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第91章 南越重工業、国際宇宙ステーションを作る

第91章 南越重工業、国際宇宙ステーションを作る


水星探査機『マーキュリーラビット』による前人未到のサンプルリターン、スペースX社への次世代スターリンク衛星200機の超短納期納入、そして空の移動概念を根本から覆した超音速旅客機『ビーイング7117・7127・7137』ファミリーの爆発的大ヒット——。


古賀社長率いる「株式会社 南越重工業」が打ち立てた破竹の快挙の数々は、世界中の産業界や科学界に計り知れない衝撃を与え続けていた。分散していた重工業、航空宇宙、先端メカトロニクス、AI制御、そして環境技術が「南越重工業」という強力な一本の太い幹へと集約されたことで生み出された異次元の製造スピードと絶対的な品質は、もはや人類の技術水準の最先端をひた走る象徴として、世界中にその名をとどろかせていたのである。


そんな折、新形県寺尾沖の「新新形国際空港」に隣接する南越重工業・航空宇宙R&Dセンターに、アメリカ航空宇宙局(NASA)の長官をはじめとする幹部団、および国際宇宙ステーション推進委員会のトップたちが、緊迫した表情で極秘訪れしていた。


対応したのは、南越急行ホールディングスCEOの篠原賢人、南越重工業社長の古賀、そして最高財務責任者の大石専務の三人である。


NASA長官は、深々と頭を下げた後、苦渋と期待が入り交じった複雑な面持ちでホログラムモニターに現在の宇宙空間の映像を映し出した。


「篠原CEO、古賀社長……我々NASA、そして国際宇宙コミュニティは今、極めて切迫した宇宙インフラの崩壊危機に直面しています。我が国が主導してきた現在の国際宇宙ステーション(ISS)は、建造から半世紀近くが経過し、構造の老朽化と金属疲労、さらには宇宙ゴミ(デブリ)の衝突リスクにより、限界を迎えています。しかし、後継となる商業宇宙ステーション構想は、各国の予算削減と開発の遅延により頓挫しかかっているのです」


長官は画面を切り替え、宇宙飛行士たちの滞在環境に関するデータを提示した。


「さらに深刻なのは、従来の宇宙ステーションにおける『居住性』の劣悪さです。狭小なモジュール、常に響き渡る生命維持装置の重低音、微小重力による骨密度低下や筋肉衰退、そして何よりも閉鎖空間における激しいストレスが、長期滞在する宇宙飛行士や研究者たちの身心を削り取っている。人類がこれから本格的に月や火星、深宇宙へ進出するためには、従来の『生き延びるためだけの缶詰』ではなく、何十人もの人間が長期間、健康的かつ快適に生活・研究できる、まったく新しい次元の『超大型・高居住型宇宙ステーション』が不可欠なのです」


NASA長官の切実な瞳が、篠原と古賀をまっすぐに見つめた。


「現在の老朽化したISSの数倍の容積を持ち、宇宙飛行士たちが一切のストレスを感じることなく、まるで地上の最新ホテルや研究施設にいるかのように過ごせる夢の宇宙基地……。これを設計し、宇宙空間で組み立て、完成させられる技術と資金力、そして異次元の実行力を持つのは、世界中で南越重工業しか存在しません。我々NASAは、次世代全宇宙ステーション『グランド・ラビット(Grand Rabbit Station)』の建設と全システム納入を、貴社に一括発注したいのです!」


プレゼンテーションを聞いていた大石専務は、静かに眼鏡を押し上げ、手元のタブレットで規模感とリスクの算定を行った。


「……現在のISSの重量が約450トン。NASAが求めている『グランド・ラビット』は、その五倍に当たる2500トン級の超大型構造物です。静音生命維持システム、人工重力区画、防護シールド、研究ラボ、居住エリアのすべてを完備するとなれば、総事業費は十兆円規模に達します。単なる打上げではなく、新新形国際空港からの数十回に及ぶロケット打ち上げと、地球周回軌道上での完全無人AIアセンブリ(軌道上組み立て)という前代未聞の工程が必要です」


