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第87章 新形テレビ20、世界の主要報道機関へ

第87章 新形テレビ20、世界の主要報道機関へ


かつて資金ショートの危機に瀕し、破産寸前まで追い込まれていた県内最小の独立系ローカル局「新形テレビ20」の社屋は、今やかつての面影を残しながらも、世界のメディア地図の中心地として異彩を放つ要塞へと変貌を遂げていた。


南越急行グループからの資金支援を受け、社長の佐々木とベテラン記者の高橋、そして篠原賢人CEOとの間で交わされた「新形テレビ20憲章」――たとえ親会社である南越急行であっても報道内容や番組編成に一切口出しや検閲ができず、不祥事発生時には他局に先駆けて優先追及する義務を負うという「完全なる編集権の独立」――が締結されてから数年。その泥臭くも真実のみを追う報道魂は、日本国内にとどまらず、地球全体へとその翼を広げていた。


当初は日本全国の主要キー局や地方局との強力なネットワークを構築し、過酷な現場へ一番乗りして事実だけを届ける報道スタイルで国内の信頼を独占した。だが、南越急行コンツェルンが世界中でインフラ支援や巨大プロジェクトを完遂していくにつれ、新形テレビ20の取材網もまた、世界全土を包み込む巨大な知のネットワークへと拡張されていったのだ。


ニューヨーク、ロンドン、パリといった世界のメジャー都市に設置された特派員事務所は序の口に過ぎない。


ブエノスアイレス、リマ、パナマ、メキシコシティといった中南米の熱気あふれる主要都市。

シアトル、ヨハネスブルグ、ナイロビ、カイロといったアフリカ・北米の大動脈。

ドバイ、アンマン、ニューデリー、ワルシャワ、キーウといった地政学の最前線。

さらにはシドニー、シンガポール、バンコク、香港に至るまで――地球上のほぼすべての主要国や地域に、新形テレビ20の自前支局、あるいは現地報道機関との強固なアライアンス(提携ネットワーク)が完璧に張り巡らされていた。


新形市にある新形テレビ20の本局グランドスタジオのフロアに足を踏み入れれば、そこがかつて小さなローカル局だったとは誰も信じられない光景が広がっていた。


スタジオやサブコントロールルームには、日本語、英語、スペイン語、アラビア語、フランス語、ウクライナ語、中国語など、世界中の言語が飛び交っている。外国人ジャーナリスト、ディレクター、映像エンジニア、CGクリエイターたちが自国から送られてくる最新の8K映像を前に真剣な眼光で議論を重ね、24時間リアルタイムで世界へ向けて「不都合な真実」を排除した純度の高いニュースを発信し続けていた。


「おい、高橋! ニューヨーク支局とキーウ支局から、同時に緊急生中継のラインが入ったぞ!」


報道局長の叫び声に、カメラ取材の最高統括となった高橋が即座に反応する。


「よし、両方の映像をダブル画面で出せ! どちらの映像もノーカット、解説者の忖度抜きの『現場の生の映像と音』を最優先で流すんだ!」


高橋の引き出しには、今でも一本の古びたガムテープが大切に保管されている。かつて機材を買う金もなく、壊れかけたズームノッチをガムテープでぐるぐる巻きにして吹雪の現場へ飛び出していったあの極貧時代。どんなに最先端の8Kカメラやサテライト中継車、AI自動翻訳システムが整備されようとも、高橋と新形テレビ20のスタッフたちの胸に宿る「ガムテープの精神」――レンズの向こう側にある人間の真実と情熱だけを愚直に捉える魂――は何一つ変わっていなかった。


新形テレビ20が世界中で爆発的な支持を獲得した背景には、もう一つの圧倒的な強みがあった。


それは、南越急行、北宝映画、ユニバース・ピクチャーズの三社対等合弁によって誕生した、東京ドーム五十個分を誇る「南越ワールド・シネマ・パーク&スタジオ」や「北塚歌劇宴劇団」から生み出される、世界最高峰のエンターテインメントコンテンツの独占放映権と配給網であった。


映画『Train way』や『Rescue Rabbit』をはじめとする世界的大ヒット映画のメイキング、北塚大劇場での華麗な8K生中継、最先端のバーチャルステージで撮影された超大型ドラマシリーズの数々は、世界中の視聴者を魅了してやまなかった。


「真実を追求する妥協なきニュース」と「人々の心を揺さぶる至高のエンターテインメント」。


この両輪を併せ持った新形テレビ20の名は、いまや地球上の誰もが知る絶対的なメディアブランドとなっていた。


アメリカの「CNN」、イギリスの「BBC」、カナダの「CBC」、中東の「アルジャジーラ」――。


世界を動かしてきたこれら歴史的な巨大グローバルニュースネットワークと並び、「新形テレビ20(Niigata TV 20)」の名は、世界のどこへ行っても人々が当たり前にチャンネルを合わせ、最も信頼を寄せる「世界の主要報道機関」として君臨していたのだ。


