観覧車で――「もう我慢しなくていいです」
約束した休日、テーマパークのゲート前で、美咲は大きく手を振る奈緒を見つけた。
「先輩、こっちです」
人混みを縫うように駆けてきた奈緒は、美咲の前で立ち止まると、嬉しそうに顔を見上げた。
「本当に来てくれた」
「約束したでしょう」
「そうですけど。今日、ずっと楽しみにしてたんです」
奈緒はそう言って、美咲の腕へ自分の腕を絡めた。
ヨガの帰り道と同じ熱が、触れたところから伝わってくる。あの日の「大好きな先輩」という言葉が蘇り、美咲はふと奈緒の横顔を見た。奈緒は前を向いて、楽しそうに笑っていた。
二人は腕を組んだままゲートをくぐった。
奈緒が行きたいと言ったアトラクションを回り、ショップを覗き、気づけば一日が過ぎていた。会社では見たことのないほど無邪気にはしゃぐ奈緒につられ、美咲もいつの間にか、ヨガの日の気まずさを忘れて笑っていた。
夕方、二人は園内のカフェへ入った。
歩き続けて喉が渇いていた美咲は、運ばれてきたアイスコーヒーを飲み干した。
「先輩、少しは休めました?」
「奈緒ちゃんが次々連れ回すからでしょう」
「だって、まだ行きたいところがあるんです」
奈緒は笑いながらスマートフォンを確認した。その直後、表情を変えて立ち上がる。
「先輩、急いでください。観覧車の最終受付まで、あと五分です」
「五分?」
美咲も慌てて立ち上がった。
カフェを出ると、少し先に化粧室の表示が見えた。美咲は空になったカップを捨てながら、そちらへ目を向ける。
「その前に、お手洗いへ――」
「今から寄ったら間に合いません」
奈緒は美咲の手を取った。
「先輩、走りましょう」
返事をする間もなく、美咲は奈緒に引かれて走り始めた。
二人が乗り場へ駆け込むと、係員は時計を確かめてからゲートを開いた。
「お二人が本日最後のお客様です」
息を切らしたまま、美咲は奈緒と最終便のゴンドラへ乗り込んだ。扉が閉まり、外側から錠が掛けられる。
向かいの座席へ腰を下ろした美咲は、遠ざかっていく化粧室の表示を窓越しに見送った。走ったせいで、それまで意識していなかった下腹部の重さが急にはっきりする。
「これ、一周どのくらいかかるの?」
「景色を見てたら、すぐですよ」
奈緒は答えをぼかし、窓の外へ顔を向けた。案内板で一周約三十分と確認していたことは、美咲には言わなかった。
ゴンドラがゆっくりと上昇する。奈緒は子どものようにはしゃぎ、美咲を夜景のよく見える側へ手招きした。
「先輩、こっち。すごくきれいです」
美咲は立ち上がったものの、すぐに窓際へは行けなかった。脚を揃え、スカートの上から片手を下腹部へ添える。
「どうしました?」
「何でもない。少し走ったから」
そう答えて奈緒の隣へ腰を下ろしたものの、美咲の尿意は急激に強まっていた。走ったことで、それまで抑え込んでいた感覚が一気に目を覚ましたようだった。
座り直すたびに膝を強く擦り合わせ、下腹部へ力を込める。それでも切迫した感覚は少しも引かず、呼吸まで浅くなっていった。
街の明かりが眼下へ広がるころには、美咲は景色へ意識を向けられなくなっていた。ゴンドラが揺れるたび、身体の内側へ小さな衝撃が伝わる。
「奈緒ちゃん あと、どのくらい …… ?」
「まだ半分くらいです」
美咲の顔から余裕が消えた。
「私、お手洗いに行きたかったの」
ようやく打ち明けた声は、ひどく小さかった。奈緒は驚いた顔を見せたあと、美咲の隣へ座り直した。
「ずっと我慢してたんですか?」
美咲は膝を擦り合わせたまま頷いた。
「奈緒ちゃん 私、本 …… …… 当に もう駄目そう」
奈緒はすぐには答えず、観覧車のゆっくりした揺れだけが、二人のあいだに残った。
「あ もう …… …… 我慢できなさそう 」
奈緒は美咲の身体を横から抱き寄せた。
