第25話 帰省と恋の相談と
王宮内務府・領政財務局の繁忙期が、ようやく落ち着いた。
ここしばらくは領地から届く報告書や税収資料、予算の調整などに追われ、エレナも毎日のように遅くまで仕事をしていた。
けれど、ようやく一段落したことで、局では職員たちにまとまった休暇が与えられることになった。
「……久しぶりに、実家へ帰ろうかな」
そう思ったエレナは、久しぶりに故郷へ戻ることにした。
王都から実家までは、馬車で二日ほど。
長旅ではあるものの、学院時代には何度も往復していた道だ。
久しぶりに見る故郷の景色に、エレナは自然と頬を緩めた。
実家へ到着すると、家族が温かく迎えてくれた。
「おかえり、エレナ」
「ただいま、お父様」
食卓を囲みながら、王宮での仕事の話をする。
父は相変わらず口数こそ少なかったが、エレナが王宮で頑張っていることを嬉しく思っているようだった。
「仕事はどうだ」
「はい。忙しいですけれど……とてもやりがいがあります」
そう答えるエレナの顔を見て、母が微笑む。
「それならよかったわ。少し痩せたんじゃない?」
「そうですか?」
「ええ。ちゃんと食べている?」
「食べていますよ」
そんなやり取りをしていると、久しぶりに家に帰ってきたのだという実感が湧いてくる。
その日の午後。
エレナの兄が婚約者のリディアを連れてやってきた。
「エレナ、お久しぶり」
「リディア!」
リディアは幼い頃からの親友でもあり、姉のように慕っている存在だった。
三人でお茶を囲んでいると、自然と学院時代の話や近況の話になっていく。
そして――。
「そういえば、エレナ」
リディアが楽しそうに笑った。
「王宮で、気になる人はできた?」
「……え?」
エレナの手が止まる。
兄が面白そうにこちらを見る。
「そういう話、聞いたことがないな」
「ち、違います。別に……」
「その反応は、何かあるわね」
「……っ」
エレナはしばらく黙り込んだあと、小さな声で話し始めた。
「……同じ職場の方で」
それだけで、リディアの目が輝いた。
「まあ!」
「まだ……その……お付き合いしているわけではなくて」
「どんな人?」
「えっと……」
エレナの脳裏に、眼鏡をかけた自分を見つめるアレクシスの姿が浮かぶ。
仕事中の厳しい表情。
ふと見せる優しい笑顔。
自分の小さな変化にも気づいてくれること。
そして、時折見せる不器用な優しさ。
「……とても、仕事のできる方です」
「それだけ?」
リディアがくすりと笑う。
エレナは頬を赤くしながら、少しだけ俯いた。
「……優しい方、です」
その言葉を聞いて、リディアは嬉しそうに微笑んだ。
かつて、エレナが「王宮文官になりたい」と話したときも、リディアは誰よりも応援してくれた。
そして今度は――。
「エレナがそんな顔をする相手なら、私も応援するわ」
「リディア……」
「仕事も恋も、頑張っていいのよ」
「……うん」
エレナは照れながら笑った。
王都を離れて、久しぶりに帰ってきた故郷。
忙しい日々の合間に得た、ほんの少しの休息。
そして――。
胸の中には、もう一人。
王都に残してきた、大切な人がいた。
「……早く、休暇が終わらないかな」
思わずこぼれたエレナの言葉に、兄とリディアが顔を見合わせる。
「ふふっ」
「これは思った以上に重症かもしれないな」
「お兄様!」
実家に、久しぶりにエレナの明るい笑い声が響いた。




