成人映画館で――「見るだけですよ。先輩のこと、触っちゃダメですよ」
奈緒は向かいに座る美咲を、少し不思議そうに見ていた。
「先輩、前はもっと分かりやすかったですよ」
「何が?」
「私がちょっと意地悪すると、すぐ困った顔して。でも、本当は嫌じゃないのが丸分かりで」
奈緒は美咲の顔を覗き込む。
「今日はなんか……一回、自分の中で受け止めてる感じ。前より、簡単に揺れなくなったっていうか」
少し間を置いた。
「何かありました? 先輩」
美咲はすぐには答えなかった。
奈緒はストローを指先で回しながら、ふっと笑う。
「この前、あんな姿を見せたから……私のこと、嫌いになったとか。まさか、それはないですよね?」
「そんなことないよ」
「でも、玲奈さんと、相当距離近かったですよね」
美咲の指が止まった。
「私が舞台に立ってるとき」
「……奈緒ちゃん、よく見てるね」
「見ますよ」
奈緒は少しだけ口を尖らせた。
美咲は観念したように、小さく息を吐いた。
「……玲奈さんに紹介してもらって、美術大学へ行ったの」
「美術大学?」
「人物デッサンのモデル」
奈緒の表情が変わった。
「学生が十数人くらいいて……」
美咲は少し言い淀む。
「裸で、モデル台に立ったの」
奈緒はしばらく黙っていた。
「全部、見られながら描かれた」
「先輩、それ……すごくエロくないですか?」
「奈緒ちゃん」
「感じました?」
美咲は答えなかった。
奈緒の目が細くなる。
「……感じたんですね」
美咲は視線を逸らした。
「玲奈さんばっかり、ずるいです」
「え?」
「そんな先輩のエロいところ、見られて」
奈緒は少し考えてから、美咲を見た。
「じゃあ今日は、私に付き合ってもらいますからね」
「どこに?」
「成人映画館。前から行ってみたかったんですけど……おじさんばっかりじゃないですか」
奈緒は少しだけ声を落とした。
「一人だと、さすがにちょっと怖くて」
「奈緒ちゃんでも?」
「私だって、何でも平気なわけじゃないですよ」
美咲は少し笑った。
「奈緒ちゃん、あのとき怖くなかった?」
「怖かったですよ。すごく」
「でも?」
「でも、途中から……見られてるのが気持ちよくなりました」
美咲は黙って奈緒を見る。
「私も、この前ちょっと分かった気がする」
「デッサンのとき?」
「うん。でも、奈緒ちゃんのときとは、少し違う気がする」
「でしょうね。場所も、見られ方も全然違いますし」
奈緒は椅子の背にもたれた。
「じゃあ、今日はもう少し近いところまで行ってみましょ」
喫茶店を出て、二人は並んで歩き出した。
大通りを一本外れると、古びた看板が見えてくる。
「先輩、あれです」
美咲は入口を見上げた。
「……本当に入るの?」
「ここまで来て、それ聞きます?」
奈緒は笑って、バッグから濃い色のメガネを二つ取り出した。
「これ、つけていきましょう」
「何これ」
「こんなところ入ってるの、知り合いに見られたらまずいでしょ」
美咲は少し呆れながらも、メガネをかけた。
「……用意よすぎ」
「準備は大事です」
奈緒も自分のメガネをかける。
「じゃ、行きましょ」
扉を開けると、少しこもった空気が流れてきた。
壁には派手な成人映画のポスターが並び、奥ではスクリーンの光が揺れている。
客席に目を向けると、ほとんどが一人で来ている中年か、それより上の男たちだった。
二人が入った瞬間、いくつもの視線がこちらへ向く。
奈緒が美咲の耳元へ顔を寄せた。
「先輩、やっぱり目立ってますね」
美咲はメガネの奥から客席を見た。
「……見られてる」
「そりゃそうですよ。若い女性が二人で来たんですから」
奈緒は少し笑って、美咲の腕を軽く引いた。
「奥、行きましょ」
二人は、周囲から少し離れた席を選んで座った。
スクリーンでは、もう映画が始まっていた。
「先輩」
「なに?」
「今日は、私があの舞台で感じたこと、先輩にもちゃんと体験してもらいますからね」