「もう我慢しなくていいです。私がいますから」
そう囁くと、奈緒は腕へさらに力を込め、美咲を自分の胸元へ強く抱き締めた。
美咲は奈緒の身体へしがみつき、目を強く閉じた。
張り詰めていた力が切れた瞬間、美咲の身体が、びくり、びくりと小さく震えた。
奈緒は逃がさないように抱擁を強め、その震えごと受け止める。
薄い色のスカートに小さな染みが浮かび、ゆっくりと広がっていった。
「ごめんなさい……」
「おしっこ、全部出しちゃってくださいね」
奈緒は美咲を抱いたまま、促すように背中をゆっくりと撫で続けた。
美咲の指から力が抜け、そのまま奈緒の肩へ顔を伏せる。
窓の外では、夕暮れの街が何事もなかったように流れていた。
やがて美咲の身体から震えが消えた。奈緒はすぐには腕を解かず、美咲の呼吸が落ち着くまで、その背中を撫で続けた。
それから美咲を窓際へ立たせ、濡れたスカートへ手をかける。
「脱いじゃいましょうねぇ」
奈緒は美咲の反応を確かめてから、濡れたスカートを腰から下ろし、足元から取り去った。
続いて、濡れた下着にも指をかけた。
美咲は思わず奈緒の手を押さえようとしたが、触れる寸前で動きを止めた。ほかに着替える方法がないことは分かっていた。
奈緒は濡れた下着をゆっくりと下ろし、それも足元から取り去った。
白いシャツを着ているだけで、腰から下は一糸纏わぬ姿になった。
目の前には奈緒がいる。美咲は下半身を見られまいとして、反射的に両脚を固く閉じた。
奈緒は濡れたスカートと下着をまとめ、自分のバッグへ収めた。それから拭き取り用のシートを取り出し、美咲の前へ屈んだ。
「はいはい。綺麗に拭きまちゅよー」
「奈緒ちゃん……」
「お漏らしした先輩は、いい子にしていてくだちゃいねー」
幼い子をあやすような口調だった。憧れている後輩の前で失敗しただけでも耐え難いのに、その奈緒から赤ん坊のように扱われ、美咲の顔が再び熱くなる。
「そんな言い方、やめて……」
弱々しく抗議しても、奈緒は楽しそうに微笑むだけだった。
奈緒はシートを広げ、美咲の固く閉じられた膝を見上げた。
「少しだけ脚を開いてくだちゃいねー」
美咲は顔を背けたまま、ためらいがちに膝を緩めた。
「もう少しです」
促され、美咲は震える脚をさらに開いた。
奈緒はシートを折り返しながら、肌へ残った水分を丁寧に拭っていく。わざわざ覗き込むような素振りも、手を止めることもなかった。
「あそこも全部見えちゃってまちゅねー。可愛いでちゅねー」
まるで拭き残しを確かめるような、何気ない口調だった。
美咲の顔が一気に熱くなる。
「奈緒ちゃん……そんなこと言わないで」
美咲が脚を閉じかけても、奈緒は慌てず、その膝へそっと手を添えた。
「まだ途中でちゅよー。いい子にしていてくだちゃいねー」
奈緒は何事もなかったように、新しい面へシートを折り返して拭き続ける。
美咲は窓枠を強く握り、顔を背けたまま、再び脚の力を抜いた。
「はい、あそこも綺麗になったでちゅよー」
拭き取りを終え、奈緒が膝から手を離すと、美咲はすぐに両脚を閉じた。
排尿したあとの処理を、まさか後輩の奈緒に、それも逃げ場のない観覧車の中でされるとは思ってもいなかった。
屈辱で胸が締めつけられる。それなのに、奈緒に股の奥まで拭かれ、赤ん坊のように扱われるほど、被虐的な甘さが意識の底へ滲んでいく。
恥ずかしくてたまらないはずなのに、美咲は奈緒を拒むことができなかった。
奈緒は使用したシートをしまい、バッグから黒く艶のあるレザーショーツを取り出した。掌へ収まりそうなほど小さく、下着に近い輪郭をしている。
「これに着替えてください」
「これを穿いて降りるの?」
「おしっこがついたスカートよりいいでしょ?」
そう言われると、美咲には返す言葉がなかった。
