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第127章 地底のメガロポリスと新六日町

第127章 地底のメガロポリスと新六日町


冬。新形県南部の越後盆地を抱く大沼エリアは、世界中の投資家、技術者、そして観光客の熱視線を集める「地球の真の首都」へと変貌を遂げていた。


時価総額120兆円を突破し、連結純利益数十兆円を叩き出す超巨大コンツェルン「南越急行ホールディングス」。月面リニア、地底パイプライン、医療・介護ロボット、さらには軌道造船都市と火星移民船『アルカディア号』に至るまで、人類のフロンティアを切り開いてきたこの企業の総本社は、今なお越後湯澤と浦佐の間に位置する「六日町駅」に隣接して鎮座していた。


かつて静かな雪国の田舎町だった六日町は、南越急行の本社高層タワー群、南越重工業・南越車輌の研究開発拠点、最新鋭の金融メガバンク『南越フィナンシャル・グループ(NFG)』の本部、さらにはメガスーパー『カワサワ』やデパート『伊勢』のグローバル旗艦店が建ち並ぶ、近代的な高層都市へと劇的な変貌を遂げていた。


関越自動車道の六日町インターチェンジ(IC)は、全国からやってくる物流トラック隊や本産自動車の自動運転電気バス『ぶーぶーん・ポッド』で24時間ひっきりなしに混雑し、北陸道や首都圏を結ぶ陸の要衝として機能していた。


しかし——この完璧に見える世界都市「六日町」には、創業以来、たった一つだけ致命的な「弱点」が存在していた。


「新幹線の駅が無い」のである。


現在、東京から六日町へ向かう客は、越後湯沢駅で新幹線を降り、そこから南越急行の誇るAI特急『新・なんたか』や『NK3500系』に乗り換えるか、あるいは関越道を車で走るしかなかった。世界中の国家元首やNASA長官、ハリウッドの大物、そして日々やってくる数万人のビジネス客からすれば、この「一度乗り換える」という僅かなロスタイムが、唯一の不満となっていたのだ。


この間、この南越急行本社、六日町を訪問したNASA長官や、国連事務総長、総理大臣等も、「なぜ六日町に新幹線駅がないのか?」と言う疑問が出ていた。


「新幹線を、直接この六日町に停められないのか?」


JR北日本(旧JR東日本エリアをカバーする架空の分割会社)の首脳陣も、この喉から手が出るほどの需要を指をくわえて見ていたわけではなかった。南越急行の落とす莫大な経済波及効果を取り込むため、何度も「六日町新幹線駅」の新設を検討してきたのである。


だが、そこには絶望的な「地理的・構造的壁」が立ちはだかっていた。


上越新幹線の線路は、六日町市街地から西へ離れた山地の地下深くを、巨大なトンネル(大沼トンネル網)で一直線に貫いて通過していた。さらに、南越急行の幹線である『なんなん線』もまた、六日町周辺の山間部を長い地下トンネルで交差するように通り抜けていたのだ。


地上に駅を作ろうとすれば、山を削り、新幹線の高架を急カーブで市街地へ引き込むという数十兆円規模の不可能工事が必要となり、JR北日本単体では到底手の出せるプロジェクトではなかったのである。


六日町メガロポリスの本社タワー最上階にある最高経営責任者(CEO)室。


篠原賢人は、ガラス窓越しにしんしんと降りつもる大沼の雪景色を見つめながら、温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を一口含んでいた。


向かい側には、ポーカーフェイスの最高財務責任者(CFO)大石専務と、南越重工業社長の古賀副社長。そして、急遽呼び出されたJR北日本の代表取締役社長が緊張した面持ちで座っていた。