美咲が奈緒を見る。
奈緒は客席をちらりと見て、少し笑った。
「見られてるって分かってるのに、だんだん逃げたくなくなる感じ」
美咲はしばらく黙っていた。
それから、小さくうなずいた。
「うん、分かった」
奈緒はその返事を聞くと、少しだけ表情を緩めた。
「じゃあ、最初に準備しましょ」
「準備?」
奈緒は美咲のブラウスの襟元へ目を落とした。
「下着、先に外しておきましょう」
美咲は思わず奈緒を見る。
「……最初から?」
「その方が、途中で逃げたくならないでしょ」
美咲は一度、周囲を見た。
「……ここで、本当に?」
「ここでです」
奈緒は平然としていた。
美咲は小さく息を吐くと、まず背中へ手を回した。
ブラウスの下で、ブラのホックが外れる。
肩をわずかに動かし、片方ずつ肩紐を腕から抜いていく。
最後に裾から引き抜くと、ブラだけが美咲の手の中に残った。
奈緒が受け取ると、少しだけ笑った。
「先輩、ちゃんと外せましたね」
美咲は横目で、そのブラを見た。
奈緒は美咲の顔を覗き込む。
「下も、いけそうですか」
美咲は一瞬だけ黙った。
「……うん」
美咲は少し腰を浮かせ、スカートの中へ手を入れた。
ショーツの脇に指をかける。
ゆっくり腰から下ろし、太ももを滑らせる。
膝まで来たところで、美咲の手が一度止まった。
奈緒は何も言わず、美咲の顔を見ている。
美咲はそのまま片脚ずつ抜き、最後に足元から拾い上げた。
奈緒が受け取る。
そしてブラとショーツを、美咲の膝の上へ重ねて置いた。
「……奈緒ちゃん、ここ?」
「はい。ちゃんと見えるようにしておきましょ」
奈緒はブラとショーツが隠れないように、美咲の膝の上で少し位置を整えた。
美咲はそこへ目を落とし、わずかに頬を赤くした。
奈緒は不意に、美咲の顎へ指を添える。
「こっち向いて」
美咲が顔を向けた瞬間、奈緒の唇が重なった。
奈緒はそのまま唇を離さず、目を客席へ向けた。
少し離れた席の男が、二人を見ている。
その視線が二人の顔に止まり、やがてゆっくり下へ落ちた。
美咲の膝の上。
ブラとショーツ。
男の目が、そこで止まった。
奈緒は男の視線を確かめると、ようやく唇を離した。
男は三列ほど前の斜めの席にいた。
二人から視線を外さないまま立ち上がり、一列前へ移ってきた。
男は背もたれから身体を乗り出した。
顔まで、一メートルもない。
美咲の身体がわずかに強張る。
「奈緒ちゃん……近い」
奈緒は男をちらりと見て、美咲の耳元へ顔を寄せた。
「先輩、恥ずかしいですか?」
「……うん」
奈緒が小さく笑う。
「じゃあ、ちょうどいいです」
「え?」
「こんな近くまで来てくれたんですよ。先輩が恥ずかしがってるところ、ちゃんと見てもらいましょ」
美咲は思わず奈緒を見る。
奈緒はさらに声を落とした。
「先輩の脱ぎたての、ほかほかの下着。もう少し目につくところに置いておきましょ」
奈緒は美咲の膝の上から、ブラとショーツをそっと持ち上げた。
そして、美咲の右隣の空席へ並べて置いた。
奈緒の手のひらが、ブラウス越しに美咲の胸をゆっくり包む。
掌全体で柔らかさを確かめるように、下からそっと持ち上げた。
美咲の呼吸が少し浅くなる。
奈緒はそのまま親指だけを動かした。
薄い布の上を、乳首のまわりからゆっくり円を描くようになぞっていく。
「……奈緒ちゃん」
一列前の男が、背もたれからさらに身体を乗り出した。
奈緒はそれを横目で確かめても、手を止めない。
今度は親指の腹で、布越しに乳首を軽く押す。
美咲の肩が小さく揺れた。
その様子に気づいたのか、右側からもう一人が近づいてきた。
美咲の隣に置かれたブラとショーツの前で足を止める。
座席には座らず、その場にしゃがみ込み、下着をじっと見た。
それから、美咲へ目を上げる。
後ろの席でも、誰かが立ち上がった。
美咲のすぐ後ろへ移ってくる。
さらに右斜め前にも一人。
奈緒はそこで、声を潜めるのをやめた。
