第2-2話:約束のために
映画を観るのをやめ、怠惰に時間を潰したあとの午後三時。
本来なら親友鈴原香蓮との約束を果たすために、私は素性不明の異能者・本田ルイの元へ緊張の面持ちで訪れていた……はずだった。
それがいったいどういうこと?
「えー? こっちのが可愛くない?」
「うーん、どっちも良いと思うけど……鈴原の髪色ならこっちの暗めなブラウスの方が合うんじゃないか?」
「え、確かに。ルイくん天才?」
「でしょ、よく言われるよ」
その親友と異能者は、今私の眼の前でキャッキャ言いながらショッピングモールのエニクロで服を選んでいる。
緊張の欠片もない信じがたい光景。
異能者が香蓮を連れて私に会いに来ていて、香蓮もそれに乗り気と来た。
しかも今日香蓮が来るなんて聞いてなかったから、きちんとしたお出かけ用の服で来ることも出来ていない。
二人が高校のブレザーに身を包んでいるだけに、白を基調としたストリートチックな格好の私は幾分か浮いている。
「ちょっと二人とも!」
二人の話を切るように、香蓮たちの後ろで仁王立ちしながら問い掛ける。
ルイは着崩したブレザーの端をたなびかせ、頭に疑問符を浮かべながらこちらへ振り返った。
「あ、さすがにエニクロ二周目は不味かったか? 大和さんが不満ならQUの方にでも」
「いやそうじゃなくって」
もう……なんかテンポ感を持っていかれるっていうか。
前々から聞いていた「学年きってのボンボン」って情報、更に直接対面して初めて知った異能者っていう情報のどれとも噛み合わない庶民的かつ俗な所作。
緊張しない状態で異能者と話すなんて初めてなもんだから、逆に足元を掬われ続けている。
「あーもう、真っ直ぐ聞くけどさ。二人ってどういう関係なの?」
「え? どういう関係?」
頭の上に疑問符を浮かべ、問いになっていない問いを返すルイ。
ちょっと待って、あんたが答えずにいったい誰が答えるのよ。
けれどその横から「にまーっ」と何か含みを持たせた笑みを浮かべた香蓮が顔を出してくる。
「あれー? もしかしてめぐちゃん、嫉妬しちゃった?」
「し、嫉妬? 嫉妬なんて……するわけ……ない、でしょ」
いやいやそんな事を聞きたかったんじゃない、しどろもどろになる声に咳を一つしながら活を入れる。
「ふふ、ごめんねめぐちゃん。ちょっと誂いたくなっちゃって。ルイくんとは去年のクラスの時の友達ってだけだよ」
去年のクラスの友達、ねえ……。
別に私も香蓮の友達関係に口出しするつもりはない、けれど相手は異能者。
今までに見てきた異能者はどいつもこいつも腹の中にどす黒いものを抱え込んでいた。
昨日あっちの方から助けて来たのも、どんな企みがあったか分かったもんじゃない。
だから今回ばかりは話が違う。
腕を組んでルイのことを見下ろすと、彼は未だに「関係……関係……」なんて口ずさみながら何かを考え込んでいた。
彼へ送る視線をより一層強めたところでやっとそれに気が付き、上目遣いでこちらを見上げてくる。
澄んだ琥珀色の瞳に大きな目。
相変わらず肌は病気を疑うほど色白く、肌質も若々しさよりも幼さを象徴しているような印象を受ける。
何よりも、こっちがこんなに睨みをつけているのに睨み返してくる気配がない。
少なくとも今は、緊張や警戒を全く感じさせない瞳をしている。
……だめね、これじゃ埒が明かない。
けどいずれ化けの皮は剥がれる。そうに違いない。
しばらく観察を続けよう。
そうやってこの場は結論づけることにした。
「まあいいわ。あと香蓮、それちょうだい」
そうやって手のひらを香蓮の方へ向けると、眉を寄せる香蓮。
「それって……エニクロの袋?」
「うん、私が持つから」
理由も今更言うもんじゃない、私が持つべきだから持つ、それ以上の意味合いはない。
「だからさ、めぐちゃん。いつも言ってるけど――」
飽きるほど聞いたそのフレーズを口に仕掛けたところでルイへ目線を向ける香蓮。
しばらく黙り込んだのち、鼻で小さなため息をつきながらこちらにその袋を差し出してきた。
中には香蓮が買った夏物のワンピースや靴下が入っているだけで、そんなに重量は感じはしなかった。
「うん……ありがとね、めぐちゃん」
学校のリュックの背負い紐を握りながら何か言いたげな表情を浮かべる香蓮を横目に、エニクロの出口へと歩き出す。
そんな私たちのやりとりを、ルイはなぜだか怪訝そうな目で眺めていた。




