第17-4話:円卓の盾
————殺せ? いま、殺せって言った?
須藤の方も短く「お前に言われなくともやる」と返し、エドワードの首筋へと刃を立てようとする。
なんで、なんで? このまま失血させれば何も殺さなくても。
他の異能と同じように気を失えば解除されるのなら、霊兵の心配もしなくていいのに。
かと言って味方の足を引っ張るわけにもいかず。
姿勢を持ち直し、須藤へその右腕を振るおうとするエドワードへ、ゲクランが剣の切っ先からジェットの如く空気を吹き付ける。
そしてその重心の出鱈目さもあってか。
致命的なまでに身体のバランスを崩したエドワードの首筋へ。
須藤が、首の骨を断たないぐらいの角度で刃を差し込み、その血管を丸ごと掻き切った。
エドワードの首筋から扇のように舞う血しぶき。
——終わりだ。
最後の仕上げに、エドワードの身体を蹴り飛ばす須藤。
彼の身体は家屋へ強く打ち付けられ、濃ゆい土埃が舞う。
空へ刀を振るう須藤、刃へ付着していた血を落とすとこちらへ振り返ってきた。
「死亡確認を取りに行く。ついて来い、大和」
……戦いと、一人の人間の命が淡々として終わった。
この場の誰一人としてその行為に苦言を呈す人はいない。
私だけじゃなく、ルイさえも。
それは、エドワードが多くの人間をいたずらに殺すつもりだったってのもある。
でもそれ以上に殺しの慣れ不慣れに関わらず、この場にいる全員が少なくともその片棒を担いでいて。
たまたま、その決め手が須藤だったってことだけで。
多くの人の命と、エドワードの命。
それを天秤へと置いてしまった自分に、心底嫌気が差した。
「須藤殿、首の骨は断ち切ったか」
「…………」
ゲクラン掛けた声を、これでもかというほど清々しく無視する須藤。
戦いが終わって言っても、こんな早々に過去の異能者嫌いを再発させるのか。
さっきルイとの問答に答えていたのがまるで嘘みたいで。
「答えてくれ、これは重要なことだ」
「頸動脈を切断、静脈にも大きな裂傷を作った。生きているわけが——」
須藤がその続きを言い切ろうとしたところで。
エドワードが突っ込み安定していたはずの家屋の瓦礫が、また一つ轟音を立てながら崩れる。
その音に、全員の視線が釘付けになる。
まさか、そんなはずは。
今も須藤の足元には人間一人が死ぬには十分過ぎるほどの血溜まりが広がっていて。
その剣先が首の後ろ側から見えるほど、エドワードの首には深々と刀を刺されていて。
第一、立ち上がれたとしても失血でまともに歩けるわけがなくて。
なのにそいつは、エドワードは悠々と立ち上がり私たちのもとへと歩いてきた。
今度はその右腕だけじゃなく、顔や首元、胴回りにまでをもその殻で包んでいて。
甲冑を内側から押し広げたのか、銀色に光るパーツがその殻の表面にバラバラに繋ぎ止められていた。
——岩のような外見をした化け物。
到底人に与えてはならないような、そんな喩えを与えざるをえなかった。
「感謝するぞ、銀狐よ。この異能は自傷では意味がなくてなあ。さすがにさっきのは死ぬかと思ったが」
「なら、次は椎骨を叩き折るまで……」
刀を向け、至って冷静に構える須藤。
さっき見せたような圧倒的な踏み込みを行うことなく、ただその場での「待ち」の姿勢。
その須藤の立ち回りの変化が、首元を始め全身を覆う分厚い外殻が原因であることは予想するまでもなかった。
「…………ッ!」
エドワードが短い歩幅で十と少しほどこちらへ歩み寄った頃。
攻めあぐねていた須藤が、またもやその足元に土埃を舞わせ距離を詰める。
岩と刃、というより重い金属の打ち合い音がさっきの通り鳴り響くも、その音の大元はそうともいかず。
さっきまでは押していた須藤が、今度はエドワードに押しに押されていた。
身軽だった甲冑姿から一転、鈍重な両腕から放たれる重い一撃。
もはや自らの手で防御すらせず、上半身を覆う外殻に守りを全て任せて攻めに徹するエドワード。
「須藤!」
「来るなッ、大和!」
一歩を踏み出した音を聞き逃さず、私をそう制止する須藤。
そればかりか、エドワードすらその赤黒い兜の向こうから鋭い眼光を刺してきて、それに射止められるように足が地面へと吸い寄せられた。
狭い路地、手に余る敵、そりゃ確かに私は行くべきじゃないかもしれないけどさ。
その器の大きさをなんでルイに使ってやれないんだと、今関係のないはずの怒りが湧き出てくる。
「ぐっ……!」
そして、均衡が崩れた。
エドワードがわざと重心を崩して、その身体を回すように連撃を浴びせ——須藤の左腕が、さっきの私と同じように抉れる。
須藤は捨てられたペットボトルのように路面を転がり、その勢いのままに膝を突くも。
左腕の出血と、切れた息が彼を立たせない。
——もう、見ていられなかった。




