第13-3話:知らしめること
「ちょっと待ってよ。なんであんたがここにいんのよ」
月曜の座学、火曜の基礎体力訓練。
そして水曜日にやって来た剣術訓練日の初回。
町田さんから体操着に着替えてから来るよう言われた、古びた剣道場らしき建物の前で目にした男へ向けて、心の底からそんな言葉を吐き捨てた。
「……そうか、やはり俺では不満か」
今日は飾り気のないシンプルな紺色の袴を羽織る、銀髪に鋭い目をした男。須藤武蔵。
「えっとね……ということで、剣術の担当は須藤くん、そして補佐が私になりました。よろしくね」
昨日も体力訓練に付き合ってくれていた町田さんも横に見えるけれど、今の瞬間はこの男の方にしか目がいかない。
しかもたちの悪いことに、私はこの男の戦いぶりを見てしまっている。
だから本当は嫌だろうと初対面だろうと教えを乞うべきなのに、喉の奥から「お願いします」の言葉が出てこない。
「……では準備へ入るとしよう」
須藤はそうこぼしながら翻ると、そんなに必要なのかと思わず口にしたくなるほど道場の角に積み上げられた古びた竹刀の山の方へと歩いていく。
その隙に町田さんが私の耳元まで駆け寄って、蚊ほどの声で耳打ちをしてきた。
「ごめんなさいね、大和ちゃん。本当は別の人を探そうとしたんだけど、旅団のリーダーが剣術の教練は絶対須藤にしろって聞かなくて」
町田さん曰く、愛知周辺にいる現代の異能者は私と須藤の二人だけ。
その二人が連携が取れないとなっては問題だから、無理くり私たちを鉢合わせて最低限会話出来るようにしたいらしい。
まあもっとも、私があいつと連携を組む未来なんて来ないわけだけど。
「……別にそれは町田さんのせいじゃないですよ」
「いえ、私も根負けしちゃったところがあるのは確かだから。無線の録音はそのリーダーにも聞いてもらったんだけどね……」
なんて町田さんはこの采配を申し訳なさそうに詫びているけれど、詫びが欲しいのは町田さんじゃなくて須藤の方。
顔を合わせてからここに至るまで、ただの一つの謝罪どころかそれらしき言葉すらない。
「っていうか須藤って、こんなところで私に剣術教えてる暇なんてあるんですか」
「うーんとね……先週の独断専行と大和ちゃんたちへの言動が原因で謹慎処分受けてるから。良くも悪くも暇なんだよね」
はっ。謝罪はないけど処罰は受けたのか、いい気味だ。
まあとりあえずこの場はその話一つで呑み込んでやろうとしたところで、視界の端から一本の棒が飛んでくる。
「ッ……!?」
咄嗟にその棒を掴むと、そこにあったのは若干黒くカビた一本の竹刀。
どこの誰かも分からない中学や名前が彫ってあるけれど、その見た目からしてかなり使い込まれた果ての代物だってことは理解できた。
「お互い言いたいことはあるだろうが、訓練は訓練だ。まずはお前の実力が知りたい、三十本ほど手合わせ願おう」
「!」
ふっ、早速このムカムカを解消するチャンスがやってきたってわけね。
さすがに私が勝ち越すなんてことはないだろうけど、三十本もあれば十本入れることぐらいは叶うはず。
「それじゃあ私が審判をやります、二人とも私がやめと言ったら剣を降ろすように」
町田さんが若干憂いを含ませたニュアンスでそう口にすると共に、私と須藤は十歩ほどの距離で相対する。
私に謝んなかったこと、後悔させてやるんだから。
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「いったた……」
最悪の再会から二時間も経たないほどあと。
私はひりつく肩やこめかみの痛みに耐えながら、町田さんが五本目あたりからタブレットで録音してくれていた打ち合いを、地べたに座りながら見返していた。
全三十本だったところを、私が「もう一回だけ」を四回繰り返し全三十四本、なのに文字通りの全敗。
私が普段武器として使っている無鋒剣と比べて竹刀はリーチが長いし重いという違いはあれど、それだけじゃ説明できない実力差。
しかもこうやって打ち合いを見返してて分かる、剣の間合いに入ってからの須藤はほとんど足を地面から離していない。
そういうスタイルなのか、それとも動く必要がないほど実力差があるのかは分からないけれど、まるでその場に根を張った柳のように動かないのだ。
そして大抵、そこから二度も竹刀がぶつかることなく私が一本取られる。
あまりにも大きすぎる実力差に打ちひしがれていると、須藤が袴の腰紐を結び直しながら私のもとへと歩み寄ってくる。




