第19-5話:信じること
「げ、げ……ゲクラ……さ……!」
浅くなる呼吸、歪む視界。
なのに目線だけは舞った血しぶきをひと粒ずつ追っていて、それが洒落にならない量だってことを突きつけてきて。
そんな私を相手は待ってくれず、エドワードは深い溜息をつきながらその場から立ち上がった。
「——ッ!」
その時、私の視界を横切るように灰色の何かが動く。
動きは最初と比べると鈍くて、それでも鋭さそのものは保っていて。
回復しきった須藤が、エドワードへ斬撃と、最後に蹴りを食らわせた。
「大和、ゲクランさんの方へ行って!」
遠くを指し示しながら、私へそう指示を出してくる須藤。
けれどそれだとエドワードの相手を須藤一人ですることになって。
いくら須藤とは言っても一人じゃ——。
——自分でも分かるぐらいに崩れた表情をしているのに気がついたのか。
須藤が浅く振り返りながら、細々と私へ命令を伝えてきた。
「行け、大和。ゲクランの方へ。それとも俺がそんな軟な男だと思っているのか?」
「…………!」
須藤が…………過去の異能者を助けに行くよう言った。いったい、どんな風の吹き回しで。
でも、今はそんなところにまで意識が周りきらない。
その事実に目を見開きながらも、私の脚が口角を上げる暇も与えずゲクランの方へ走らせていた。
少しでも早く、一秒でも早く。
心臓が激しく鼓動し、現場に少しでも早く辿り着けるように、と血を送り出してきている。
そう思うだけで脚に熱が籠り、あがった水しぶきで上がった体温が下がっていく。
後ろ髪を引かれる思いで彼のもとへたどり着いた先に広がっていたのは————惨たらしいとしか言いようのない有様。
周囲に舞った血痕、金、銀、青で彩られた鎧は抉られ、顕になった胸元の胸毛には血が絡みついていた。
そして何よりも——みぞおちのあたりに浅く抉られた傷。
ほんの一拍も無いぐらい脚が止まり、喉から掠れるような音が鳴る。
「っ……!」
でも浅い、出血も致命的なほど多くない。まだ助かる。
町田さんやルイから習った応急手当、上に着てたシャツを脱ぎ、半袖姿になりながら患部へ必死にシャツを押し当てる。
なのに頭の中にあるのは、救命に関係無いことと自分の荒い息の音ばっかり。
なんで、私のためにこんなことを。なんで、あなたのことを信頼してなかった私を。
だからって自分が罰されるべきだとは思わないし、もう思えない。
でも今回ばかりは問答無用で私が罰されるべきことをしたのに、あなたはその私を守って、守られた自分が嫌になって……。
最初はどんどんと赤く染まっていたシャツ、けれど手当の甲斐あってかシャツが吸う血の量も少なくなってきた。
抉れた皮膚も異能の力でまるで縫い物のように機械的に修され、息も荒いけど続いている。
ゲクランも助かる。死にはしない。
けれどルイは? 須藤は? 被害がこれで終わるっていう保障は?
今も街へ広がる霊兵が、次々に無実の人たちへ剣を立てていて……甘えている時間は、私のポリシーを貫く時間はないんじゃないかって思えて。
「もう……あれを使うしか……!」
お助けください、リヴァさま。
恭順の意を示しながらそう唱えるだけで、リヴァが新しい力をくれる。
だとしてもその代償は? 私の身体はどうなるの?
いろんな考えがばらばらに頭に降ってきては思考を奪っていって、そんな時間すら無駄に思えて。
もう、何も考えずに屈するしか————そう思ったときだった。
誰かが、私の前で倒れていた彼が、傷を抑える私の手首を掴んだ。
「めぐみ……殿。吾輩は……貴殿の異能は詳しくは知らん……だが、使いたくないものは……使うでないぞ……」