ある日の午後、六日町本社の最高経営責任者室。


篠原賢人CEO、古賀副社長、大石専務の三人は、大型モニターに映し出された新形テレビ20の24時間グローバルニュース放送を眺めていた。


画面上では、中東ドバイのNGB支局前から送られてくる金融ニュースと、南太平洋ツバルでの「スマート・バリア」稼働後の現地の人々の笑顔を捉えた現地ルポが、完璧な映像美と忖度のない緻密な取材で交互に映し出されている。


「……いやはや、凄まじい波及効果ですね」


最高財務責任者(CIO)の大石が、手元のタブレットで新形テレビ20グループの最新決算データを表示させながら、驚きを隠せない様子で眼鏡を押し上げた。


「かつて経営破綻寸前で、我が南越急行が六十億円で買収・支援したローカル局が、今や世界の広告収入とグローバル配給権で年間数千億円の純利益を叩き出すメガ・メディアへと成長しました。世界中の主要国に自前支局を配備したことで、海外での我がグループのブランド認知度と信用力は、金融数字では計り知れない領域へ達しています」


「なあ大石、何より一番大したもんと思うのはな」


古賀副社長が腕を組み、満足そうに破顔した。


「あいつらが今でも『新形テレビ20憲章』を真面目に守って、うちのグループの不備や事故があれば、真っ先に飛んできてカメラを突きつけてくるところだよ。先月だって、なんなん線の雪害による三分間の遅延事故を、高橋の奴が『南越急行、輸送品質の過信に警鐘』なんて見出しでトップニュースで流しやがったからな!」


「ふふ、あれには参りましたね」


大石も苦笑いを浮かべた。


「おかげで現場の緊張感が引き締まり、南越車輌と南越建設のメンテナンス精度がさらに跳ね上がりましたがね」


篠原は窓の外を見つめながら、静かに、しかし深い感慨を込めて口を開いた。


「それでいいんだ、古賀、大石。我々南越急行グループが時価総額五十兆円、預金総額百兆円という肥大な力を手に入れたからこそ、我々を遠慮なく監視し、客観的な事実を突きつけてくれる『開かれた鏡』が必要なんだ。権力や札束に屈しない報道機関が地元から世界へ羽ばたいたこと……それこそが、我々が社会に残した最大の財産の一つだ」


その時、CEO室のドアがノックされ、秘書とともに新形テレビ20の佐々木社長、高橋取材統括、そして若手カメラマンの井上が入ってきた。


「篠原CEO、古賀副社長、大石専務、お時間をいただき感謝いたします!」


佐々木社長が深々と頭を下げた。かつて資金ショートで涙を流していた老社長の表情には、今や世界最高峰のメディアを率いる者としての気品と堂々たる誇りが満ちていた。


「佐々木社長、高橋さん。世界中での支局展開、本当におめでとうございます」


篠原が温かく迎えると、高橋は肩に担いだ最新の8K超軽量カメラを軽く叩きながら、ニヤリと笑った。


「篠原さん、お祝いの言葉はありがたいですがね……今日は挨拶に来ただけじゃありませんよ」


「ほう?」


古賀が興味深そうに身を乗り出す。


高橋は胸ポケットからマイクを取り出すと、まっすぐに篠原へ向けた。


「南越フィナンシャル・グループが主導する『世界預金構想(NGB)』の預金総額が百兆円を突破し、IMFや世界銀行と六日町で会談を行う件についてです。……新形テレビ20としては、この巨額の資金が世界へどう流れるのか、途上国への融資において過度な影響力を行使しないか、独占取材とともに徹底的に監視・追及させていただきますよ。親会社への忖度は、一切ありませんので」


その真剣かつ誇り高き取材姿勢に、CEO室の中に一瞬の沈黙が流れた。


次の瞬間、篠原、古賀、大石の三人は顔を見合わせ、腹の底から大声をあげて笑い出した。


「ハハハ! 言ってくれるじゃないか、高橋!」


古賀がポンと高橋の肩を叩く。


「よし、かかってこい! 俺たちの金融も、現場も、何一つやましいことなんかねえ! 世界中のカメラの前で、全部オープンにしてやるよ!」


篠原は高橋のマイクをまっすぐに見つめ、力強い声で答えた。


「望むところです、高橋さん。真実を隠さず、事実だけを世界へ届ける……あなた方のカメラの前で、我々は常に正しくあり続けることをお約束しましょう」


カメラマンの井上が、神業のようなアングルで篠原の澄んだ瞳と、窓の外に広がる六日町の美しい街並みを完璧な構図でレンズの中に捉えた。


かつて豪雪と赤字の闇の中で消えかけていた小さな第三セクター鉄道と、破産寸前だった小さなローカルテレビ局。


泥と汗にまみれて「現場の真実」を守り抜いた者たちが紡いだ情熱のバトンは、いまや世界中の人々の心と暮らしを照らす不滅の光となり、どこまでも続く未来のレールとともに、地球の明日を力強く照らし続けていくのだった。

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