第111章 熱帯雨林の守護者(アマゾン再生プロジェクト)
秋、南米アマゾン流域から届いた衛星データは、世界中の気候学者や環境保護団体を震撼させていた。
「アマゾン熱帯雨林の乾燥化・砂漠化率が、ついに不可逆的限界点である25%を突破しました! このままでは数年以内に熱帯雨林全体がサバナ化し、大気中に数千億トン規模の二酸化炭素が放出されます!」
ブラジル・マナウスの国立アマゾン研究所(INPA)から発信された悲鳴は、すぐさま国連本部と世界主要国の首脳のもとへ打電された。
原因は複合的かつ最悪のシナリオをたどっていた。
地球規模の気候変動に伴う降水量の激減に加え、国際的な違法伐採シンジケートと悪質な大規模農園ブローカーによる密伐・放火が苛烈を極めていたのだ。
彼らは重装甲の違法大型建機を持ち込み、監視の目を盗んで森林を伐採。さらに乾燥した樹木に火を放ち、広大な原生林を一瞬で灰燼に帰せしめていた。
「現地政府の取締部隊や環境保護官では、重武装した違法伐採シンジケートに対抗できない! 彼らは衛星通信を妨害し、軍のヘリすら地対空ミサイルで威嚇して広域の森林を焼き払い続けているんだ!」
現地調査にあたっていた国連環境計画(UNEP)の調査隊長が、燃え盛る大樹の映像を前に絶望の声を上げた。
大火災によって生じた巨大な暗雲は南米大陸を覆い、地球全体の酸素供給網が目に見えて衰退を始めていた。
ニューヨークの国連本部で開かれた緊急安全保障理事会において、国連事務総長は壇上のマイクを深く握り締め、世界中のモニターへ向かって宣言した。
「もはや国家単位の警察権や従来の環境保護基金では、アマゾンの破壊を止めることは不可能です。我々には、サハラ砂漠で大気中CO2回収プラントを完工させ、地中海の渇きを一瞬で救済した『絶対的インフラの覇者』の力を借りるほか道はありません」
結集の要請は、直ちに日本の六日町へ飛ばされた。
新潟県南魚沼市、南越急行ホールディングス本社CEO室。
「アマゾン熱帯雨林の再生および違法伐採シンジケートの完全根絶……。スケールとしては、地球の生態系そのものを守る防衛戦と言えますね」
CFOの大石専務が、アマゾン全域の衛星赤外線画像と違法武装勢力の拠点を立体ホログラムで映し出した。
「見積もり事業費は初期投下だけで四兆八千億円。広大な樹木の全自動再植林、土壌保水網の構築、そして広大なジャングル全域を網羅する24時間リアルタイム監視システムの構築が含まれます」
大石は冷徹な手つきでタブレットを操作し、さらに続けた。
「ただし、今回の敵は自然環境だけではありません。銃器や装甲車で武装した国際密伐シンジケートが存在します。従来の土木施工だけでは、現場の作業員や機材が襲撃を受ける危険性があります」
「ハッ! 密伐バカどもが重装甲だと? 笑わせるな!」
南越重工業社長の古賀副社長が、身を乗り出して豪快に言い放った。
「俺たちの南越建設と南越重工には、ウクライナの地雷原を一掃した無人防爆AI建機『ラビット・クリアー』や、サハラ砂漠を切り開いた全自動施工部隊があるんだぞ! 違法伐採の泥棒どもに遅れをとるような柔な技術は一つもない!」
篠原賢人CEOは静かに立ち上がり、ホログラムの中に浮かび上がる緑の失われたアマゾン流域を見つめた。
「大石、古賀の言う通りだ。だが、我々の目的は破壊や戦闘ではない。アマゾンの原生林を蘇らせ、二度と密伐を許さない『不滅の森林エコシステム』を創り上げることだ」
篠原の瞳に、鋭い決意の光が宿る。
「南越アグリの植物バイオ技術、南越重工業の超多層ドローン技術、サロナエアコンの多層ナノ吸着技術、新形ビバレッジの保水技術、そして新形テレビ20と宇宙ステーション『グランド・ラビット』の量子衛星監視網を結集する。プロジェクト・アマゾン・ラビット、発動だ!」
決断からわずか72時間後。
南越海運の大型Ro-Ro船および超大型貨物輸送機『ラビット・カーゴ』のフリートが、ブラジル・マナウス港および臨海臨時拠点へ続々と到着した。
アマゾン再生作戦の第一陣として投入されたのは、南越重工業・南越アグリ・本産自動車が共同開発した完全自動植林・保水ドローン隊『フォレスト・スカイフリート』数千機であった。
「ドローン群、全機一斉発進!」
