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第126章 火星への移民船と軌道造船都市

第126章 火星への移民船と軌道造船都市


映画『アルカディア・イン・ザ・スターズ』の撮影のために、無重力空間へ実物大で建造された全長四百メートルの探査宇宙船『アルカディア号』。映画の全世界大ヒットにとどまらず、撮影終了後にそのままプラズマイオンエンジンを点火して火星・小惑星帯への実用探査へ出航したというニュースは、世界の宇宙開発機関に超大型台風並みの衝撃を与えた。


中でも最も激しく動揺し、そして歓喜したのはアメリカ航空宇宙局(NASA)であった。


冬。新形県大沼エリアに位置する六日町メガロポリスの本社高層タワー。最上階の最高経営責任者(CEO)室。


篠原賢人は、ガラス窓越しに静かに舞い落ちる大沼の雪景色を眺めながら、温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を口に含んでいた。向かい側には、ポーカーフェイスの最高財務責任者(CFO)大石専務と、南越重工業社長の古賀副社長が腰掛けている。


デスクの上でホログラム通信を展開しているのは、ワシントンDCのNASA長官であった。


「篠原CEO、古賀副社長! 単刀直入に申し上げたい!」

NASA長官の興奮した声が部屋に響く。

「映画のセットとして建造された『アルカディア号』が、既存のどの宇宙船よりも遥かに頑丈で、圧倒的な居住性と推進性能を備えていることを我が国のデータが証明しました。NASAが何十年もかけて計画してきた『有人火星探査・第一次開拓プロジェクト』を、南越急行グループと完全共同で実施させてほしい! 人類の火星移住の歴史を、あなた方の船とともに切り開きたいのです!」


長官の熱いオファーに、古賀副社長が豪快に腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。


「長官、話が早くて助かるぜ。だがな、NASAの当初のプラン……たった四人や八人の飛行士が狭いカプセルに閉じこもって火星を『ちょっと調査して帰ってくる』なんて生ぬるい計画に、俺たちのアルカディア号を貸すつもりはないぞ」


「えっ……? 生ぬるい、とおっしゃるのですか?」長官が目を丸くする。


古賀はホログラムの画面へ身を乗り出した。


「火星に行くってことは、そこを人類の新しい故郷にするってことだ! なら、科学者や技術者だけじゃなく、その家族や民間人が何年も『人間らしく快適に暮らせる船』じゃなきゃ意味がない! 篠原、大石! アルカディア号をもう一改造して、NASAも腰を抜かすような『本格調査・開拓大型宇宙船』へ進化させてやろうじゃないか!」


篠原賢人は静かにグラスを置き、頼もしい参謀たちを見つめた。


「いいですね、古賀。我々が創り出してきたのは、単なる乗り物ではなく『人が生きる空間』です。宇宙船の再改造、そしてそれを永久に支える軌道拠点の拡張……全面的にゴーサインを出します」


古賀の号令のもと、南越重工業、南越車輌、サロナエアコン、本産自動車、そして南越不動産の全技術陣が結集した『アルカディア号極限拡張プロジェクト』が始動した。


再改造の目標スペックは、これまでの宇宙開発の常識を覆す異次元の領域であった。


一、二年間完全無補給・280人の長期居住空間

単なる「搭乗」ではなく、280人の開拓団とクルーが最長二年間、一切の地球からの補給なしで完全に自給自足し、ストレスフリーで生活できるエコシステムを組み込むこと。


二、全室「一家族4LDK」の超快適スマート住宅

従来の宇宙船のような「壁の穴に潜り込んで眠るカプセルベッド」を全面廃止。南越不動産が手掛ける最新のスマートマンション仕様を採用し、一家族ごとに広々とした「4LDK(リビング・ダイニング・キッチン・ベッドルーム・バスルーム完備)」の居住ブロックを確保。サロナエアコンの多層気流制御により、森の中と同じマイナスイオン空気を常時循環させる。


三、火星調査専用宇宙船区画とシャトル格納デッキ

機体下部に、火星の大気圏へ突入して地表の地質・水資源・気象を完全自動調査する専用宇宙船『マース・ラビット』四機を配備する独立区画を新設。さらに、人員や大型物資を火星地表とアルカディア号との間でピストン輸送する多目的宇宙シャトルを八機同時格納・整備できる大型格納庫ハンガーデッキを増設する。


地球周回軌道上、高度400キロメートル。

南越重工業の全自動建設ロボット『ラビット・ビルダー』数百機が、アルカディア号の周囲を舞いながら、ナノセラミックチタンの大型居住ブロックを次々とドッキングさせていった。


