第17-5話:円卓の盾
「めぐみ殿ッ!」
ゲクランの制止を振り切り、須藤の元へ駆け寄る。
まだ須藤とエドワードとの距離もあるから大丈夫だ。
そう言い聞かせながら、左手で彼の襟首を掴み、身体を軸にルイの元へ須藤を投げ飛ばした。
「……さて」
左腕の痛み以外は万全って言ってもこの実力差、ここからどうするべきなのかな。
短い歩幅でこっちに詰め寄る「壁」。
それに合わせて後ずさるけれど、負傷した須藤があの傷をどれぐらいで治せるか。
以前のジャンとの戦いみたいに命を投げ出すつもりは一ミリもない。
けれど須藤の攻撃でも破れない殻、時間が経てば霊兵による虐殺が始まる。
どうする……どうする……!
そうやって、エドワードへ剣を向け続けていたときだった。
「…………!」
何かに気がついたように、エドワードがその足をピタッと止める。
本人ですら止まるつもりがなかったのか、その衝撃で外殻の欠片がパラパラと地面に落ちる。
構えるわけでもなく腕をだらんと垂らす姿を目の当たりにして、私の方も思考が止まりかけた。
「……女よ。二つ問う」
怒りや優越感の混ざった感情的な声じゃなく、一転して淡白な問い。
「一つ。その剣はどこで見つけた」
「剣……?」
剣……無鋒剣のこと?
見つけたも何も、これは私の異能の一つで。
どう答えようにも、その旨を短く答えることしかできない。
嘘は一つもついていないし、この話にこれ以上尾ひれをつけることもできなかった。
「なぜ貴様が……私が手にすることが叶わなかった……その剣を……」
息を荒げながら、押し殺すように独り言を口にするエドワード。
続けざまに、もう一つの問いを、私に投げかけてきた。
「……二つ。その刻印、望んで付けられたのか、それとも望まずに付けられたのか。場合によっては……貴様を真っ先に殺さねばならぬ」
彼が右腕の剣で指し示す先は、私の右前腕にある――ロムルスの刻印。
その補足に、思わず答えを口にしようとした喉が締まる。
……どっちにしても答えは二分の一だ、意図も分からないのに考えようもない。
「望まずに付けられた。無理やり契約させられただけ」
一か八か、で正直に述べる。
第一さっきから何の問いなのか分かんないし、どうせこのあと戦いが再開されるのも変わりな――。
「そうか…………最後の問いだ。少女よ、名をなんという」
「や、大和めぐみ」
二つ問うと言っておいて三つ目の問いが出てきたことは野暮だとしても、急に呼び方が変わった……?
というか急なことに頭が追いつかずに答えたけど、これで良かったの?
けれど。エドワードがその直後に口にしたことに、私は思わず耳を疑う。
後ろにいるルイたちが合わせるように大きく息を吸った。
「大和めぐみよ。私と組まないか」
「……は?」
エドワードと、組む。
一瞬、その一瞬だけは、止まりかけていた思考が本当に止まってしまったように思う。
「な、なんで私とあんたなんかが組まなきゃいけないのよ」
藪から棒に、意図も意味も全く分からなくて。
けれど好都合、こうやって話してる間にも須藤の回復が進む、今すぐ戦闘が再開するっていう一番の危機は乗り越えられるはず。
「理由なぞ、ゲームに勝つにはあの男を超える必要があるから以外にあるのか?」
「ゲームに、勝つ……?」
「そして過去へと戻り、私が数百年前に獲得するに至らなかった宝具と冠を今度こそ手にするのだ。そしてロムルス王に、ゲームそのものに勝利するには途方もない量の威信が必要となる。この街の異教徒どももこれからその踏み台となるのだ」
……なるほどね。
向こうにも色々事情があるって言っても、ゲームの完遂を目指してるってのならロムルスとなんら変わりない奴で、協力なんて以ての他だってことは分かった。
けれどエドワードは、そこから更に言葉を重ねる。
「貴殿が現代を望むとしても安心しろ、ロムルス王が死んだ後に私を斬れば良いし、その後ろの三人も含めこの場は見逃すとしよう。簡単だろう?」
「……私は、あんたみたいな奴とは組まない」
言葉を選ぼうとも思ったけれど、そうやって率直に意思を伝える以外の選択肢が思い浮かばず。
結局罵倒に近いような語彙を使って、エドワードの提案をきっぱりと拒んだ。
けれど、その分厚い外殻の下で「ハッ」と笑うエドワード。
そして何を思ったのか——両の腕でその頭を掴み、まるでフルフェイスのヘルメットを外すかのように頭を覆っていた外殻を外した。