だが、古賀社長は太い腕を組み、ニヤリと力強い笑みを浮かべた。


「十兆円のプロジェクトか、燃えるじゃないか。大石さん、昔のISSが狭くて不便だったなら、俺たちの手で『世界一居心地のいい宇宙の街』を作ってやろうじゃないか。サロナエアコンの空調と、南越建設の全自動施工、本産自動車のAIロボティクス、南越車輌の居住空間デザインを叩き込めば、NASAの連中が腰を抜かすようなステーションができるぜ」


篠原もゆっくりと頷き、NASA長官に向かって力強く告げた。


「引き受けましょう。南越急行グループの総力を挙げ、人類が誇るべき最高の宇宙居住基地を建設し、完全な状態でNASAへ納入してみせます」


こうして、人類史上最大の宇宙建設プロジェクト『プロジェクト・グランドラビット』が、電撃的に発足した。


主導権を握った南越重工業は、グループ各社の異次元の技術を結集し、従来の宇宙工学の常識を覆す革新的な設計を次々と打ち出していった。


まず最大の課題であった「居住性とストレス軽減」については、南越車輌のインテリアデザインチームと、サロナエアコン、南越総合大学の生体工学チームがタッグを組んだ。


ステーションの中心部には、低速回転させることで地球の約三分の一(火星と同等)の重力を疑似的に発生させる「回転式人工重力居住リング」を配置。これにより、長期間の滞在でも筋肉衰退や骨密度低下を大幅に抑制することが可能となった。


さらに、サロナエアコンが開発した「超静音・空気清浄バイオ生命維持システム」を搭載。機械の騒音を完全にカットし、新形県の深い森の空気を再現した微かなアロマと適切な湿度を常時供給することで、閉鎖空間特有の異臭と騒音ストレスをゼロ化させた。


居住エリアには、南越不動産とホテル・ホワイトラビットのノウハウが惜しみなく注入された。完全個室のプライベートルーム、天然温泉を再現した微小重力対応スパ、南越アグリが開発した新鮮な無農薬野菜を自動栽培する「宇宙農園シェフ・ラボ」、さらには北宝映画と新形テレビ20が共同開発した、全方位八Kパノラマで地球や四季の風景を映し出す「全天候型メンタルケア・リラクゼーションルーム」までが完備されたのである。


次に、構造体の「安全性と耐久性」については、南越建設と本産自動車の技術が威力を発揮した。


機体外壁には、南越重工業が開発した特殊ナノセラミック多層装甲と、宇宙ゴミ(デブリ)の接近をミリ波レーダーで検知して微小プラズマで蒸発させる「アクティブ・デブリ・シールド」を配置。百年間無メンテナンスで稼働できる絶対安全の城塞が組み上げられた。


そして、この2500トンにも及ぶ巨大構造物を宇宙空間で組み立てるための工程が、新新形国際空港を舞台に開始された。


新新形国際空港の宇宙港エリアからは、南越重工業が誇る超大型回収型ロケット『ラビット・キャリア3号』および4号が、数日おきに正確無比なスケジュールで次々と大空へ向けて打ち上げられた。


ロケットのフェアリング内には、南越建設と梅内・後田製作所が共同開発した「折畳み式・自己拡張型高分子モジュール」と、軌道上組み立てを担当する自律型建設AIロボット『ラビット・ビルダー』群が密載されていた。


新形テレビ20は、編集権完全独立のもと、地球高度400キロの高度で繰り広げられる人類初の「無人AI軌道上建設工事」を二四時間体制で全世界へ超高画質生中継した。ベテラン記者の高橋やカメラマンの井上らが伝える映像には、漆黒の宇宙と青く輝く地球を背景に、数十台の『ラビット・ビルダー』が寸分の狂いもなく大型モジュールを結合させ、超高精度レーザー溶接を施していく圧巻の光景が映し出されていた。


「見てください! 従来の宇宙飛行士による危険な船外活動(EVA)は一切行われていません! 南越重工業が誇るAI建設ロボット群が、まるで地上でビルを建てるかのような手際で、巨大な宇宙ステーションを組み上げていきます!」