「居住区の人工重力リング、直径200メートルへ拡張完了!」

「サロナエアコン・閉鎖型生態系生命維持装置(CELSS)接続! 内部で南越アグリの新鮮な野菜と米が自給栽培可能です!」


作業現場を指揮する南越車輌の村上技師長と南越重工の技師たちが、汗を拭いながらモニターを見つめる。


既存の探索船から、まさに「星を渡る超大型マンション兼科学要塞」へと変貌を遂げていくアルカディア号。


「できた……! これなら火星までの往復2年間、お年寄りから子供まで、家族みんなでテレビを見ながら、美味しいご飯を食べて過ごせるぞ!」

村上技師長が拳を握りしめた。


アルカディア号の再改造が進む一方で、古賀と篠原の視線は「その先」へ向けられていた。


「篠原、アルカディア号一隻を改造して終わりじゃ意味がない」

古賀がCEO室のホログラム画面で、宇宙ステーション『グランド・ラビット』の拡張計画図を示した。


「これから先、第二、第三のアルカディア号が生まれ、世界中の宇宙船が火星や月へ飛び立つようになる。その時に、宇宙船の製造や定期点検、メンテナンスをいちいち地球の地上に降ろしてやってたら効率が悪すぎる。宇宙船は、宇宙で作って、宇宙で直すのが一番なんだ!」


古賀が打ち出したのは、宇宙ステーション『グランド・ラビット』を、人類初の「巨大軌道造船所&メンテナンス都市」へ脱皮させる超大型拡張構想であった。


直ちに、南越建設の全自動AI施工部隊と南越重工の宇宙建設チームが発動した。


宇宙ステーション『グランド・ラビット』のメインフレームから伸びる形で、以下の巨大専用デッキ群が電撃的に増築されていった。


一、超大型宇宙船専用「造船&メンテナンス・デッキ」

全長五百メートル級の大型宇宙船を同時に三隻格納し、無重力状態での建造、外殻溶接、エンジン換装、定期オーバーホールを完全自動で行える巨大ドック。本産自動車の大型水中AIドローンを宇宙用に改良した「アーム・ビルダー」が常駐する。


二、造船・整備エンジニア「居住専用デッキ」

宇宙船の製造、メンテナンス、運航整備に携わる数千人の専門技師とその家族が暮らす大型居住施設。ここにも「一家族4LDK」の最新スマート住宅が整然と並び、南越総合医療センターの宇宙分院や南越学園の宇宙校も併設された。


三、賑わいの「商業&エンターテインメント・デッキ」

長期滞在する技術者や宇宙飛行士、観光客のための超巨大商業ゾーン。メガスーパー『カワサワ・宇宙店』、デパート『伊勢・グランドラビット店』、そして『佐渡武蔵・宇宙本店』が立ち並び、地球上と全く変わらない買い物や食事が楽しめる「天空のメガロポリス」が形成された。


作業開始からわずか六十日。

地球を見下ろす漆黒の宇宙空間に、幾何学的な光を放つ全長二キロメートルにおよぶ巨大造船都市ステーション『グランド・ラビット・メガロ・ドック』が、完璧な姿で完成したのである!


第四節 南越重工業「宇宙造船・運行整備事業部」発足

2026年冬。新設された『グランド・ラビット・メガロ・ドック』の中央メインアトリウム(気圧制御された巨大多目的広場)において、歴史的な式典が開催されていた。


地球上の六日町本社と、宇宙ステーションのアトリウムが、南越重工業の超高速量子通信でリアルタイムに接続される。


壇上に立った篠原賢人CEOが、全世界のモニターとステーション内の数千人の技術者へ向かって宣言した。


「本日、南越急行グループおよび南越重工業内に、新たな主力事業部を正式に立ち上げます。……部署名は、『南越重工業 宇宙造船・運行整備事業部』です」


万雷の拍手が、地球と宇宙の双方で巻き起こった。


第一代事業部長に就任したのは、南越車輌で超電導リニアやAI電車の開発を指揮してきた村上技師長であった。


「我々『宇宙造船・運行整備事業部』の使命は明確です!」

村上事業部長が白髪の頭を誇らしく上げ、力強くマイクに叫んだ。

「宇宙船の製造、日常のメンテナンス、エンジンの点検、そして軌道上の運行安全を100%保障すること! 雪国の列車を安全に走らせてきた我がグループの職人魂を、この成層圏の向こうでも遺憾なく発揮し、火星へ向かうすべての挑戦者たちの命を守り抜きます!」


事業部の発足と同時に、現地で働く整備士やエンジニアたちへ、最新の作業用宇宙スーツ『ラビット・メカニック・スーツ』が配与された。


サロナエアコンの多層温度制御と、本産自動車の微細触覚アシストが組み込まれたこのスーツにより、作業員たちは零下百度を超える過酷な宇宙空間でも、まるで自室にいるかのように素手感覚で精密なボルト締めやエンジン整備を行えるようになったのである。