「篠原CEO……情けないお話ですが、我が社の技術と予算では、上越新幹線に『六日町駅』を作ることは不可能です」

JR北日本の社長が悔しそうに頭を下げた。

「山地を貫く新幹線の地下トンネルは海抜下数十メートル。上空の山腹に駅を掘るなど、土木工学の常識を超えています。ですが、このまま六日町へのアクセスを越後湯沢からの乗り換えだけに頼るのは、我が国にとっても損失です……!」


古賀副社長が豪快に腕を組み、ニヤリと笑った。

「社長さんよ、常識で考えようとするから行き詰まるんだ。『地上に引き込めない』なら、答えは一つだろ?」


「えっ……?」


古賀はホログラムモニターを叩き、六日町西部の山地地底の3D透視図を浮かび上がらせた。そこには、深さ数メートルから数十メートルの地底で、上越新幹線の巨大トンネルと、南越急行『なんなん線』の地下トンネルが、奇跡的に「立体交差」しているポイントが赤く点滅していた。


「新幹線のトンネルとなんなん線のトンネルが地下で交差する、まさにその場所(交差点)に、山ごと地底をくり抜いて巨大な『地底駅』と『地底都市』を丸ごと作っちまえばいいんだよ!」


「ち、地底都市だと!?」JR北日本の社長が目を見開いて叫んだ。


篠原賢人は静かに立ち上がり、ホログラムの赤く光る地底交差点を見つめた。


「古賀の言う通りだ。地上に駅を作る必要はない。雪国の六日町において、厳しい冬の雪や吹雪の影響を100%受けない『完全全天候型の地底新幹線メガステーション』を建設する。……地上の六日町駅とは超高速地下動力通路ナノ・スロープと、本産自動車のAI自動運転ポッド網でわずか2分で完全直結させる」


大石専務がメガネのブリッジを押し上げ、冷徹かつ完璧なシミュレーション画面を提示した。


「総事業費、一兆八千億円。工期は南越建設の全自動量子AIシールドマシン『サハラ・ラビット』20機を同時投入することで、わずか四十五日で完工させます。駅名は……『新六日町駅(Shin-Muikamachi Station)』です」


「四十五日……!? 一兆八千億円の地底巨大駅を、四十五日で!?」

JR北日本の社長は、開いた口が塞がらなくなっていた。


「引き受けよう、JR北日本」篠原が力強く言い放った。

「我が南越急行グループの総力を挙げ、山の中に地球上最も美しく堅牢な『地底都市駅』を創り出してみせる!」


プロジェクト・『グラン・サブ・六日町(新六日町駅創出)』が電撃的に発動した。


新幹線の営業運転を1秒たりとも止めず、同時に『なんなん線』の超過密ダイヤを維持したまま、山地の地底深くで巨大な駅空間を掘削・建設する——それは、人類の土木史上、最も難易度の高い「神業」であった。


ここで牙を剥いたのが、サハラ砂漠の地底導水管、地中海の熱帯パイプライン、そしてベネチアの『アクア・シールド』で不滅の伝説を打ち立ててきた南越建設の全自動AI施工部隊であった。


「サハラ・ラビット型・全自動大深度量子AIシールドマシン20機、六日町西部山地へ地底アプローチ開始!」


南越建設の井上社長の指揮のもと、六日町の山腹から地底深くへ向けて、最新鋭の無人掘削マシン群が侵入した。


シールドマシンの先端には、南越重工業が開発した超高硬度ナノダイヤモンドビットが装着され、岩盤を微振動で粉砕しながら瞬時に融融・固定。掘削と同時に、南越車輌のナノセラミック防爆・超耐圧壁を自動で壁面に張り巡らせていく。


工事の最大の難関は、時速240km以上で新幹線が駆け抜ける既存のトンネル壁面を切り開き、新幹線のホーム(2面4線)と、なんなん線のホーム(2面4線)、そしてその間に広がるコンコースを一体化させる作業であった。