南越重工の現地指揮官の合図とともに、特大型のVTOL(垂直離着陸)型ドローン群が一斉に大空へ飛び立った。その光景は、あたかも緑の未来を運ぶ巨大な渡り鳥の群れのようであった。
ドローン隊が向かったのは、火災と伐採によって土壌が剥き出しになり、砂漠化が進行していたアマゾン南部の広大な焦土であった。
『フォレスト・スカイフリート』は、上空からレーザーで土壌成分と傾斜をミリ単位でスキャニング。直後、機体下部から特殊な「ナノバイオゲルシードカプセル」をピンポイントで打ち込んでいった。
このカプセルには、南越アグリと新形ビバレッジが共同開発した超高保水性ナノゲルと、発芽率99.9%を誇るアマゾン固有種の超高速育成種子、そして自社開発の有機栄養素が凝縮されていた。
「降雨を待つ必要はない! ナノゲルが大気中のわずかな湿度を吸収・保持し、種子を一瞬で根付かせる!」
打ち込まれたカプセルは、わずか数日で地中深くへ根を伸ばし、焦土の上に鮮やかな緑の芽を一斉に吹き出させた。
一日に数万ヘクタールという異次元のスピードで進む緑化作業に、現地INPAの植物学者たちは目を丸くして感涙した。
「信じられない……! 焼き払われて不毛の砂漠と化していた大地が、わずか一週間で緑の絨毯で覆われていく! これは奇跡だ!」
だが、緑化が進む一方で、アマゾン奥地に潜む違法伐採シンジケートは激怒していた。
自分たちの利権を脅かす南越急行の動きを阻止すべく、彼らは暗闇に乗じて重装甲トラックとチェーンソー部隊を繰り出し、植林エリアへの放火と機材の破壊を企てた。
「ガハハ! 日本の鉄道会社が何をしに来たか知らんが、このジャングルは俺たちの金づるだ! ドローンも植林地もすべて焼き払え!」
武装集団の首領が、自動小銃を夜空へ乱射しながら叫んだ。
しかし、彼らは知らなかった。自分たちの頭上、はるか高度四百キロメートルの宇宙空間から、冷徹な「眼」がすべてを見下ろしていることを。
宇宙ステーション『グランド・ラビット』に永久設置された「新形テレビ20・宇宙支局」。
そこから放たれた高解像度量子レーダーと超高感度赤外線カメラが、ジャングルの深林を透過し、密伐勢力の位置、車両数、燃料庫の場所までを完全に捕捉していたのだ。
「宇宙支局より地上へ! 違法伐採部隊、地点ブラボー41へ接近中。赤外線反応、車両22台、武装兵約100名!」
宇宙サテライトスタジオから、若手特派員の小林記者の声が届く。
マナウスの現地取材拠点では、新形テレビ20のベテラン報道記者・高橋とカメラマンの井上が、最新の耐衝撃8Kカメラを構えていた。
カメラのノッチ部分には、あの日以来変わらない「古びたガムテープ」の切れ端が、誇り高く貼られている。
「井上! 宇宙からの位置データと連動して、世界同時生中継を開始するぞ! 暗闇に隠れて地球の財産を掠め取る悪党どものツラを、全世界の白日のもとに晒してやるんだ!」
「了解です、高橋さん! 8K超高精細レンズで、奴らの人相から車のナンバーまでバッチリ捉えてます!」
新形テレビ20の独立独歩の報道番組は、全世界へ向けてリアルタイムで緊急生放送された。
画面には、宇宙ステーションからのサーモグラフィー映像と、ドローンから捉えたリアルな映像が合成されて映し出された。暗闇の中で樹木にガソリンを撒き、火をつけようとする密伐勢力の姿が、歪みのない超鮮明な映像として世界百九十カ国のテレビやスマホに一瞬で拡散されたのである。
「見よ! これがアマゾンを焼き払い、我々の空気を奪っていた密伐シンジケートの実態です!」
高橋記者の情熱に満ちた告発が、世界中の世論を沸騰させた。
不法行為を全世界に晒された違法伐採シンジケートは逆上し、南越急行の無人植林拠点へ向けて重装甲車を発進させた。
「ええい、放送を止めろ! あのドローンと建機を粉砕しろ!」
だが、彼らの前に立ちふさがったのは、人間ではなく、無機質な重音を響かせて前進する南越建設と南越重工業の無人AI防爆建機『ラビット・クリアー2号』および『サハラ・ラビット』群であった。
ナノセラミック装甲で固められた超巨大建機群は、密伐勢力が放った小銃弾やロケット砲をことごとく跳ね返した。
さらに、本産自動車と梅内・後田製作所が開発した「指向性音響抑止波」と「粘着性捕獲ゲル」が一斉に放射された。
バシュウウウウウ!
