第15-4話:澱のようにつもりゆき
「ピェッ、ピェッ」
赤紫色をした何かを咥えた黒鷲が、空から舞い降りるとそれを嘴で渡してきた。
どこから持ってきたのか分からない、花が十房ほど付いている紫陽花の枝。
多分こうしろってことなんだろうなと思いながら花を千切って湯に浮かべると、なかなか風情のある紫陽花風呂が完成した。
「わざわざ持ってきてくれたの?」
最近撫でさせてくれるようになった嘴を撫でながらそう聞いてみるけれど、答えが返ってくるはずもなく。
黒鷲は、また振り返ると大空へと飛び立っていった。
ここ一ヶ月ぐらい一緒に過ごして分かったことではあるけれど、黒鷲には、特に私を害しようという気は無いみたいで。
ちょっとずつ慣れてきているのか触らせてくれるようになったばかりか、朝起きる時間になるとベランダから窓を嘴で叩きながら起こしてくれるようにもなった。
……曜日感覚が無いのか、土日にも叩き起こされるのが玉に瑕ではあるけど。
そんな感じで、ほんとにリヴァと関係のあるものなのか疑いたくなるぐらいには、あいつの意思が介在している気が全くしない。
不思議に思いながら紫陽花を愛でながらしばらく湯に浸かっていたけれど、さすがにのぼせてきた。
「……上がろ」
ずっと、考えていても仕方ない。
邪推の連鎖を断ち切り、赤く火照った身体を空気へ晒すとともに、立ち昇る湯気が私の身体をどんどん冷やしていく。
脱衣所に戻って肌着や下着を着たあとも、身体からは若干白いもやが上がっていた。
それに、肌もただシャワー浴びただけの時よりもしっとりしている気がする。
もしかしたら、美肌効果とかもあったのかもしれない。せっかくの温泉、ちゃんと保湿しないと。
いつも使う、大容量の安い保湿クリームをポーチから取り出したところで。
少し前に背伸びして買ったファンデやチークが、それに引きずられるようにしてポーチの外へ転がってきた。
……このあと、ルイと会うかな。
ふと、そんなことが頭に過ぎる。
いやいやいや。これから寝るんだし、化粧なんてしても二度手間になるだけ。
それに化粧が薄すぎて自分でも変わってる気がしないし。
けど。一応。念の為。
そうやって言い訳しながら、ポーチの中へ手が伸びて——。
「リリリ リリリ! リリリ——」
「っ!」
唐突に鳴り響くアラームに肩が跳ねる。
音源は私のスマホ、アプリじゃなくて電話のけたたましいアラーム音。
溜息をつきながらスマホを手に取ると。
コールの相手は、私が「鬼教官」とニックネームを設定した須藤からの電話。
「なによ……こんな時間に」
嫌いな相手とは言っても、私の護衛に時間を割いてくれてる人でもある。
電話の最中に間違って怒らせないように事前に大きなため息をしてから、五コール目ぐらいで緑の応答ボタンを押して耳元へスマホをあてがった。
「はい、もしもし」
「須藤武蔵だ。今時間はあるか?」
「お風呂上がりだから忙しい。手短にお願い」
「風呂上がりなら暇だろ」
「ッ……」
「女の子はお風呂上がりにやることいっぱいあるの、そんなのも知らないわけ?」と口から漏れそうになったけど。
そう言い返すと事の応酬で逆に電話が伸びかねない、ここはぐっと堪える。
「で、何の用なの?」
「そうだな、要件を簡潔に言う。ベルトラン・デュ・ゲクランを警戒しろ」
「はい?」
てっきり連絡事項か何かだと思っていたのに。
須藤の口からいきなり出てきた警告に、そんな一言がでてしまった。
「……一応、理由を聞いても」




