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第2-3話:約束のために

「……あのさー、香蓮」


 フードコードの四人掛けテーブル。

 ルイくんがお手洗いか何かで離席中。ラーメンの汁に浮かんだ油を箸で繋げながら香蓮へ問う。


「今日のショッピングさ、本当にルイくん必要だったのかな」


「えー、なんで? 私はちょっと新鮮で楽しかったよ?」


 む。私と買い物行くのは新鮮じゃないみたいな言い方。


「……なんかそうやって言われるとちょっと腹立つ」


「じゃあめぐちゃんも、まずはそのお行儀悪い遊びやめようか」


 ……その遊びって、このラーメンの油を繋げる遊びのことか。

 もうちょっとでフルチェインからの全消し達成だったのに。

 やるせない思いを仕舞い込みながらラーメンの器の上に箸を置きつつ、話を元に戻す。


「確かにだよ? そろそろ香蓮と一緒に買い物行きたいねって話はした。けどそれは香蓮と二人きりって話で――」


「めぐちゃんが言いたいのはそんなことじゃないでしょ?」


「ッ……香蓮ってほんと、なんでもお見通しだよね」


 昨日もそうだったけど、香蓮には何でも見透かされていてやりにくいことこの上ない。

 もう十年以上数える長い付き合いだし、私のことちゃんと見てくれてるってことでもあるんだけどさ。


「ホントのこと言うけどさ、ルイくんが何考えてるか分かんないのが嫌なんだよね。さっきQU行ってた時でも、事あるごとに話しかけてきたりあれこれ聞いてきたり……」


「何考えてるのか分かんないって、ルイくんはめぐちゃんと仲良くなりたいんじゃないのかな」


「仲良くなりたいって、そんなわけ」


 だってルイは異能者で、異能者はどいつもこいつも腹黒くて。何か裏があるに決まってる。

 けど香蓮を巻き込まないために、ルイが異能者だってことを言うわけには――。


「……ルイくんが異能者だからって疑って掛かってるの?」


「そうそう、けどそれを香蓮に言うわけにもいかなくて――」


 ――いま香蓮なんて言った?

 香蓮の言葉に自分の耳を疑う間もなく、両手を机に突き立てる。


「なんでそれ知ってんの!?」


 ラーメンの器がガシャンと音を立てて揺れ、漏れ出た私の声がフードコートの一角へ響き渡る。

 集まる視線。そのまま香蓮を問い詰めたい気持ちを抑えながら椅子へ腰掛け直した。


 さすがにこれには今日一驚いたと同時に、一人であれこれ考えてたのがバカに思えてきた。


「……どこで聞いたの」


「ルイくんの口からだけど」


 ごめん、さっきの撤回。まさかこんな短時間で二回もひっくり返されるなんて思うわけ無いじゃん。


「だってさ、異能者だよ? ニュース点ければ異能者が事件を起こしてーなんてことばっかやってるんだよ? なのに自分から言うなんてそんな」


 意味の分からなさから、少し呼吸が早くなる。

 テーブルの下から私の貧乏ゆすりが早鐘を打つ。


「めぐちゃん」


 スニーカーとタイルが奏でるリズムが、香蓮が私の名前を読んだ一言でピタリと止まる。

 香蓮の落ち着いた瞳が私の身体を強張らせる。


「私たちはさ、確かに小学生の時に異能者の人たちにひどい目に遭わされた。失って戻って来てないものも、いっぱい……」


「……なら余計に」


「でも」


 香蓮の真っ直ぐな声に、きゅっと喉が締まる。


「異能者の人がみんな悪い人じゃないってのは、ルイくんを見てて分かった。約束するよ、めぐちゃん。ルイくんは悪い子じゃないって」


 彼女はいつになく真っ直ぐ私のことを見つめて、崩れそうな目の端を力を込めながら抑えて。

 何かを必死に訴えようとしていた。



 でも。私はそれに首を縦に振ることは、できない。


「無理だよ。それは」


 遠くのバーガーショップに出来てる行列を眺めながらその理由を……いや、もはや理由にすらなっていないポリシーのようなものをつらつらと口にする。


「異能者は危ない。人畜無害そうでも、何を隠してるか分からない。だから香蓮から異能者を遠ざけるために戦うし、それはルイくんだって……」


 怒ってるだろうな。

 そんなとって付けたような予想をしながら香蓮の方へ目線を戻すと――。


「か、香蓮?」


 確かに、予想通り怒ってた。

 眉間に力が入ってて、言いたいことが漏れ出ないように口が強く噤まれている。

 

 そこまではいいんだけど、なんかその怒り方が呆れや見損ないじゃなくて「イライラ」した怒り方っていうか。

 あと香蓮の右頬がフグみたいに膨らんで……。


「もういいっ!」


 香蓮はそこに溜まった空気を吐き出すと、自分の椅子に掛けていた鞄とエニクロの袋を手に取った。


「ちょ、香蓮!?」


 私に背を向けながらも、その場に立ち止まる香蓮。

 けれどその足取りにはこちらに振り返る気配がない。


「めぐちゃんがそうやって意固地になるんだったら、私にだって考えがあります」


「そうやって言うならこっち向いて――」


「お手洗い行ってくるからめぐちゃんはそこで待っててください」


 香蓮は吐き捨てるようにそう言うと、ぎこちない大股な歩き方で私のもとから去っていった。

 私がこうやって考え方を曲げなかった結果香蓮を怒らせたことはあるけど……今回みたいなパターンは初めてで。


「ど、どうしよう……」


 帰って来たあと、次の一言目を間違えたら本当に絶縁されるかもしれない。

 そうなったら私は、私は……。


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