第14-4話:黒狼
いろんな要素ががっちりと嵌っていき、「まさかだけどこいつが護衛?」という答えが導き出されるも。
ルイが何気なく口にしていた「最高にかっこいい」という要素だけが全くもって当てはまらない。
参考にならないとか思いながらも結局それに左右されていたことを自嘲しながらも、仲良さそうに話すルイたちの方へと目を向け直す。
「いやー、けど時間までに見つかって良かった。鈴原さんも大和も、突き合わせちゃってごめんね。ゲクランさんスマホの使い方分かんないからさ」
「ガッハッハ! どうにも使う癖というのが出来なくてな……って、このお嬢さん方二人がルイのお友達なのか?」
私が言えたことではないけれど、こちらへ驚きを含ませた声をその兜の下から響かせる。
「えっ、そうだけど……ゲクランさん、何も聞いてないの?」
「いいや、聞くには聞いたが名前しか聞いてないもので。どうにも、未だにニッポンジンの名前の男女は聞き分けがつかんくてな」
ルイの方からこちらの方へと向き直ると、「では、改めて正式な名乗りをしなくてはな」と口にしながら、何歩か歩みを進めるゲクラン。
すると彼は大きく胸を張り、両の拳を腰に据え、仁王立ちして見せる。
「吾輩の名はベルトラン・デュ・ゲクラン! 遥か古の時代、西方より参ったフランス一の騎士なり! どうか宜しく頼む!」
ガラガラとした中年の声。
覇気はある。けれど、どこか道化じみた声色とドン・キホーテめいた大仰さが、ひどく胡散臭い。
そればかりか、短パンアロハシャツに甲冑頭とかいう何の脈略もない外見のせいで、名前だけの「騎士」という肩書すらも劣化してしまっている。
「よ、よろしくお願いしま……」
だけど護衛は護衛、ひとまず形だけでも礼を守ろうとしたところで。
ゲクランが、「いや待てよ」と前置きながら、顎に手を当て何かを考え始める。
「……聞くが、ルイよ。このお嬢さん方はお前のお友達なんだよな?」
「えっ、さっきも言ったじゃん」
「ふむ……お友達とか、そうか」
……なんなの、こいつ。
何か含みのある言葉を口にするばかりか、兜を被ったまま話し続けるせいでその表情から何も汲めないのが妙に腹立たしい。
「そちらの黒髪のお嬢さん、君がヤマトメグミか? すまない、ニッポンジンの名前は未だに区別がつかなくてな」
かと思えば、私のすぐ目の前まで再び歩いてきて私の名前を問いてくる。
あの加齢臭と混ざった汗臭さが、また鼻をつんざく。
「……」
「……警戒してるのかい」
「……」
「まあ。そ、そうだな。若い男女だ。本来、水入らずであるべきだ」
……なんなの、こいつ。
何か含みのある言葉を口にするばかりか、兜を被ったまま話し続けるせいでその表情から何も汲めないのが妙に腹立たしい。
さっきまでは陽気な雰囲気だったのに、急に言葉数が減って。
要領を得ないを得ない意味わかんないことばっか言って。
しかも私たち二人を目にした瞬間に豹変して。
何か企みがあるんじゃないか。
そんな予測を立てようにも、何を考えているのかすらさっぱり分からない。
「すまない、邪魔をしたな。私は市内にいる、何かあったらいつでも連絡をしてくれ」
ゲクランは辿々しい口調でそう告げると、ポケットから一枚の紙切れを取り出してこちらへ差し出した。
左手でゆっくりと手を差し出し、恐る恐る手に取る。
紙切れには、〇八〇から始まる携帯電話の番号とメールアドレスが記されていた。
「せっかくの休暇だ、吾輩のことはいないものと思って楽しんでくれ! では、機があればまた会おう!」
ゲクランはわざとらしく言葉の端を震わせながら、不器用に手足をバタつかるような走り方でその場から去っていった。
「なんか騒がしい人だったね」
今目の前で展開された一連のやりとりを、「騒がしい」の一言で纏める香蓮。
「なかなかいい人そうだろ」
そればかりか、ルイもちょっと自慢げにゲクランを「いい人」と呼んだ。
正直なところ私も「なんか変な人」ってところ以外は何も確かじゃない。
引っかかることがあって。含みのあることばっかり言っていて。
「…………うん。そうだね」
だから、言いたいことはたくさんあったのに。全部、自分の内へと引っ込めてしまった。