新幹線が通過しない深夜1時から4時までのわずか3時間の間に、本産自動車の超小型AI計測ドローン数千機がミリ単位で岩盤の歪みをリアルタイム監視。

南越建設の無人AI重機『ラビット・クリアー』が、騒音も振動も一切出さずにトンネル壁面をミリ単位で精密切断し、超高張力エアジャケットで新幹線軌道を空中に浮かせたまま、下部に巨大な地底プラットホームを組み上げていったのである。


「新幹線側・下り線ホーム構造体、セット完了!」

「なんなん線側・上り線ホーム、完全ドッキング!」


サロナエアコンの多層空調システムが地底深くへ送り込まれ、山の中とは思えないほど爽やかで温かい「マイナスイオン空気」が満たされていく。


着工からわずか四十日。

六日町の山地地底100メートルに、ドーム球場三個分におよぶ大空間が削り出され、白銀の大理石と最新のホログラム照明で彩られた超巨大地底駅『新六日町駅』が、その雄姿を現したのである!


完成した『新新六日町駅』の全貌は、世界を驚愕させる「地底の未来都市メガロポリス」そのものであった。


地底深くの駅空間は、単なる乗り換えホームにとどまらなかった。


一、超快適「地底中央グランド・コンコース」

新幹線となんなん線のホームに挟まれた中央吹き抜けエリアには、高さ30メートルの大理石ドームがそびえ立ち、サロナエアコンの多層気流・温度管理技術により、1年中「22度・快適湿度50%」の春のような空間が保持される。天頂のホログラム天井には、リアルの大沼の空や、季節ごとの美しい四季の風景が8K画質で映し出された。


二、地底ショッピング&グルメ街『アンダー・六日町』

コンコースを取り囲むように、メガスーパー『カワサワ・新六日町店』、デパート『伊勢・新六日町店』、南越ビバレッジの直営カフェ、そして『佐渡武蔵・新六日町店』が出店。雪国の地上で吹雪が吹き荒れていても、地底ではダウンジャケットを脱ぎ、ドレスやスーツ姿で買い物や食事が楽しめる「完全全天候型ショッピングモール」が形成された。


三、地上六日町駅&関越道IC・超高速バイパス直結網

地底の新六日町駅から、地上にある従来の「六日町駅(南越急行本社タワー)」、および関越自動車道の「六日町IC」へ向けて、南越建設が掘削した専用超高速地下動力通路ナノ・スロープが開通。

本産自動車が開発した真空磁気浮上式リニア・ポッド『ぶーぶーん・シャトル』が秒速30メートル(時速108km)でピストン運行し、地底の新六日町駅から地上の六日町本社タワーまで、乗り換え時間を含めて「わずか90秒」で完結する超高速直結ネットワークが完成したのである!


さらに、関越道六日町ICから直接地下駐車場へアクセスできる「六日町ドライブイン・地下ターミナル」も新設され、車でやってきた客も雪の影響を一切受けずに新幹線や特急へスムーズに乗り換えられるようになった。


「すごい……! 山の中に、こんな明るくて温かい近未来都市が出来上がっているなんて!」

試運転の列車で訪れたJR北日本の幹部や自治体関係者は、地底に広がる光と賑わいの空間を見上げて、言葉を失って感涙した。


冬。新六日町駅の開通式典の日がやってきた。


一番列車として、東京発の超最新鋭上越新幹線『E13系・新あすか』が、静かに新六日町駅の地下ホームへ滑り込んできた。

ほぼ同時に、反対側のホームには南越車輌の160km/hAI特急『新・なんたか』と『NK3500系』が滑らかな滑走で到着。


ドアが開くと、東京からのビジネス客、世界各国の要人、そして地元の住民たちが一斉にコンコースへ降り立った。


新形テレビ20のベテラン報道記者・高橋とカメラマン・井上も、一番列車の最前線から全世界へ生中継を行っていた。井上の担ぐ最新鋭8Kカメラの側面には、あの破産寸前のローカル局時代から変わらない「古びたガムテープ」の切れ端が、誇り高く貼られている。