「すげえ……! 指先の感覚がそのまま伝わる! これならどんな大型宇宙船の整備も完璧にこなせるぞ!」

若い技術者たちが、胸の南越急行のエンブレムを摩りながら歓声を上げた。


第五節 完成したアルカディア号と開拓団の笑顔

式典の直後、新設された『造船&メンテナンス・デッキ』の第一ドックにおいて、再改造を完了した『アルカディア号』のお披露目式が行われた。


ドックの巨大な強化ガラス越しに見えるアルカディア号は、四百メートルの巨体に最新の居住ブロックと、下部のシャトル格納デッキ、そして火星調査専用船『マース・ラビット』四機を美しく格納し、神々しいまでの光を放っていた。


新形テレビ20のベテラン記者・高橋とカメラマン・井上も、宇宙スーツを着て現地から全世界へ生中継を行っていた。井上の担ぐ最新鋭8Kカメラの側面には、あの破産寸前時代から変わらない「古びたガムテープ」の切れ端が、誇り高く貼られている。


「こちら新形テレビ20です!」

高橋記者が感涙に声を詰まらせながらマイクを握る。

「再改造を終えた人類最大の探査船『アルカディア号』が、ついにその完成の時を迎えました! いま、NASAから選ばれた開拓飛行士たちと、南越急行の選抜技術者とその家族、計280人が、笑顔でこの船に乗り込んでいきます!」


画面には、広々とした「4LDK」の船内居室へ荷物を運び込む開拓団の家族たちの姿が映し出された。


「すごいわ、お父さん! 地球の家より広いリビングがあるよ!」

「お風呂もサウナもついてる! これなら火星までの二年間、毎日快適に過ごせるね!」


子供たちがふかふかのソファで跳ね回り、母親たちが最新のシステムキッチンで南越アグリの米を炊く準備を整えている。


NASAの長官も、船内の絶妙な完成度に涙を流して篠原の手を握りしめた。

「篠原CEO、古賀副社長……! これは宇宙船ではない、人類の『希望の街』そのものです! 南越急行グループの技術が無ければ、こんな素晴らしい移民船は100年かかっても作れませんでした!」


「ガハハハ!」古賀副社長が豪快に長官の背中を叩いた。「長官、感謝するなら大石にも言ってやってくれ! この巨大ドックとアルカディア号の再改造費一兆五千億円を、全部完璧なビジネスとして回収する計画を立てたのはあいつだからな!」


六日町メガロポリスの本社CEO室で、大石専務がタブレットの財務データを手際よく操作し、ポーカーフェイスのまま数字を提示した。


「……篠原CEO。今回の『宇宙造船・運行整備事業部』の発足、ならびにアルカディア号再改造およびメガロ・ドック建設プロジェクト。NASAからの共同開発協定金八千億円、各国の宇宙機関からのドック使用・メンテナンス予約金、ならびに商業デッキ(カワサワ、伊勢、佐渡武蔵)からのテナント収益により、投資額一兆五千億円の回収率は初年度で七割に達する見込みです」


大石はポーカーフェイスの口元をわずかに緩めた。

「さらに、今後数十年間にわたって世界中の宇宙船の製造・整備・燃料補給を我がグループが独占管理することになり、年間二兆円規模のストック型収益が半永久的に確定いたしました」


「完璧だな、大石」

篠原賢人は温かいジャスミン茶を一口含み、眼下に広がる大沼の雪景色と、モニターに映る宇宙ステーション『グランド・ラビット・メガロ・ドック』の美しい姿を同時に見つめた。


メガロ・ドックの巨大なハッチが静かに開き、プラズマイオンエンジンを青く輝かせた『アルカディア号』が、280人の希望と笑顔を乗せて、赤く輝く火星へ向かって静かに滑り出していった。


「大石、古賀。我々が敷いてきたレールは、もはや地球の上だけではない」

篠原の静かな言葉に、二人が深く耳を傾ける。


「地球から宇宙へ、そして火星へ。人が生き、働き、家族と笑い合う場所がある限り、我々の『現場の情熱と安心』を届け続ける。それこそが、南越急行グループの果たすべき永遠の使命だ」


渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。


白銀の大沼の山々から成層圏を抜け、無数の星々が輝く宇宙の彼方へ。

人類の新しい歴史と未来を乗せて、南越急行ホールディングスの走らせる無限のレールは、どこまでも、どこまでも力強く、光り輝きながら伸ばされ続けていくのだった。

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