし」とか口々に言いたいことを言われ、わたしは必死で涙をこらえた。
「痛いわね! おぼえてらっしゃい! おっぱいお化け!」
「二百にするわよ? いいの?」
「……ごめんなさい」
――百まで数え上げられて、わたしは解放された。オーラはこもっていなかったが、お尻の感覚が鈍くなるほどジンジンした。
褐色のママが言った。
「あー、すっきりした。ルシファ様をたのんだわよ」
「え? わたしと張り合うんじゃないの?」
「サキュバス様と張り合う馬鹿なんていないわ。サッちゃんはわたし達の筋書きにまんまと乗っかったのよ。素直で可愛いわ」
「なぜこんなことをしたの?」
「みんなもうじき他のハーレムに移るのよ。まあ、お城にいるからいつでも会えるんだけどね。ちょっと早いけど、これがお別れ会になりそうね」
猫のママが続けた
「サッちゃんのお尻くらい打っていかないと~、化け猫になっちゃうでしょ? おかげで気がすんだわ~」
こんどはみんな順番にわたしを抱きしめて、励ましてくれた。ハーレム解散を惜しむママ達に混じって、わたしも泣いていた。お尻が痛いからではなかった。
「今まで甘えさせてくれてありがとう。みんな幸せになってね。さあ、花火の仕度をしよう!」
「サッちゃんに飽きたらまた呼んでね~。僕ちゃん」
「こら、変なこと言わないの!」
「は~い」
早速、わたしはママ達と手分けして城や庭に集まった人達から手作り花火を集めた。みんな色々悩みながら楽しそうに物質化してくれた。
ルシファ様は、サタン様やバフォメット様、工事に集まった人達と一緒に会場作りをしに行った。
結局、縁日の出店を模したお店やローラーコースター、変わった形の笛を演奏する人達、その他あらゆるお祭りを混ぜたような一大イベントになってしまった。地上人上がりの人々から意見を集めたようだった。
ルシファ様が戻ってきて、わたしに訊ねた。
「武術大会も開こうか?」
「争いは嫌いよ。みんなで楽しくすごせるお祭りがいいわ」
ルシファ様と二人でお祭りを見てまわると、ほどなくして花火が上がりはじめた。
物質化で作られた花火はルシファ様とわたしの姿を模した形をしていたり、逆五芒星だったり、地上から見る星空のように瞬き(またたき)続けるものもあった。ピンクのハートが無数に飛び散る花火が上がると、まわりにいた人達が一斉にキスをした。地上のニューイヤーパーティみたいだった。
「ありがとう……ルシファ様」
わたしは涙でゆがんで見えるルシファ様に、改めてゆっくりとキスをした。
「地上に帰りたくなっちゃった?」
「少し懐かしくなったけど、あなたの魔界が大好きよ」
「俺だけじゃないよ。サッちゃんの、そしてみんなの魔界だ。きっと素晴らしい魔界にしていってみせる」
「これ以上素晴らしくしたら、胸が張り裂けてしまうわ」
ルシファ様がわたしの胸をしげしげと眺めた。
「まだ大きいままだね。サッちゃんはいつもの大きさがいいよ」
「もう……馬鹿ね」
「ちょっと食べ物でももらってくるよ。この辺で待ってて」
わたしはそばにあったベンチに腰を下ろした。
そこへ通りかかった全身深緑のトカゲ人間さんが話しかけてきた。
「上手くやったな。だが、いつまでもルシファ様をつなぎ止めておけると思うなよ」
「あの、あなたは……」
トカゲ人間さんはそれだけ言うと去っていった。
「失礼な人ね……でも、ああいう見方をされても仕方ないわね。気をつけなきゃ」
しばらくしてルシファ様が戻ってきた。バフォメット様も一緒だった。二人は大きなトレーに料理とお酒を満載していた。
「バフォメットがいたから連れてきたよ。ほら、ケバブにチェリーパイにローストターキー、パエリアにピザにタコスだろ、寿司やお好み焼きもあるよ」
「祭りっていうより、食い物博覧会みたいだな。まあ、地上人上がりの奴等も懐かしくなったんだろう」
「さあ、食べよう!」
黒い敷物の上に座って男性二人は早速食事にかかった。
わたしはトレーを観察して、また涙がこぼれてきた。二人の母様の得意料理がそれぞれ混じっていたからだった。
「今日のサッちゃんは泣き虫だな。泣き虫のサッちゃんも可愛いけど」
ルシファ様が立ち上がって、わたしの頭を「よしよし」となでてくれた。
「……本当に……ありがとう。大好きよルシファ様」
ルシファ様のたよりない胸に顔を埋めると、意外なほどの力強さで抱きしめてくれた。
しばらくメソメソしていたわたしも、心配をかけては悪い気がして食事に加わった。すすめられてブランデーなども飲んだが、きついお酒はあまり好みじゃなかった。
サタン様やエウリュアレさん、ママ達も加わった野外パーティが一段落すると、ルシファ様とこっそり抜けだして、ローラーコースターや、恐ろしいゴーストがいるお化けの館などをまわった。その間ずっとルシファ様の手を握っていた。この手をいつまでも放したくないと思った。




