第2-3話:約束のために
映画を観るのをやめ、怠惰に時間を潰したあとの午後三時。
本来なら親友・鈴原香蓮との約束を果たすため、素性不明の異能者・本田ルイのもとを緊張の面持ちで訪れていた……はずだったのに。
「えー? こっちのブラウスの方が可愛くない?」
「どっちも良いと思うけど、鈴原さんならそっちの暗めな色のが合うんじゃないか?」
「え、確かに。ルイくん天才?」
「でしょ、よく言われるよ」
それがいったいどういうこと?
目の前に広がるのは、その親友と異能者がショッピングモールでキャッキャ言いながら服を選んでる光景。
しかも同じエニクロを二周目。
私の方も今日香蓮が来るなんて聞いてなかったから、きちんとしたお出かけ用の服で来ることも出来てない。
二人が高校のブレザーに身を包んでいるだけに、白を基調としたストリートチックな格好の私は幾分か浮いている。
「ちょっと二人とも!」
二人の話を切るように、香蓮たちの後ろで仁王立ちしながら問い掛ける。
ルイは着崩したブレザーの端をたなびかせ、頭に疑問符を浮かべながら振り返った。
「あ、さすがにエニクロ二周目は不味かったか? 大和さんが不満ならQUの方にでも」
「いやそうじゃなくってさ」
もう……なんかテンポ感を持っていかれるっていうか。
金持ちだって聞いて会ったら異能者で、じゃあ金持ちな異能者なのかって思ったら、やけに所作が庶民的かつ俗で。
緊張しない状態で異能者と話すなんて初めてなもんだから、逆に足元を掬われ続けている。
「あーもう! 真っ直ぐ聞くけどさ、二人ってどういう関係なの!?」
「え? どういう関係?」
頭の上に疑問符を浮かべ、問いになっていない問いを返すルイ。
ちょっと待って、あんたが答えずにいったい誰が答えるのよ——そうやって私の困惑する横から、にまーっと何か含みのある笑みを浮かべた香蓮が顔を出してくる。
「あれー? もしかしてめぐちゃん、嫉妬しちゃった?」
「し、嫉妬? 嫉妬なんて……するわけ……ない、でしょ」
いやいや、そんな事を聞きたかったんじゃないでしょ。
しどろもどろになる声に咳を一つしながら活を入れる。
「ふふ、ごめんねめぐちゃん。ちょっと誂いたくなっちゃって。ルイくんとは去年のクラスの時の友達ってだけだよ」
去年のクラスの友達、ねえ……。
別に私も香蓮の友達関係に口出しするつもりはないけれど、相手は異能者。
今までに見てきた異能者はどいつもこいつも腹の中にどす黒いものを抱え込んでいた。
昨日助太刀してきた理由も分からない、だから今回ばかりは話が違う。
腕を組んでルイのことを見下ろすと未だに「関係……関係……」なんて口ずさみながら何かを考え込んでいた。
私が睨みを利かせたところで彼もそれに気が付いたのか、上目遣いでこちらを見上げる。
大きな目に、砕いた琥珀を混ぜたガラス玉みたいな瞳。
相変わらず肌は病気を疑うほど色白く、肌質も若々しいって言うよりも幼いって言った方が的を射ている。
何よりもこっちがこんなに睨みを利かせているのに睨み返してくる気配がなくって、少なくとも今は緊張や警戒を全く感じさせない瞳をしている。
……だめね、これじゃ埒が明かない。
けどいずれ化けの皮は剥がれるに違いないから、しばらく観察を続けよう。
「まあいいわ。あと香蓮、それちょうだい」
そうやって手のひらを香蓮の方へ向けると、眉を寄せる香蓮。
「それって……エニクロの袋?」
「うん、私が持つから」
理由も今更言うもんじゃない。
私が持つべきだから持つ、それ以上の意味合いはない。
「だからさ、めぐちゃん。いつも言ってるけど——」
飽きるほど聞いた切り出し方。
けれど香蓮はハッとした表情を浮かべたあとルイの方へ振り返った。
しばらく黙り込む香蓮。
鼻で小さなため息をつくと、やっと私へその袋を差し出してきた。
中身は夏物のワンピースと靴下だけ、そんなに重さも感じない。
「うん……ありがとね、めぐちゃん」
リュックの背負い紐を握りながら何か言いたげな表情を浮かべる香蓮を横目に、エニクロの出口へと歩き出す。
そんな私たちのやりとりを、ルイはなぜだか怪訝そうな目で眺めていた。




