第13-4話:知らしめること
「ご苦労だった、これでとりあえずお前の現在の実力は把握できた」
須藤は特に息を切らす様子もなく、余裕綽々なご様子。
もう帰る身支度を済ませたのか、彼の背中にはおそらく刀が巻かれているだろう白布が背負われていた。
「一つ、聞いておきたいことがある。いったい誰に師事していた」
「別に。映画とか観てただけ」
「剣を舐めるな、映画なぞあれはフィクションだ」
冗談が通じていないのか、私のことを見下しながらそう口にする須藤。
言われなくても、映画がフィクションなのは私が一番分かってるっての。
「っていうか、私がここ数年誰とも関わってこなかったことぐらい知ってんじゃないの」
「いや、師なら居ただろう。勘と経験、そして場数という師がな。特に最後の一本は見事だった。あのまま続けていたら最後の最後で俺が一本取られた可能性すらあった」
最後の一本……腹の虫がおさまならなくなった私が竹刀の手元に巻かれていた布を目潰しに使ったら、町田さんに「ルール違反だ」ってブチギレられてその場でやめになったやつか。
「見事って……怒んないのね」
「怒らん。なんせ俺は手合わせ願おうと言っただけで、何も剣道のルールに則って試合を行おうと言ったわけではない」
須藤は背負った刀の肩紐を親指で整えると「自信を持っていい、今は荒削りだが磨けば伸びる」といかにもそれらしいことを口にした。
……なんなの、こいつ。
強いのは認めるけど、性根捻じ曲がってるクセに戦いに対しては真っ直ぐすぎる。
私に負けず劣らずなほど歪だなと思っていると、須藤が小さく息を吸いながらその口を開いた。
「そして……先週の土曜のことだが、本当に申し訳なかった」
「「……!?」」
その言葉に、遠くで何かを紙にまとめていた町田さんすらも目を見開き驚きの表情を浮かべる。
それは私も同じだけど、いちばん驚いたのは内容じゃなくて言葉のニュアンス。
事務的な淡々とした謝罪じゃなくて、本当に自分の行いを悔いた人間にしか出てこないような申し訳なさを孕ませていた。
「感情に任せ、ともに戦うかもしれない同胞に対してあらぬことを言いつけてしまった。あれは俺の罪だ。本当に申し訳なかった」
こいつを処罰したっていう上司はどんな教育をしたんだ、って疑いたくなるぐらいありえない光景。
けれど、足りない。まだ一つ、足りない。
「ルイのことは謝ってくれないのね」
須藤は今、「ともに戦うかもしれない同胞」とわざわざその範囲をしぼった。
こないだルイのことを「あれ」呼びしたことを、私が忘れるわけがない。
案の定、その言葉に対して黙り込む須藤。
そして一つ息を吐きながら剣道場の床を足裏で鳴らしながら、柔剣道場の出口へと翻る。
……そ。それについては謝ってはくれないのね。
なら私の方も「それについてはもう大丈夫」と返す義理はない。
やっぱりこいつは風上に置けない男だ、と再び結論づけたところで。
須藤がその足を止め、背を向けたまま話しかけてくる。
「……俺達異能者は、生物兵器だ。本来人が持ってはいけない力を、その内に抱え込んでいる」
私たちが、生物兵器。
受け入れがたいことではあるけれど、それは薄々感じていた事実。
ありえない跳躍、怪力、そして引き起こされる超常現象の数々。
「でもそれはあんただって一緒でしょ」
けれど、それは何もそれは過去の異能者に限った話じゃない。
異能を理由にルイのことをあれこれ言うんだったら、まずはあんたがその首を切りなさいよと言いたくなる。
なのに須藤は「違うな」と淡々と口にする。僅かに威かすような示唆も込めた上で。
「お前はまだ、過去の異能者の怖さを何も知らない。俺達のような現代の異能者が持たないものをあいつらは持っている。お前もいつかそれを目の当たりにすることになるだろう」