奈緒はレザーショーツを美咲の身体へ当て、丈と位置を確かめた。
「かなり身体に密着します。このまま穿くと内腿が擦れて痛くなりそうなので、先に保護クリームを塗ってもいいですか?」
美咲は視線を逸らしたまま頷いた。
奈緒はバッグから小さなチューブを取り出し、再び美咲の前へ屈んだ。
「では、もう一度だけ、あんよを開いてくだちゃいねー」
ようやく閉じることのできた脚を、また開かなければならない。美咲は窓枠を握り直し、ためらいながら膝のあいだを緩めた。
「もう少し開いてください」
美咲は顔を背けたまま、奈緒に言われたとおり脚をさらに開いた。
奈緒はチューブの蓋を外しながら、その脚のあいだへ視線を向けた。
その視線が太腿ではなく、さらにその奥へ向いているような気がしてならない。
奈緒と視線を合わせることもできなかった。視線を合わせた瞬間、本当に見られていると分かってしまいそうだった。
美咲は顔を背けたまま、窓枠を強く握った。
奈緒は、左右の太腿の内側――足の付け根から少し下の、歩くと擦れ合う部分へ、保護クリームを薄く伸ばしていく。
奈緒の指が動くたび、美咲の脚が小さく震えた。
「痛くないですか?」
「 大 …… 丈夫」
「もう少しですから、力を抜いてください」
美咲は窓枠を握ったまま、言われたとおり少しずつ脚の力を抜いた。
奈緒は左右の内腿へクリームを丁寧に伸ばし終えると、手を拭いて立ち上がった。
「終わりましたよ」
美咲はほっとしたように両脚を閉じた。
奈緒は黒いレザーショーツを広げ、美咲の足元へ置いた。
「はい、あんよを上げまちょうねー」
「自分で穿くから……」
「転んだら危ないでちゅからね。まず右のあんよからでちゅよー」
奈緒はレザーショーツの片側を広げたまま、美咲を見上げて待っている。
美咲は窓枠へ片手を置き、諦めたように右脚を上げた。奈緒がその足をショーツへ通す。
「はい、上手にできました。次は反対でちゅ」
美咲は窓枠を握り直し、言われたとおり反対の脚を上げた。
脚を上げるたび、隠したいところへ奈緒の視線が向けられているのを感じてしまう。美咲は顔を背けたまま、奈緒が足をショーツへ通し終えるのを待った。
奈緒はそのまま立ち上がり、黒革を美咲の腰までゆっくりと引き上げていく。
腰まで収まると、レザーショーツは身体の線へぴたりと沿った。丈は想像していたより短く、脚の付け根をかろうじて覆う程度しかない。
「奈緒ちゃん、これ……短すぎる」
「似合っています。先輩の脚、きれいですから」
奈緒は美咲の腰へ手を添え、レザーショーツの位置を整えた。それから指先を黒革の中央へ滑らせる。
股の中央だけ、縫い目がわずかに裂け、細い隙間ができていた。脚を揃えていれば黒革に隠れるが、大きく動けば裂け目が開いてしまいそうだった。
「先輩、ここ、少し裂けているんです」
「えっ 」 ……
美咲が確かめようと腰を引くと、奈緒は逃がさないようにその腰を支えた。
「脚を大きく動かすと、もう少し開いちゃうかもしれません。気をつけてくださいね」
そう注意されることで、美咲は黒革の中央にある細い裂け目を強く意識してしまった。
ゴンドラが地上へ近づく。
白いシャツと黒いレザーショーツだけで人前へ出ることを思い、美咲の身体が固くなった。
奈緒は窓際へ立った美咲の背後へ回り、腰へ両腕を巻きつけた。
「大丈夫。私が一緒にいます」
耳元で囁きながら、美咲の身体を自分へ引き寄せる。扉の向こうに係員の姿が見えても、奈緒は腰から腕を離さなかった。
ゴンドラが着地し、扉が開いた。
美咲は奈緒に腰を支えられたまま、白いシャツと黒いレザーショーツだけの姿で最終便を降りた。
「次、行きましょう」
奈緒が指した先では、夜の明かりに包まれたメリーゴーラウンドが回っていた。