「こちら新形テレビ20です!」

高橋記者が感涙に声を震わせながらマイクを握る。

「長年、世界企業・南越急行の足元で悲願とされていた『新幹線直結』が、いま完璧な形で達成されました! ここは六日町の西部の山地地底100メートルに創り出された『新六日町駅』です!外は大吹雪ですが、地底のこのコンコースは春のように温かく、人々の歓声と笑顔であふれかえっています!」


テープカットの壇上に立った篠原賢人CEOが、マイクに向かって静かに宣言した。


「本日、新六日町駅が開業いたします。これにより、東京から六日町本社までの所要時間は、従来の乗り換え含め75分から、わずか48分へと大幅に短縮されました。……この駅は、単なる通過点ではありません。雪国に暮らす人々の足を守り、世界と南越急行をダイレクトに繋ぐ『未来への地下玄関口』です」


万雷の拍手と、新幹線の長笛が地底の大空間に響き渡った。


式典に参加した地元の高齢者や子供たちが、温かいコンコースでソフトクリームを食べながら、直結ポッドに乗って地上の六日町本社やカワサワへスイスイと出かけていく。


「吹雪の日でも、コートを着ずに東京や六日町へ買い物に行けるなんて、夢みたいだねぇ!」

地元のお年寄りが、涙を拭いながら大石専務の手を握りしめた。


開業式典の後、新六日町駅の中央コンコースを見下ろすVIPテラスに、篠原賢人、古賀副社長、大石専務の三人が佇んでいた。


大石専務がタブレットの財務データを指で弾き、ポーカーフェイスのまま数字を提示した。


「……篠原CEO。新六日町駅の開業効果により、上越新幹線の乗車率は前年比で210%へ跳ね上がりました。JR北日本からの駅施設使用料および相互乗り入れ手数料、ならびに地底モール『アンダー・六日町』のテナント収益により、投資額一兆八千億円の回収率はわずか三年で完了する見込みです」


大石はポーカーフェイスの口元をわずかに緩めた。

「さらに、六日町本社へのアクセスが48分となったことで、南越急行と取引のある海外企業の本社機能誘致案件が新たに四十件決定。六日町メガロポリスの地価と経済効果は、過去最高を更新し続けております」


「ガハハハ!」

古賀副社長が豪快に大石の背中を叩いた。

「見たか大石!『新幹線が無いなら地底に作ればいい』ってのは大正解だったろ! これでうちの本社も、名実ともに世界一行きやすい最高の本社になったぞ!」


「はい。今回は文句のつけようがない完全なインフラ補完オペレーションです」


篠原賢人は温かいジャスミン茶(南越ビバレッジ特選一級品)を一口含み、地底コンコースを行き交う大勢の人々の笑顔と、直結通路へと滑り出していくポッドの光を見つめた。


地下ホームでは、東京行きの最新鋭新幹線と、六日町市内・大沼各地・日本海へ向かう南越急行のAI電車が、同時に美しい長笛を響かせて出発していく。


「大石、古賀。我々が掘り進めてきたのは、ただの岩盤ではない」

篠原の静かな言葉に、二人が深く耳を傾ける。


「雪国の厳しい自然に立ち向かい、人と人、街と世界を完璧に繋ぐための『希望のルート』だ。どんな壁が立ちはだかろうと、アイデアと技術があれば、不可能なインフラなど存在しない」


渡辺前社長が遺した不滅の言葉——「会社は人より長く生き続けるべきもの。稼いだ金は未来を信じる魂だ」。


白銀の大沼の地底深く、誇り高き新六日町駅のコンコースに長笛が響き渡る。

世界のビジネスと地元の温かい暮らしを足元から完璧に支えながら、南越急行ホールディングスの走らせる無限のレールは、地上を、地底を、そして世界の未来を乗せて、どこまでも、どこまでも力強く伸び続けていくのだった。

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