「先輩、もうかなり反応してますよ」
美咲が奈緒を見る。
「……奈緒ちゃん、声」
奈緒は構わず、親指の腹でブラウス越しに乳首を確かめる。
「ほら。布越しでも、こんなに膨らんで見えちゃいますね」
美咲の頬が一気に赤くなる。
奈緒は少し笑って、さらに続けた。
「すぐ場所が分かるから、簡単につまめちゃう」
親指と人差し指で、ブラウス越しにそっと挟む。
「……っ」
美咲の身体が小さく震えた。
「皆さんに、しっかり見てもらいましょうね」
奈緒の指先に、少しずつ力が入る。
ブラウス越しにつままれた乳首が、そのままゆっくり前へ引かれた。
「……っ、奈緒ちゃん」
美咲の身体が思わず奈緒の方へ傾く。
奈緒はゆっくり指を離した。
美咲はまだ少し息を乱している。
奈緒はその顔を見て、満足そうに笑った。
それから、周囲に寄ってきた男たちへ目を向ける。
「あ、皆さん。見るだけですよ。触っちゃダメですよ」
奈緒の手が、そのまま美咲の膝へ下りた。
指先がスカートの裾に触れる。
奈緒は裾を少し持ち上げ、露わになった太ももへ手を置いた。
「先輩、すべすべですね」
美咲は脚を組んだまま、視線を伏せる。
「脚、そのままでいてくださいね」
美咲が奈緒を見る。
「崩すと、あそこまで見えちゃいますから」
奈緒はスカートの前を残したまま、右側だけをさらに上へたくし上げた。
組んだ脚の脇から、右のお尻が少しだけ覗く。
奈緒は美咲を抱き寄せた。
右腕を背中から回し、組んだ脚の脇から覗いた右のお尻へ手を添える。
「先輩、ここもすべすべ」
掌がお尻の丸みに沿う。
左手は前からブラウス越しに胸へ伸び、乳首を刺激する。
美咲はそのまま奈緒に身体を預けた。
奈緒は左右から美咲を包むように抱え、そのまま唇を重ねた。
前には、身を乗り出した男。
右には、下着のそばにしゃがんだ男。
後ろにも一人。
さらに右斜め前から、もう一人が美咲を見ていた。
やがて奈緒が、先に唇を離した。
そのまま、周囲に寄ってきた男たちへ目を向ける。
その瞬間、美咲が奈緒の頬に手をかけた。
「先輩――」
振り向いた奈緒の唇を、美咲がそのまま塞いだ。
今度は、奈緒がしていたキスとはまるで違った。
美咲は奈緒の顔を引き寄せたまま、貪るように唇を求める。
奈緒が小さく息を漏らす。
美咲はそのまま奈緒の首へ腕を回し、身体ごと引き寄せた。
奈緒の目は、もう周囲の男たちへ向かなかった。
美咲を見つめたまま、強く抱き返す。
「……先輩、それは反則です」
美咲は何も言わず、奈緒を抱いたまま離さなかった。
奈緒の手が、美咲のブラウスのボタンへ伸びる。
「先輩の体、全部見せたくなっちゃいました」
「奈緒ちゃん……」
奈緒の指が、ブラウスのいちばん上のボタンにかかる。
ひとつ外す。
もうひとつ。
ブラウスが開き、乳房があらわになる。
美咲は止めなかった。
奈緒はその姿を見て、一瞬だけ動きを止める。
そして、次のボタンへ指をかけた。
その瞬間だった。
通路の奥で、白い光が揺れた。
懐中電灯。
奈緒の手が止まる。
「……先輩」
美咲も振り返った。
見回りのスタッフが、こちらへ近づいてくる。
美咲は反射的にスカートを下ろし、開いたブラウスの前を急いで閉じた。
奈緒もすぐに立ち上がる。
「あ、先輩。下着忘れてる」
隣の座席からブラとショーツをさっとつかむ。
「先輩、こっち」
奈緒が左側へ身体を向けた。
「すみません、すみません」
集まっていた男たちの間をかき分けるように進む。
美咲もその後ろに続いた。
二人はそのまま通路へ抜け、足早に出口へ向かった。
外へ出て、ようやく足を止める。
美咲が奈緒を見る。
奈緒の右手には、まだ美咲のブラとショーツが握られたままだった。
数秒、二人とも黙ってそれを見る。
先に美咲が吹き出した。
「……奈緒ちゃん、まだ持ってる」
奈緒も自分の手元を見て、ようやく笑った。
「あ、ほんとだ」
美咲もまた笑った。




