第14-3話:黒狼
「そっちのベンチには居た?」
「いや、居なかった。大和の方は……その感じからして居なかったか」
さっきの砂浜から一転、今度は萩市の市街地東側にある小さな中心駅の前で。
ルイの組織が派遣したっていう一人の護衛を探し求めて、私とルイで血眼になりながらあたりを探し回っていた。
ルイ曰くその人は四十歳ぐらいの中年男。
その最後に「そして最高にかっこいい人」っていう、こと捜索においては何の役にも立たない情報を付け加えてくれた。
地下歩道、こもびれの下、ベンチ、時期的にかき氷の旗を提げるようになった茶屋に観光案内所。
どこを見てもそれらしい人影は見当たらず、もしかしたらあっちもどこか探し回っているのかもしれない、という可能性も浮上した。
「僕、さっきの喫茶店の方を見てくるよ。大和は駅の方をもう一回頼む」
「ええ」
またあのいけ好かない銀髪男のせいで私が無駄な労力を払わなくちゃいけないことに苛立ちを感じつつ、駅の方へと歩みを進める。
萩の駅は駅ビルがあるわけでも乗り換えがあるわけでもない小さな駅ではあったけど、駅近のマンションやそこそこ立派な駅舎、広いロータリーを備えた「地方の中心駅」らしい駅だった。
「クッソ、どこにいるのよ……」
過酷さを極めてきた暑さの前に息を切らしながらあたりを見回すも、それらしい人影は見当たらな——。
そう思いかけたところで、ある一つの場所に視線が釘付けになる。
足の自由が効かないから「私が荷物持ってるね」と言ってキャリーケースとボストンバッグを預かってくれていた香蓮が。
待ち合わせ場所の案内看板の前で、見知らぬ一人の男と話していた。
腕毛が生えっぱなしになっている野太い腕に、まだ時期的には若干早い気がするアロハシャツを着た短パン男。
地図の方を指さしながら、香蓮と何かを話している。
けれど、一番目を引くのはそこじゃない。
あまりにも身体の情報とはちぐはぐな、板金造りの西洋兜を頭に被っていた。
奇抜な格好、いやに堂々とした立ち振る舞い。
——異能者だ。
「そうですね、それで大丈夫だと思います」
「なるほど、そうであるか! ではこのバスに乗って西回りに行って——」
何かを話している二人の間へ、男を降れずとも勢いで突き放すように割り込む。
「あんた誰よ、私たちになんか用?」
「ああ、お嬢さんのお友だちか。ちょっと道の方を聞いていてな」
正面へ立ってみて初めて男の背丈が私より僅かに高いのが分かると同時に、その顔面はバケツのような兜で覆われている。
何か見せたくないものでもあるのか、そう聞いても兜を外そうともしない。
というか、この暑さのせいか若干汗臭い臭いが漂っている。
「だがもうこの街の旧市街地の方への行き方は分かった、失礼す——」
「誰って聞いてるのよ」
何かに理由を付けて去ろうとする男へ、再び名乗るよう求める。
ここで何も無くとも、この街に得体のしれない奴が紛れてるだけで安心できなくなる。
「むう……あまり名乗るなとは我が新しき主に言われてはいるんだがな。だが、名乗れと言われては仕方がない、吾輩の名は——」
その中年男が長々と名乗りの前振りを詠唱した直後。
後ろから、あの元気かつ幼気げのある声が響いてきた。
「あっ、ゲクランさん!」
半ば名乗りをルイが代わってしまうように見えたけれど、男はそれに構わず後ろを振り向く。
「おおっ! ルイじゃないか、大きくなったな!」
男はキャリーケースをその場に残したままルイの方へ近寄ると、恥ずかしげもなくルイのことを抱き上げようとした。
「ちょ、ちょっと! 僕はもう小さい子じゃないんだぞ!」
腕を振りほどきながら紅くなるルイ。
なのに、その表情だけはまんざらでもなさそうで、恥ずかしさを覆い隠すように口先だけ怒りの言葉を言った。
「えっ……けど、ってことは」




