大人のおもちゃ売り場で――「見るだけ」のはずが、三つとも試すことになりました
映画館を出てからも、二人はしばらく笑いながら歩いていた。
「先輩、ほんと危なかったですね」
「誰のせいよ」
「でも先輩、止めなかったじゃないですか」
「……それは」
美咲が言葉に詰まると、奈緒は楽しそうに笑った。
しばらく歩いたところで、奈緒がふいに足を止める。
「先輩。このまま、もう一軒寄っていきません?」
「……まだ何かあるの?」
「あります」
奈緒はスマートフォンを取り出した。
「今日みたいなときに使えそうなもの、見に行きましょう」
美咲が怪訝そうに画面を覗き込む。
表示されていたのは、予約制の成人向けウェルネスショップだった。
「……奈緒ちゃん」
「見るだけですって」
奈緒はそう言ってから、少しだけ間を置いた。
「まあ、いいのがあったら買いますけど」
「やっぱり」
店はそこから電車で二駅ほどの場所にあった。
外から見る限り、いわゆる成人向けの店には見えなかった。
明るいガラス張りの入口。白を基調にした店内。棚に並ぶ商品も、化粧品か美容家電のように整然と並べられている。
「……思ってたのと違う」
「でしょ。ここ、女性向けなんです」
奈緒は慣れた様子で店内へ入っていく。
美咲も少し遅れて、その後を追った。
奥には、購入前に機能を確かめられる個室が並んでいる。
個室へ入ると、奈緒は棚から小さな箱を三つ選んでテーブルへ並べた。
「乳首バイブと、クリトリスを吸引するタイプ。それから、中に入れるものです」
美咲は箱を順に見つめた。どれもスマートフォンから強さやリズムを変えられ、三つを連動させる機能があるらしい。
「つけちゃっていいですよね、先輩」
奈緒の言い方は軽かった。美咲は迷いながらも、小さく答えた。
「……あ、うん」
奈緒は美咲の服を必要なところだけ緩め、最初の吸引カップを胸元へ当てた。密着した瞬間、美咲の肩がわずかに上がる。
「次、ここです」
二つ目を当てられたときには、さきほどより明らかな震えが脚へ走った。まだ動いてもいないのに、そこへ奈緒の指が近づくだけで身体が構えてしまう。
三つ目を見せられ、美咲は一度だけ息を止めた。
「これも、いいですよね」
返事を待つ奈緒の目を見て、美咲はもう一度頷いた。すでに潤んでいた身体は、それをほとんど拒まず受け入れた。
「先輩、もう三つともついちゃいましたよ」
言葉にされると、自分がどんな状態で奈緒の前に立っているのか、急に逃げ場のない事実になる。美咲は胸元を押さえようとして、奈緒にそっと手首を取られた。
「隠さなくて大丈夫です。今は私しかいませんから」
そのとき奈緒が、壁に貼られた案内を見つけた。
『装着方法や操作についてお困りの際は、スタッフへお気軽にお声がけください』
「先輩。装着の仕方、ちゃんとできてるか見てもらった方がいいですよ」
「見てもらうって……」
「ずれたまま使うより安心です。女性の店員さんですし、確認だけですから」
店員に見られるためではなく、安全に試すため。そう選びやすい形にされると、美咲にも拒む理由が見つからなかった。
「……それなら」
奈緒はすぐに呼び出しボタンを押した。
入ってきた女性店員は、美咲の表情を見てから、落ち着いた声で説明した。
「位置だけ確認しますね。少し動かします。違和感があればすぐ言ってください」
店員の指が、胸元の吸引カップの縁へ触れた。ほんの数ミリ角度を直されただけなのに、密着した先が引かれ、美咲の背中がぴんと伸びる。
「う……」
「こちらは、もう少し中央へ寄せます」
今度は吸引タイプがわずかに動かされた。吸いついたまま位置を直される感触が、その奥へ短く響く。美咲の膝が揺れ、思わず奈緒の腕を掴んだ。
「奈緒ちゃん……恥ずかしい」
奈緒は美咲を隠さなかった。ただ腰へ腕を回し、店員の前で逃げないように支えた。
「大丈夫ですよ、先輩。きれいにつけてもらっていますから」
店員は二つの位置を確かめると、テーブルのスマートフォンへ目を向けた。
「三つを連動させるモードもあります。強さとリズムの組み合わせを、自動で少しずつ変えてくれるんです」
奈緒の目が輝いた。
「すごい。この機能、三つが順番に作動して、最後に全部の波が重なるんですって。先輩、やってみましょうよ」
美咲が答えるより早く、店員が確認する。
「試してみますか?」
「はい、お願いします」
奈緒が迷わず答えた。
「奈緒ちゃん!」
「先輩、もうやるって言っちゃいましたからねー」
店員はすぐには操作せず、美咲へ視線を戻した。
「ご本人も、よろしいですか?」
美咲は奈緒の腕を掴んだまま、ためらいがちに頷いた。
「では奈緒さん、先輩をしっかり支えてあげてください」
「はい」
奈緒は美咲の腰を横から抱き、身体ごと引き寄せた。背中をゆっくり撫でながら、赤くなった唇を奪う。
「先輩、可愛い」
店員の指がスマートフォンの画面を滑る。
最初に胸元が細かく震え、少し遅れて下腹部へ別の刺激が重なった。さらに身体の内側から低い振動が立ち上がる。三つは同時に押し寄せず、順番を変えながら美咲の呼吸を奪っていった。
「う、……っ」
声は奈緒の唇に塞がれた。美咲は壁へ肩を預け、逃げる代わりに奈緒の服を強く掴む。
「もう少し強くしますね」
画面がもう一度動く。別々だった刺激が次第に間隔を縮め、最後には三つの波がほとんど同じ瞬間に重なった。
美咲の鼻から熱い息が溢れる。身体を反らせようとしても、奈緒の腕が腰を抱いたまま離さない。
「先輩、可愛い。大丈夫、私がいますから」
背中を撫でる手と、唇を塞ぐキス。その二つへ縋るように、美咲は奈緒の胸元へ身体を寄せた。
次の瞬間、全身が硬く強張った。壁にもたれたまま細かな震えが何度も走り、押し殺した声が奈緒の口元へ漏れる。
店員が操作を止めると、美咲の脚からゆっくり力が抜けた。
奈緒は、ぐったりとした汗ばんだ美咲の身体を、胸元へ抱き直した。
店員は美咲の呼吸が落ち着くのを待ってから、穏やかに微笑んだ。
「三つの刺激が重なるモード、よく合っていたみたいですね。この連動モード、人気なんですよ」
奈緒は腕の中の美咲を見下ろし、誇らしそうに答えた。
「私の先輩、すごく可愛いんです」
「では、この三点セットでよろしいですか?」
「はい。全部ください」




