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*閑話2 親友

ルーカス・アシュフォード

アレクシスの親友視点のお話です

 俺の名前は、ルーカス・アシュフォード


 王都で生まれ育った、侯爵家の三男だ。


 勉強もそこそこ。


 運動もそこそこ。


 人付き合いは――まあ、得意なほうだと思う。


 特に女性とは、それなりに楽しく会話できる。


 だからこそ、学生時代の俺は、あいつのことを不思議に思っていた。


 アレクシス・ヴァレンティン。


 俺と同じ学院に通っていた、ひとつ年上の男。


 伯爵家の嫡男で、成績は常に上位。


 剣もそれなりにできる。


 礼儀作法も完璧。


 何をやらせてもそつがない。


 しかも――


 顔がいい。


 ものすごくいい。


 金色の髪に整った顔立ち。


 黙って立っていれば、どこかの絵画から抜け出してきた貴公子にしか見えない。


 ……ただし。


 ものすごく無愛想だった。


 口数も少ない。


 笑わない。


 必要なことしか話さない。


 話しかけても、


「そうか」


「分かった」


「問題ない」


 だいたい、この三つで会話が終わる。


 そのせいで、学生たちの間では、


『ヴァレンティン伯爵令息は気取っている』


『人を見下しているらしい』


 なんて噂まで流れていた。


 俺も最初はそう思っていた。


 いや、正確には――


 面倒くさそうなやつだな。


 そう思って、少し距離を置いていた。


 ところがある日。


 学院の廊下で、俺が落とした本をアレクシスが拾ってくれた。


「これ、君のだろう」


「あ、悪い。ありがとう」


「いや」


 それだけ。


 それだけだったんだが。


 なぜか、その日は少しだけ話をした。


 授業のこと。


 教師のこと。


 学院の図書室のこと。


 話してみれば、別に気取っているわけじゃない。


 むしろ、こちらの話をちゃんと聞いている。


 ただ――


 口数が少ない。


 そして、


 表情筋があまり仕事をしていない。


 それだけだった。


「……お前、意外といいやつだな」


 思わずそう言った俺に、アレクシスは眉を寄せた。


「……意外とは、どういう意味だ」


「いや、だって。もっとこう……嫌なやつかと思ってた」


「失礼だな」


「悪い悪い」


 そう言って笑うと、アレクシスは少しだけ目を細めた。


 笑った――のかもしれない。


 俺は、その瞬間に思った。


 こいつ、面白いな。


 それからだった。


 俺は遠慮なくアレクシスに話しかけるようになった。


 昼食に誘い。


 図書室に誘い。


 学院が休みの日には街へ連れ出した。


 最初こそ、


「なぜ私が君と?」


 なんて言っていたアレクシスも、いつの間にか何も言わずついてくるようになった。


 俺たちは性格が正反対だった。


 俺はよく喋る。


 アレクシスは喋らない。


 俺は人付き合いが好きだ。


 アレクシスは必要以上の付き合いをしない。


 俺は大雑把。


 アレクシスは几帳面。


 それなのに、不思議なくらい気が合った。


 気づけば俺たちは、学院でもいつも一緒にいるようになっていた。


 周囲からは、


「どうしてあの二人が?」


 なんて不思議がられていたらしい。


 俺にも分からない。


 ただ――


 一緒にいて楽だった。


 アレクシスは余計なことを言わない。


 けれど、必要なときには必ず助けてくれる。


 俺が困っていれば何も言わず手を貸してくれるし、くだらない話にも最後まで付き合ってくれる。


 笑わないように見えて、実は結構、冗談も通じる。


 ……まあ、顔にはほとんど出ないが。


 そんな親友のことを、俺は少しずつ知っていった。


 そして、知れば知るほど――


 アレクシスという男が、妙に不器用な人間だということも分かっていった。


 特に、女性関係。


 学院にいる頃から、アレクシスの周りには女性が多かった。


 本人は望んでいないのに。


 顔もいい。


 家柄もいい。


 成績もいい。


 当然と言えば当然だった。


 けれど、アレクシスは女性から向けられる好意を、どう扱えばいいのか分からないようだった。


 断っても、また別の女性が現れる。


 贈り物をされる。


 手紙を渡される。


 婚約を申し込まれる。


 そのうち、本人はどんどん疲れていった。


 そして、ある出来事を境に――


 アレクシスは、女性から向けられる好意そのものを警戒するようになった。


 俺は、その過程をずっと隣で見ていた。


 だからこそ、少し不憫だった。


 別に女性が嫌いなわけじゃない。


 普通に女性とも仕事の話はする。


 必要なら丁寧に接する。


 ただ、


 自分に好意を向けて近づいてくる女性を、信用できなくなってしまった。


 それだけだ。


「お前も大変だな」


 ある日そう言った俺に、アレクシスは、


「……余計なお世話だ」


 と返した。


 でも、その横顔は少し疲れていた。


 俺はそれ以上、何も言わなかった。


 親友だからこそ、無理に踏み込むことはしたくなかった。


 だから――


 そのアレクシスが。


 まさか。


 自分から女性を気にする日が来るなんて。


 最初に気づいたときは、正直、驚いた。


 最近のアレクシスは妙に落ち着かない。


 仕事中、誰かを目で追っている。


 その相手が、エレナ嬢だと気づくまでに、それほど時間はかからなかった。


 そしてある日。


 俺はついに聞いた。


「お前、それは恋だろ」


 アレクシスは、ものすごく驚いた顔をした。


 ……あいつのあんな顔を見たのは、学院時代を含めても初めてだった。


「……私が?」


「そう。お前が」


「……」


「エレナ嬢のこと、好きなんだろ?」


 しばらく黙り込んだあと。


 アレクシスは、観念したように小さく息を吐いた。


「……そう、なのかもしれない」


 その言葉を聞いた瞬間。


 俺は、なんだか嬉しくなった。


 親友に好きな人ができた。


 ただ、それだけのことなのに。


 なんだか、自分のことのように嬉しかった。


 あれだけ女性を警戒していたアレクシスが。


 あれだけ恋愛に興味がなさそうだったアレクシスが。


 自分から誰かを知りたいと思っている。


 大切にしたいと思っている。


 それが、嬉しかった。


 もちろん、俺はこれからも二人を面白がりながら見守るつもりだ。


 たまにはアレクシスをからかう。


 困っていたら助ける。


 必要なら背中を押す。


 ……まあ、あいつは俺が手を出さなくても、仕事に関しては何でも自分で解決してしまうんだけどな。


 恋愛だけは、どうにも不器用らしい。


 だから俺は、心の中でそっと願う。


 アレクシス。


 お前が見つけた、その大切な人と。


 今度こそ、幸せになれよ。


 この恋が、ちゃんと実りますように。


 親友として。


 俺はこれからも、二人を暖かく見守っていこうと思う。

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