強力な特殊ゲルに包まれた違法装甲車や重機は、駆動部を完全に固められ、一歩も動けなくなった。怪我人を一人も出すことなく、武装集団は数分で全員身動きが取れなくなり、完全無力化されたのである。
直後、新形テレビ20の生中継を見たブラジル連邦警察および国連緊急治安部隊のヘリ部隊が上空から突入。世界的な批判に背中を押された軍と警察により、違法伐採シンジケートの幹部および黒幕の国際ブローカーたちは一網打尽に逮捕された。
「信じられない……。何年間も手を出せなかったジャングルの密伐組織が、わずか一晩で、しかも怪我人すら出さずに完全解体された……!」
現地警察の長官は、南越急行の完璧な情報網と無人AI施工技術の前に、震える手で敬礼を送った。
作戦開始からわずか二ヶ月。
密伐組織が一掃され、数百万ヘクタールにおよぶ焦土に『フォレスト・スカイフリート』が緑の種を撒き終えたアマゾンは、劇的な再生を遂げていた。
大気中のCO2吸収率は平年の状態へ回復し、乾燥化に伴う砂漠化の進行は完全にストップ。アマゾンの熱帯雨林は、再び「地球の青い肺」として力強い息吹きを取り戻したのである。
マナウスの港を見下ろす丘の上で、国連事務総長から南越急行へ地球環境保全の最高栄誉賞が授与された。
式典の後、夕暮れに染まるアマゾン川を背景に、篠原CEO、古賀副社長、大石専務の三人が佇んでいた。
大石がタブレットの財務データを操作しながら、静かに口を開く。
「……今回の『アマゾン再生プロジェクト』、初期投資額四兆八千億円に対し、国連ソブリン環境債からの償還、および再生された森林から生成される大規模カーボンクレジット(CO2排出権)の国際取引により、三年後の年間純利益は一兆二千億円に達します。完全に自立した高収益ビジネスとして成立しました」
「ガハハハ! 大石、お前の計算は相変わらず隙がないな!」
古賀が広大なジャングルを眺めながら、満足そうに鼻を鳴らす。
「だがな、一番の儲けはこの緑だ。地球の空気がうまいってのは、どんな札束よりも価値がある」
「ああ、その通りだ」
篠原が微笑み、ポケットから南越ビバレッジ特選一級品のボトルを取り出して一口含んだ。
「我々は鉄道会社として始まり、金融、製造、建設、エネルギー、そして宇宙へと領域を広げてきた。だが、そのすべては『人々が生きるこの地球という大動脈』が健全であってこそだ」
遠くマナウスの夕空を、植林作業を終えた『フォレスト・スカイフリート』の光の列が、まるで夜空を翔ける銀河鉄道のように、美しく六日町の方向へ向かって飛んでいく。
弱小の赤字第三セクター鉄道から始まった男たちのレールは、地球の傷を癒やし、生命の未来を守り抜きながら、どこまでも高く、どこまでも遠く、永遠の光を放って伸び続けていくのだった。