高橋記者の熱い実況に、全世界何十億人の観客がテレビやスマートデバイスの前で歓声をあげた。本来なら十年かかるはずの軌道上組み立て工程は、南越重工業の異次元の打ち上げ頻度と自律型ロボティクスにより、わずか八ヶ月という驚異的な短期間で完工したのである。


秋、地球の周回軌道上に、圧倒的な美しさとスケールを誇る巨大な白銀の城郭『グランド・ラビット(Grand Rabbit Station)』がその全貌を現した。


直径300メートルに及ぶ美しい人工重力リング、眩い太陽光パネルの翼、そして流麗な研究ドーム群。それはまさに、人類が宇宙に創り出した最初の「未来都市」そのものであった。


完成式典と最終検査のため、NASAのトップ宇宙飛行士チームと研究者、そして古賀社長と篠原CEOを乗せた南越エアラインズ運営の宇宙往還機が、グランド・ラビットのメインドッキング港へ滑り込んだ。


ハッチが開き、ステーション内部へ足を踏み入れたNASAの宇宙飛行士たちは、一瞬で言葉を失った。


そこにあったのは、冷たい金属と無機質な配線がむき出しになった従来の宇宙船の光景ではなかった。


やわらかな木目調の最新素材で包まれた温かみのある廊下、静寂を包む心地よい空気、微かな森の香り、そして広々とした個室。人工重力エリアに足を踏み入れた一番ベテランの宇宙飛行士は、自分の足でしっかりと床を踏みしめられる感動に、思わず涙を溢れさせた。


「信じられない……! 騒音が全くない! 地球上の最高級ホテルと最先端の研究室が、そのまま宇宙に浮かんでいるようだ! これなら一年でも、十年でも、ストレスなく健康に滞在できる!」


宇宙農園では採れたてのトマトやイチゴが実り、リラクゼーションルームには四季折々の日本の風景が八K映像で広がっていた。NASAの検査官たちは、全項目のチェックリストに「100点満点中、200点」の極上評価を通達。全機能の正常稼働が確認され、グランド・ラビットは完璧な状態でNASAおよび国際宇宙コミュニティへ正式に納入されたのである。


納入式典の模様が世界へ配信されると、NASAだけでなく、欧州宇宙機関(ESA)、日本、さらには世界中の民間企業や大学研究機関から、グランド・ラビットへの滞在申請と研究ブースの利用契約が殺到した。


六日町本社の役員室で、大石専務は届いたばかりの最終決算書を篠原と古賀に開示させた。


「篠原CEO、古賀社長。『グランド・ラビット』の納入完了に伴い、NASAおよび各国宇宙機関からの引き渡し代金、ならびに今後50年にわたるステーション維持管理・保守運用契約が正式に発効しました。本プロジェクト単体での売上高は12兆円、純利益は2兆5000億円を計上します。南越重工業の経営基盤は、もはや国家予算規模の領域に達しました」


古賀社長は豪快に笑い、満足そうに腕を組んだ。


「ハハハ! 大石さん、利益も凄いが、何よりあのステーションで宇宙飛行士たちが嬉しそうに笑ってたのが一番だ。狭い缶詰の中に押し込められてちゃ、良い研究もアイデアも出ねえからな。現場の人間が心地よく働ける場所を作る——それは電車でも、工場でも、宇宙ステーションでも同じことよ」


篠原は静かに窓の外を見つめ、青く澄み切った空を見上げた。


かつて、雪深い越後湯沢と金沢を結ぶローカル線で、年間十数億円の赤字に苦しみ、倒産と廃線の恐怖に怯えていた南越急行。内部留保300億円を賭けた命がけの金融格闘技から始まったそのレールは、地銀を救い、地域産業を再生し、被災地や孤島を守り、超音速で世界を駆け抜け、ついに宇宙空間に人類最高の「家」を築き上げた。


(渡辺社長……見えていますか。あなたが守り抜いたあの日の南越急行の魂は、いまや地球を飛び出し、宇宙で暮らす人々の笑顔と日常を守っています)


渡辺前社長が残した「線路に終着駅はない」という言葉は、青い地球を包み込む軌道の上で、永遠の光となって輝き続けていた。南越急行グループの描く希望のレールは、無限の宇宙の彼方へ向かって、どこまでも力強く伸びていくのだった。

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