*閑話4 幼馴染が見つけた恋
リディア・ハートウェル
エレナの幼なじみで兄の婚約者、リディア目線のお話です
エレナが王都へ戻ってから、数日が経った。
リディアは、セドリックと一緒にアーデル家の庭を歩いていた。
「エレナ、元気そうだったわね」
「ああ」
セドリックが穏やかに答える。
「仕事も順調そうだったし、安心したよ」
「ふふ。セドリックは、昔からエレナのことになると心配性ね」
「そうか?」
「そうよ」
リディアは笑った。
幼い頃から知っている。
セドリックがどれほど妹を大切にしているのか。
エレナが転んだだけで慌てて駆け寄り、少し熱を出しただけで何度も様子を見に行っていた。
今でもその頃と変わらない。
ただ――。
エレナのほうは、少し変わった。
もちろん、悪い意味ではない。
王都で一人暮らしをして、王宮で働いて。
以前よりずっとしっかりした。
自分の考えを持って、自分の足で歩いている。
そして。
「……少し、大人になったわね」
「俺もそう思った」
セドリックが小さく笑う。
リディアは、その横顔を見ながら、先日のエレナとの会話を思い出していた。
――王宮で、気になる人はできた?
そう聞いたとき。
エレナは、分かりやすいほど慌てた。
『……同じ職場の方で』
そう言ったときの顔。
頬は赤くなっていた。
けれど、その表情は困っているというより――嬉しそうだった。
「……ふふ」
思わず笑みがこぼれる。
「どうした?」
セドリックが不思議そうにこちらを見る。
「ううん。なんでもないわ」
リディアは首を振った。
まだ、エレナから詳しいことは聞いていない。
相手の名前も知らない。
どんな人なのかも、まだ分からない。
でも――。
あの顔を見れば、少なくとも一つだけ分かる。
エレナは、その人のことを大切に思い始めている。
もしかすると、もう好きなのかもしれない。
「エレナ、恋をしてるのかしら」
ぽつりと呟く。
「……何?」
セドリックが振り返った。
「なんでもないって言ったでしょう?」
「いや、今、何か言っただろう」
「気のせいよ」
リディアは笑ってごまかした。
兄であるセドリックには、まだ言わないでおこう。
きっと知ったら、必要以上に心配する。
そして、相手の素性を調べ始めるに違いない。
「……ふふ」
想像すると、また笑ってしまう。
でも――。
エレナが誰かを好きになることは、リディアにとって嬉しいことだった。
幼い頃から知っている、大切な友達。
いつも真面目で、一生懸命で。
自分のことより周りのことを優先してしまうところがある。
そんなエレナが、自分自身のために誰かを想う。
それは、とても素敵なことだと思う。
「頑張ってね、エレナ」
遠く離れた王都にいる友達へ、リディアは心の中でそっと語りかけた。
仕事も。
そして、恋も。
今まで夢に向かって頑張ってきたあなたなら、きっと大丈夫。
――次に会ったときには、もう少し詳しく聞かせてもらおう。
そんなことを考えながら、リディアは隣を歩くセドリックを見上げた。
「ねえ、セドリック」
「ん?」
「私たちも、エレナに負けないくらい幸せになりましょうね」
突然そんなことを言われ、セドリックが目を瞬く。
「……どうしたんだ、急に」
「なんとなくよ」
リディアは笑った。
まだ何も知らないセドリックと。
王都で恋を始めたエレナ。
そして、これから始まるそれぞれの未来。
穏やかな午後の日差しの中で、リディアは幸せそうに微笑んだ。




