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第2-4話:約束のために

「大和さん、どうしたの? そんなに気を落として」


 しばらくその場に突っ伏していた私の後ろから、誰かの声を耳にする。

 幼気のある男の声。その声の主の顔が頭の中に浮かぶも、顔を上げる気にはなれない。


 私の前……香蓮がさっきまで座っていた席の椅子が音を立てながら引かれ、そこに誰かがぼふんと音を立てながら腰掛ける。

 淡い期待と一緒に薄めを開けながら顔を上げるも、視界に映るのは栗色の毛。

 

 そんなわけないか。

 ため息の一つすらつく気が起きないまま、私はそのまま顔を腕の中に埋めた。

 

「……鈴原さんは?」


「…………トイレ行った」


「………………何かあった?」


「……………………別に何もない」


 そうやって言葉を重ねるにつれ、どんどんラリーの間隔が長くなっていく。

 厳密にはルイがラケットでボールを打っても、私がそれを地面へ叩き落とす。

 次に繋がらず、ラリーにすらなっていない。


 無駄に流れる時間。このままルイを置いて、直接探しに行こうか。

 そんな考えが頭を過ったときだった。


「リリリリリリ……リリリリリリ……」


 私のスマホから、高いオルゴールの音が鳴り響く。

 この音は、香蓮の連絡先に設定しているコール音。水を与えられた魚のように、飛び起きながらスマホを手に取る。


「も、もしもし香蓮? さっきはごめ――」


『はい、めぐちゃん! それはまた今度聞きます!』


 私の言葉を遮りながら話す香蓮の声に、苛つきや怒気は感じられない。

 どちらかと言えば何か吹っ切れたものを感じるっていうか……。


『もうルイくんも戻ってきてるでしょ? まずは電話をスピーカーモードにしてください!』


「ルイくん? なんで?」


 目の前で「え、僕?」なんて言いながら自分の胸元に指を向けるルイ。

 私が理由を聞き返しても、香蓮は答えようとしない。仕方無しに、通話のスピーカーモードをオンにする。


『あーあー、聞こえる? いきなりだけど、私いま駅に居るんだけど』


「「駅!?」」


 私とルイの声がハモる。思った通りの反応が出たのか、それを聞いてクスクスと笑う香蓮。

 私からしたら冗談になってないんだけど。


『で、あと一分で電車来るんだよね。私先帰ってるから、ルイくんあとめぐちゃんのことよろしくー』


「ちょ、香蓮待って!」


『待たないよ。だってめぐちゃん私が居たらルイくんと話そうとしないでしょ? さっきはめっちゃ避けてたし。じゃ、そういうことだから二人ともまた今度』


「かれ――」


 ツー、ツー。

 無慈悲に切られる電話。

 連絡先から香蓮へ掛け直しても、DMで通話を掛けても一コール以内に切られる。

 位置情報アプリの香蓮の位置も、電車の線に沿って勢いよく香蓮のアパート最寄り駅へ向かっている。


 ……これ、ほんとに私やったかも。

 どうするの、これ。

 

 今から追いかける? 香蓮の家に直接謝りに行く? そもそも許して貰える?

 っていうかどの面下げて香蓮と顔合わせたら……。考えがぐちゃぐちゃになってまとまらない。

 

 そればっかりか誰かの声が耳に入ってきているのに、ノイズが掛かっているみたいにその声がルイの声なのか他人の話し声なのかも分からなくなる。

 けれどそのノイズの中でも、私の目の前に居る相手が椅子を引いて立ち上がったことだけは辛うじて聞き取れた。


 まあ帰るよね、そりゃ。唯一の話し相手が自分のこと無視したらさ。

 

 なら、今から香蓮の家に行って謝るしか――。


 

「……は?」


 どうにかして香蓮に許しを乞おうと、顔を上げたときだった。

 斜め向かいの席にあった、本来そこにあっちゃいけないものに思わず目を疑う。


「なんでルイのリュックが……!?」

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