第14-2話:黒狼
「え、なにそれ!?」
「ごめんな、二人には言うなって言われてて。『萩じゃ何かあってもすぐ助けに行けないから、護衛を二人は付ける』って約束で……」
「……私も今初めて聞いたかも」
せっかく軍だ異能だゲームだなんだっていう面倒事から距離をとって羽を伸ばせると思ってたのに。
香蓮も驚いているあたり、ほんとに秘密だったんだと思うけど……。
「でも最初に顔合わせしたら護衛は市内で待機して、あとは僕らだけで自由に行動して良いって話だ! だからそれまでの辛抱――」
ルイが弁明を言い切ろうとした直前。
一車線の道路を挟んだ向こう、細い小路からわざとらしいほど大きな、そしてどこかで聞き覚えの足音が響く。
「任務と言われて来てみれば……俺はお守りじゃないぞ」
その足音の主は刀を提げた銀髪の男、けどいつもの訓練の時のじゃなくて袴とナポレオンジャケットを合わせた任務の時の装いで。
私たちにとって憎たらしくて仕方のないあの須藤武蔵が、腕を組み塀に体重を預けながらこちらへ鋭い視線を向けていた。
っていうか前に見たときは真っ黒だった衣装の色が、今日は紺と灰色で色違い。
謎にお洒落してんじゃないわよ、と内心ツッコんだ。
「なんであんたがここにいるのよ!?」
だけど、謎のカラバリに構っている暇はない。
ここに居る理由なんて分かりきっているのに、反射的にそんなことを口走ってしまった。
「言わなくても分かるだろ。俺も来たくて来てるわけじゃない、いちいち説明させるな」
須藤はこの場においても刺々しい物言いを変える様子はない。
そうか、須藤が昨日から任務への復帰で訓練が出来ないってのはこういうことだったのか……。
ルイも護衛が須藤だってのは知らなかったみたいで、僅かに身構える姿は驚きを全く隠せていない。
あの時ほどではないけど、険悪な雰囲気が場に漂う。その中で香蓮だけが口元に手を添えながら目を輝かせ……。
って香蓮!? なにその表情!?
須藤を目の前にしても、異様は反応を浮かべる香蓮の方へ自然と目が向く。
耳を凝らすと「ふわあぁ~!」と浮ついた声が彼女の口から漏れ出ていた。
それにしてもこの表情、どこかで見たことがある気が——。
「……っ!」
そうだ、私が香蓮に引っ張られながら男性アイドルのグッズコーナーに連行された時に見た表情だ!
それを踏まえ、次は須藤の方へ目を向ける。
今までの憎さを全て捨て去って、なるべく無の心境で。
多分地毛の銀髪、キリッとした細い目、シャープにまとまった顎のライン——全部の要素をひっくるめると、いわゆる塩顔になるのか。
あっダメだ、多分これ香蓮の好みドンピシャだ。しかも相手はよりによって須藤武蔵。
前々から面食いなのは知ってたけど、まさかそれがこんな形で現れるなんて。
「か、香蓮! こいつが誰だか分かって——」
そう言いかけたところで、ルイとの約束が頭の中に思い浮かぶ。
|OH MY GOODNESS! まさか香蓮に事情を話せないことがこんなところで響いてくるなんて。
「ご、ごほん。 護衛は二人いるって聞いたけど、もう一人はどこなんだ」
自分の胸に手を当てながら、息も絶え絶えといった様子で須藤へと問うルイ。
そ、そうだ。香蓮の反応は一旦傍に置くとして、護衛はもう一人いるって話だったはず。
須藤がルイへと反発しないか心配になりながらも、彼の言葉へと耳を傾け——。
「知らん、置いてきた」
そしてその杞憂は全く別の、そしてより悪い形になって返ってきた。
「置いてきただって、嘘だろ!?」
町田さんへ連絡して兵藤曹長を呼びつけたい気持ちを抑えながらも、頭を抱えるルイみたいにまた一つこいつへの不満が噴出する。
さすがのルイも苛つきを抑えられなかったのか、舌打ち一つ打つとともにさっき来た駅の方へと駆け始めるルイ。
っていうのもこの旅行は一泊二日、行動出来るのも午後からだから時間が割と詰め詰め。
本来こんなところで道草食わずに荷物を宿に置かなきゃいけないのにこの仕打ち、ほんとにこいつ余計なことしかしないっていう評価はこれでまた確かなものになった。
私も香蓮へついて来るよう促し、キャリーケースの取っ手を伸ばしルイのあとを追おうとしたけれど。
「あの……連絡先、聞いても」
「……はあ」
全く、油断も隙もあったもんじゃない。
「香蓮、ダメ。おいで」
足を止めて須藤へ話しかけようとする香蓮の手を掴むみながら再び東萩の駅へと向かう。
僅かに上空から私たちを見下ろす黒鷲の視線からは、物惜しそうに須藤を見つめ続ける香蓮の姿が映し出されていた。




